クラッシュに酔いつつ

 You Tubeにアクセスしたのはほんの気まぐれだった。ホテルで本を読むついでにロックでも聴こうと思ってた。かつて部屋の中でロックのCDを掛け捲ってた俺だがもうすっかりロックとは疎遠しなってしまった。どことなくかつて程の興奮を感じなくなってしまったのは熱が冷めたということなのだろう。むしろ今ではサッカーの勝敗の方がよっぽど熱くなることができるのだった。
 もはやホテルでWifi完備は当たり前のようでありながら俺が仕事で泊まるようなビジネスホテルには未だに備わってないことなんて珍しくもない。むしろここには完備されててよかったというとこだ。
 隣の部屋への迷惑を考えてイヤホンを着用。検索したのはクラッシュ。興味を失ったといいつつやっぱり聴いてしまうのはパンクだ。掻きむしるようなギターのカッティングと共に繰り出す荒々しいリズム。そこをしっかりと支える低音。おお、ベースの音がよく聴こえるではないか。ああ、いい。やっぱりベースの音はいい。自分がベーシストだったというのはやっぱりベースの音が好きだったというのを思い出した。やっぱりベースあってこそのサウンドだよな。
 そこでハッと気づかされた。世の中にスマートホンがはびこり電子で音楽を聴くのが定番となってから俺は音楽を聴かなくなってしまった。だけど今耳に鳴り響いてるロックのビートに俺は間違いなくリズムを刻んでいる。それは久々だったから?違う。ベースが聴こえているからだ。そういえばパソコンやスマホから流れる音楽ってベースの音が聴こえない。だから臨場感を感じることができず面白くなくなってしまったのだろう。
 かつて音楽を聴くのはレコードを買ってオーディオもそれなりのものを揃えないといけなかった。それは手軽ではない反面そこには大きな高揚感があった。対して今はどこでも手軽に音楽を手に入れることができる。だがその分面白みはなくなった。便利さはそのものの持つ本質を失わせてしまうのかもしれない。
 何かを手に入れれば何かを失う。もしかしたらまたいつかアナログへの憧れから人々が電子機器を手放す日が来るのだろうか。そんなことはあり得ないと思いながらも誰も先の世の中を知ることっはできないというのも事実なのだった。

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