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東京湾浮游

新木場の貯木場を訪れた。

20年ほど前、千葉に住む友人に会いに京葉線に乗っているとき、車窓から見た風景にドキリとした。人工的に囲まれた東京湾海面に穏やかに、だが秩序正しく浮かんでいる無数の材木。そこだけが切りとられた異空間のような不思議な風景だった。以来、何度か夢にもでてきた。理由はわからない。ただ、告白できぬまま終わった片思いのように、ことあるごとに思いだした。

今は東京都内に住む同じ友人に、今回会いにいくことになったとき、久しぶりの東京だから「行きたいとこリスト」作って教えて! と彼女からメッセージが届いた。

実はね、東京湾に浮かんでた材木が気になってるんよ、と告白した。

時間があったら一人で行ってみるかと思っていたのだが、あー私も! と友人が逆告白した。京葉線に乗って通学していた彼女は、毎日車窓から見える不思議な風景がずっと気になっていたという。

同じ風景に恋をした友人と貯木場を訪れた。

行ってみると、太くて短い一本の丸太と、その向こうに数本の材木が浮かんでいるだけだった。

材木店の方と話をすることができた。
国内林業再興のため、東南アジアからの輸入材木を扱わなくなったのが、貯木場の利用が極端に減った理由だそうだ。

「あそこに一本だけ浮かんでる丸太は?」

「当時、引き上げようと思ったんですが、ロープがどこかに引っかかっちゃって。それで40年以上、あのまま浮かんでるんですよ」

丸太は丸太。感情などないとわかってはいるが、つい擬人化してしまう。

君は40年以上もそこで独りで浮かんでいるのか!

ことばにするとナルシスティックに聞こえてしまうから嫌だ。けれども、40年間、貯木場の盛衰を黙って眺めてきた丸太のことを考えずにはいられない。

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