案山子

『案山子』

ワシの仕事は

いったい何なのかと

自問自答を繰り返しながら

一日中

田圃の先に連なる山々を

ただ眺めている

「山を歩いてみたいものだよ」


今日も

烏が

ワシを馬鹿にしに来たよ

あいつら

時々

ワシの事を

嘴で突いて

笑ってるんだよ


昔は

ワシが居るだけで

烏たちは

田圃には

近寄らなかったものだよ


あいつらも賢くなったのに

ワシは昔から

変わらない姿で

変わらない場所に

立っている


もう数日で

この辺りも

一斉に稲刈りが始まる


そうすれば

今年の

ワシの役目も終る

役に立ってるのか

分からないけれどな


稲刈りが終われば

雀たちでさえ

ワシを気にせず

落穂を必死に食べるんだ


本当に

ワシの仕事はいったい何なのかね


でもさぁ

この村の

じっちゃんと

ばぁちゃんは

夏前に

大切に俺を作ってくれて

そして

秋の収穫が終わると

この村に雪が降る前に

ワシ達の供養祭をしてくれて

炎とともに

空へと送ってくれるんだ


あの山より

高く高く

上れるように

村をあげて

じっちゃんと

ばぁちゃんの

幸せそうな笑顔で

送ってくれるんだ



そしてまた

夏を前に

村へ

帰ってくるんだ


大好きなこの村へ

帰ってくるんだ


それが

ワシの輪廻ってやつかね



※今の世の中、役に立つかどうかだけで、失われていく景色がある。だけれど心の中に残っている懐かしき景色へ、還りたくなるのはなぜだろう。世の中、本当に大切なものって何なんだろう。心の豊かさを与えてくれるものが、どんどん消えていくのは悲しい。



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