地蔵になった満員電車のハプニング

 昨日よりは少し遅れて家を出てしまったものの、出社をする時間としては十分余裕があるはずだった。だがホームに人が溢れてる時点でその異常に気付くべきだった。

 車両トラブルにより緊急停車のアナウンス。エンジンに異音がした為に点検したらしい。それにより足止めを喰らう。ここで素直に諦めて別路線に乗って遠回りして行けばよかったものの、階段を上り下りして隣のホームまで移るのが面倒でそのまま待ってた。ただそれは明らかな判断ミスで運転再開した時にはとてもじゃないが乗れるような状態になってなかった。

 文字通りのすし詰め。一旦入ったら最後、そのまま下車するまで身動き一つできそうもない車内。これはたまらんと一本見送ったらその次も、そしてその次も変わらない混雑ぶりである。これはいくら待っても同じと悟り、いい加減意を決して車両に潜り込むのだった。

 もうこれ以上入ってほしくないというオーラを感じながらも自分の身体を食い込ませる。何とか車内へ身体をねじ込んだものの、更にそこから身体を押し込もうとする女の人がいた。

「マジかよ・・・」

 思わず呟いてしまう。とそれが聞こえたらしい。すぐに諦めて一度入れかけた足をホームへと戻していた。どうせ5分とせずに次の電車来るのだからここは見送ってくれよと言葉には出さずに訴えた。

 そしてドアが閉まるとひとまずは落ち着いた。これ以上詰め込まれると圧密死をしてしまう。そうでなくても全方位から来る密着度に身体の自由は効かない。わずか数十分のことであるがそれがどうにも我慢できない。なのでせめてもの対策としてジャンパーのファスナーを降し解放感を得ようとした。

 こうなると今度は降りる方が大変である。前の人が動いてくれない限り外に出ることができない。停車駅で奥から降りようとする人の気配があったら何とか身体を避けて通してやるも決して十分な路とはねってなく、やはり人の圧密をかき分けて進む必要がある。かといって急がないとドアが閉まってしまうので気が急いてしまうものだ。

 俺の目の前を女の人が通った後ろにおっさんが続くとドアを前にしておっさんがその女性を突き飛ばしてしまった。バタッと倒れる女の人。その様子は俺の目の前で起こり呆気にとられるも女性の安否を気遣い車内は一時騒然とした。脇にいたおばさんが外に連れ出す。女性はショックだったのか鳴き声をあげている。ああ、あのおっさん自分のやったこと分かってるのかよ。

 でもその時俺は身動き一つすることができなかった。俺もホームに降りて女性の介抱に務めるべきだったのだろうか。それともおっさんを追いかけるべきだったのだろうか。

 日常の一瞬の出来事って本当に何もできない。それだけにあのおばさんの行動の速さは素晴らしい。その後乗客を乗せた電車は何事もなかったかのように進路を進めていったが、目の前で見た光景の気まずさはいつまで経っても消えることはないのだった。

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