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研究には2種類ある!ってどういうこと?

食事と健康の関係を調べる研究って、2種類に分けることができるんですよね。ひとつは、細胞などを使って実験室で実験をして行う実験研究。そしてもうひとつが、ヒトで調査をして得られたデータを分析して行う疫学研究です。私の専門にしている栄養疫学は、疫学研究として実施されます。

前回のnoteでは、疫学という学問分野がどういうものかをお伝えしました。

疫学とは、たくさんのヒトを調べてデータ収集し、得られたデータから病気の予防などの対策を立てる学問であることはわかってきたかなと思います。さらに、疫学研究を実験研究との対比で見てみると、その目的や特徴、位置づけ、そして重要性の理解がより深まると思います。今回のnoteはそんな視点で、疫学のことを紹介したいと思います。



●実験研究は細胞などで調べる

私はその昔、農学部に通っていましたが(詳細は「「鮭茶漬けでがん予防!?」で方針転換、食品機能学研究者から農水省への道」参照)、そこで食品の機能性を研究するときには、まさに実験研究を行っていました。たとえば、培養しているがん細胞に直接栄養素を添加して、それががん細胞の増殖を抑制するか、といったことを観察するのです。がん細胞の数を数えて、細胞増殖のスピードを測定していました。

がん細胞の増殖が抑えられるとか、がん細胞が死滅して数が減っているとなれば、細胞の中のどの部分に食品成分が結合して、細胞に作用するのか、といったことを追求していきます。細胞の表面に発現しているたんぱく質の量を測定したりすると、そういったことがわかるんです(詳しくはこのくらいにしておきますね)。

まさに「実験室」って感じ(イメージです)


●実験研究ではメカニズムを解明

このように実験研究で明らかになるのは、なぜその栄養素を摂取したときにその現象が起こるのかという「メカニズム」です。「なぜ?」に答えることは、その結果を薬や治療法の開発に使える可能性があるので大切です。とはいえ、実験研究ではその現象が実際にヒトで起こるかどうかはまだ確認はされていなくて、ヒトで同様または類似の現象が起こることは「期待されている」状態なんですよね。調べてみなければわからないですし、そのために実験研究の結果をすぐにヒトに応用しようとするのは時期尚早という感じです。

●疫学研究はヒトで調べる

一方で疫学研究は、日常的に生活しているヒトで調査をします。たくさんのヒトの食べているものと健康状態を調べてデータにして分析するのです。たとえば、注目している栄養素をたくさん摂取している集団は、少なめの摂取量の集団に比べてがんの発症者が少ないかどうか、など、実験研究の結果から期待されるような現象が本当に日常で起こっているか、そしてどのくらい食べている人でその効果が現れるのかを、データ分析によって明らかにしていきます。

調査票に埋もれた日々


●疫学研究では量を解明

このように、疫学研究の目的は、注目している栄養素の健康効果を得るために、どのくらいの「量」を摂取すればよいのかを明らかにすることなのです。疫学研究を実施しても、体の中でどういうメカニズムが生じていてその健康効果が得られたのか、というところまでは解明できません。けれども、疫学研究でどのくらい摂取すれば効果が得られるかが分かれば、その結果を社会で活用することは可能になります。

●研究には順序がある

このように、2種類の研究は調べる対象(実験研究は細胞など、疫学研究はヒト集団)と研究の目的(実験研究はメカニズム解明、疫学研究は効果量の解明)が異なっているんですよね。実験研究の結果からメカニズムが明らかになっただけでは、効果を示す摂取量が明らかになっていないですし、ヒトでその結果が得られるかはわかりません。そのために実験研究の結果の段階で日常生活に取り入れることはできません。その後に、疫学研究が行われて、ヒトで効果が現れることと、必要な量が明らかになって初めて、日常での活用が可能になるわけです。というわけで、実験研究と疫学研究には図1のような順序が必要です。

図1. 実験研究と疫学研究の順序

けれども、実験研究の結果だけで、十分な疫学研究の結果が得られる前に日常生活に活用されている健康情報があれば、それは問題です。もしそうだとしたら、実験研究では効果が認められる量を導くことはできないはずです。量がきちんと示されているか確認することで、不要な情報に振り回されずにすむかもしれません。

●まとめ

実験研究との対比することで、疫学研究の目的や特徴、位置づけ、そして重要性がより鮮明になったでしょうか。実験研究は、対象が細胞などで、メカニズムを解明し「なぜ?」に答える研究です。一方で疫学研究は、対象がヒト集団で、その健康効果が生じる量を解明し「どれくらい?」に答える研究です。どちらも「研究」結果として発表されるので、違いを意識したことがなかったかもしれませんが、このようにまず、対象と目的が異なります。そして、実験研究だけでは日常生活にその結果を活用できる段階にはありません。疫学研究の結果になって初めて、日常生活の中で科学的根拠(エビデンス)として活用できる(文献1)のです。そんな重要な「疫学」研究のこと、ぜひ知ってくださいね。

【参考文献】
1. Jenicek M. J Epidemiol 1997; 7:187-97.



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