福岡戦~わだかまりのある引き分け

2024年4月13日 アビスパ福岡 vs サンフレッチェ広島 ベスト電気スタジアム


 快晴の福岡。全国的に春の陽気に包まれてシャツ1枚でも過ごせるような気温は絶好の観戦日和とも言える。が、福岡のスタジアムには空席が目立ちどことなく寂しい気もしてくるもののそれを揶揄する気にもならないのはかつて広島もそうだったからだ。どんなに成績を上げようと客が来ないのは危機感を生み、それが勝利への執念となってくる。強く、速く、激しいスタイルはそんなとこから醸し出されたのかもしれない。

 そんな福岡、スタメンを掴みつつある松本泰志にとってレンタルで在籍したチームである。J1昇格の立役者となり中心メンバーの一人として活躍した故に掛ける想いも大きいだろう。そしてもう一人、福岡から移籍してきた志知がベンチに控えている。左サイドのスタメンは東となったもののこちらも虎視眈々と出場を待ってるはずだった。

 そんな中で始まった試合、出だしはサンフレッチェが優位に見えたものの素早い寄せ、激しいチェックはパスワークに歯止めをかけルーズボールとなる場面が増える。そしてそんなボールの奪い合いを福岡が制すると素早い展開を仕掛ける。ワントップに君臨するザヘディが縦横無尽に動きどこからでもボールを呼び込み仕掛けてくる。これにはフィジカルに勝る塩谷でさえ押さえ込むのに苦労する。そして中央に来ると巧みなステップによりシュート。GK大迫が止めるもそのパンチ力は侮れない。たった一人前線にいるだけで攻撃力が2段も3段も上げてしまう。恐ろしい選手であった。

 そんな福岡相手に早めに先制点が欲しいとこでCKを得る。満田のキックから飛び込んだ大橋。ジャストミートしたそのヘディングはファーサイドに流れるも枠を外れる。ああ、どうしてサンフレッチェのセットプレーはここまで入らないんだろう。競り勝つとこまでは行く。だけどそれを枠に入れることができないのだった。

 対する福岡も幾度となくCKの場面を迎える。勢いを持って前に出てくる時、個でサイドを抉ってくるのだがこれがなかなか止めることができずCKに逃げるのがやっとだった。その都度屈強なDFがゴール前まで上がってくるのは脅威であり、クリアする度に安堵のため息をするもののそのセカンドボールは必ず相手ボールとなるので息をつく暇もないのだった。

 そんな中、湯沢が左サイドを駆け上がるとマークについた東は振り切られてしまう。そしてクロスが入るとダイレクトボレー。が、GK大迫セーブ。完全に崩された場面だった。そして同様の場面が再び訪れる。サイドラインに追い込むことで一旦は動きを止めた東だったものの湯沢の巧みなターンに置き去りにされる。ゴールに向かいクロス。そこに入り込んだザヘディ。越道をなぎ倒しヘディングで叩き込んでしまったのだった。

 失点。完全にやられた。まずは東が湯沢との1対1のバトルに敗れ、越道も競り合いに持ち込むことができなかった。マンツーマンでの守備が基本のサンフレッチェは責任の所在が明確になってしまうだけに東の守備での弱さが目についた。志知との交代は早いかもしれない。

 そんな失意の中、サンフレッチェにCKが訪れる。満田のキックに佐々木。GK村上が飛びつく。が、球威が強く押し込まれていたのだった。

 同点。早い時間での振出し。CKからのゴールは今シーズン初めてだった。ヘディングには強い選手が揃っているのに枠に入れられない。これが入るようになれば相手にとって簡単にCKを与えられないという緊張感を生む。それが相手を崩す手がかりになりそうだった。

 その早い同点に活気ついたサンフレッチェは途端にパスワークが冴え渡る。相手の目先、鼻の先で受けワンタッチで返す。食らいつくとそれを逆手に前線のスペースへと出すと速攻の場面となる。ただ、そんなビルドアップに右サイドの越道のところで何度か意図の合わない場面が見られた。その辺がまだ経験の浅さなのかも知れなかった。

 そんな越道は後半途中で東と共に中村、志知との交代を告げられる。両サイド同時の交代だった。志知にとってはいよいよ出番が回ってきた。ところがこの志知、今ひとつ機能しないのである。どことなく消極的で無難なプレーに終始しているような気がした。かつて対戦相手として感じた志知の強くて速いイメージがなくなってしまったことに福岡のサポーターも感じてしまったかも知れないのだった。

 それでも依然としてサンフレッチェの勢いは止まることもなく、攻撃をクリアされてもセカンドボールは回収する。そして際どいボールになると福岡はファール覚悟で突っ込んでくる。そしてその多くはファールの判定になりイエローカードが乱発される。もはやなりふり構っていられないといった様相で完全なる大橋の抜け出しにファールで止められたシーンでは流石にイエローでは軽いような気がした。更に2度目に同様のシーンが出た時には大橋も怒りを抑えられなかった。危ない場面はファールで止めればいい。イエローカードは1回なら退場にならないというルールを逆手に取ったような先方になかなかフィニッシュまで至らないのだった。

 そしてこのまま試合を終えたものの後30分あればゴールを破れた気がする。ある意味90分という時間と違う選手が互い違いにイエローカードをもらっても退場とはならないというルールを上手く使ったのは福岡だった。それには批判もあるだろうがルールを最大限活用したとも言える。そしてザヘディの圧力はすざましかった。特に前半の体力のある時間での存在感は圧倒的だったことを考えると引き分けは妥当とも言えるものかもしれなかった。

 それでもやはり考える。2度あった大橋の抜け出しさえ止められなかったら。ファールで止められなかったら。そんなわだかまりにいつまでも燻っているのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?