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「半年たったんか」から好きな短歌を挙げる 弥生/卯月

 説明しようっ! 半年たったんかとは深水きいろが編集した大部の短歌集だっ! twitterのハッシュタグ「#2019年自分が選ぶ今年上半期の4首」から始まったこの自薦傑作集から、マジでやべえ短歌を厳選・紹介するぞっ!

睦月/如月 編はこちら

ルール

・半年たったんかの作者名をわからない状態にして短歌を読む
・初頭効果を避けるため、読む順番をシャッフルする
・単純接触効果を低減するため、全首を3回以上読む

 …以上のルールで気に入った短歌をリストアップしてみました。作者びいきなし、本気でいいと思った短歌のリストです。

弥生

佐山則葉
 おれの傘を盗んだ人よこの雨が止んだとしてもせめて捨てるな

toron*
 時差を越え夜のはじまる国へゆくわたしが数え終わったひつじ
 シュレッダーばらばらさつじん会社からわたしがひとりいなくなるだけ

久藤さえ
 券売機わきの窓からにょっきりと駅員さんが生えてきて春

宮本背水
 「大人になる」とは賢くなることだつて思つてゐたのに あ、たんぽぽ

鴇巣
 ちょっとだけおっきいほうのコロッケは私がもらうはずだったの乱

山口綴り
 ウミガメのスープしずかに澄みわたり母には父が世界のすべて

瑞坂 菜
 パレットの絵の具を全部混ぜた君知ってることが一つ増えたね

草薙
 遠雷の、あれは笑っているのです あんまりひとが生真面目なので
 睫毛からぽろぽろ春を喪っていくから見てて、みててまばたき

穂積文月
 君はもう愛におぼれて三つ編みを編んでほどいてはまた編んでいる

若枝あらう
 スピードに気をつけましょう死角から春が飛び出すかもしれません
 太陽を見失ひたるひまはりのうつかり殺せさうな首すぢ

友漓ゆりり
 爪切りの銀を見つめる満月へ おやすみ 規則正しい音より

泳二
 この道を進みませんか約束をまもったりやぶったりしながら
 「あの味がよかったね」って知らねえよどの味だよ今さらだ記念日

朝野陽々
 めずらしくきみが煙草を吸った日のだれのかなしみでもない豪雨

あおきぼたん
 押し倒す前に言ってよキングダム最新刊が本棚にある

卯月

笠原楓奏(ふーか)
 要するに死んだ花だろ 花筏見下ろし二人あるき出す春

若旦那(暇の國の王)
 ささやかなわたしのうべなをささげますうべなうべなと泣くあなたには

ともえ夕夏
 真裸になってはじめて思い知る落葉樹らの姿勢のよさを

澪那本気子
 回文の遺書を考えつくまでは生きてみようか(「死ぬし」以外で)

さはらや
 夕焼けに突っ込んでいくタクシーを止められなくてまた二人きり
 図書館で図書館学の分類が0番であること これは恋
 ひかりにも似た雨ですね次々とコンビニの傘たち飛び立って

轟美咲
 クリームはいってないじゃんこのパンあたしみたいあれはあたしのパン
 やんだ 雨のせい やんだ 暑苦しいの やんだ 不在着信 やんだ

ひろうたあいこ
 この人と生きていかない選択ができないくらい海が必要

雀來豆
 ぼくは椅子です。たとへばある馬鹿げた午後にとびきりのフェイクニュースを書きこむときの

岡田奈紀佐
 退職を上司に告げる俺のこときれいに演出するなよ夕陽

宛名
 ただきみが一生思い出し笑いできる世界でありますように

くわい
 たくさんのセックスをへて優しいね むつかしい字を姓にもつ人

水没
 さようなら美徳としての鉄の斧 女神は手指の匂いを嗅いだ

はね
 ボトルレターにあらゆるパスワードを入れて僕がのっとられるまでの日々

久保哲也
 猫が寄るわたしの家の表札はかまぼこ板の疑いがある
 藻に見える現代アートに立ち止まり約十五分 まだ藻にみえる

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