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エイプリール・フール+1、サプライズ女子高生 VS スカル怒りの鉄剣 #ppslgr

大型複合商業施設『note』。無数のテナントが複雑怪奇に絡み合った巨大なモールの辺境にひっそりと存在する、パルプ創作酒場『Mexico』。

「お久しぶりです。目明しスカルことスローターカルト、女子高生です」

厚底ブーツにセーラー服の女子高生は、確かに自分をスカルと名乗った。

「「「「「ワッザファック!?」」」」」

ソーシャルディスタンスを保つアクリル板が立ち並んだ店内で、居合わせたパルプスリンガー(冒険活劇小説を好んで書き記すnote創作者たちを称した造語である)たちは驚きの声をハモらせたきり、二の句が継げなかった。

(エッ何あれこわ……急に女子高生とか言われても、反応に困るんだけど)
(いきなりなんなのアレ? ツッコミ待ち?)
(あんなもん、どう見ても突っ込んだら負けだろ! 無視だ無視!)
(どこからどう見たって女子高生だ。あれが本当にスカルだってのか?)
(まっさかー。どーせエイプリールフールの悪ふざけか何かでしょ)
(4月バカは昨日で終わったはずだろうが!)
(んだよ、アタシに言われたって知らないよ!)
(スカルの野郎、小説が書けな過ぎて遂に気が狂っちまったのか?)
(一般通過女子高生を使ったトリック? それとも性転換?)
(一般通過女子高生ってお前な! 俺たちゃ声かけるだけで事案だろが!)
(やはり性転換が女子高生スカル真実か……)
(ぶっ。やっば女子高生スカル真実。パワーワード過ぎてツボに入った)

カウンターやテーブル席で、誰が突っ込み役に回るのかとアイコンタクトで牽制し合いつつ、パルプスリンガー諸氏はヒソヒソ話を交わす。

女子高生スカルはカウンター前に仁王立ちし、驚愕に包まれた一行の様子をぐるりと見渡してドヤ顔で頷き、肩から下げたエナメルバッグとスカートのポケットから垂れ下がった、膨大なカワイイ・ストラップを躍らせる。

「ミルクはねえよ」
「キンッキンに冷えたコロナビール、刳り貫いたドリアンの中に入れて」
「女子高生(ミセイネン)に出す酒はねえよ」

素っ気なくあしらうマスターの言葉に、女子高生スカルがエナメルバッグを開いて手を突っ込む。マスターは何らかの危険な第六感をエスパーし、腰のコルト・フロンティア・リボルバーを引き抜き様にハンマーを起こした。

「バッグのブツを出すんじゃ――」

パァン! と音を立ててカウンターに何かが叩きつけられた。札束だ。

「これで足りるでしょ?」
「ワッザ……本物か?」

困惑したマスターは拳銃を腰に戻し、帯封付きの一万円札の束を手にした。パラパラと指で弾く。続き番号、折り目無し、フレッシュな新札の香り。

「表裏だけが本物の見せ金じゃねえ。透かしも入ってる。何てこった!」
「今日は全部、女子高生スカルの奢りだから! みんな楽しんでって!」

女子高生スカルが声高に叫んだ『奢り』の二文字に、サルーンに集う一同が内緒話を途切れさせた。女子高生スカルはエナメルバッグに手を突っ込んで新札を取り出し、帯封を切っては花咲か爺さんよろしく店内に撒き散らす。

「ぜーんぶおっごりー! イェーイ! みんなイッパイ飲んでってー!」

パルプ酒場『Mexico』の店内に、一万円札が紙吹雪もかくやと舞い踊る! 

「「「「「ウオオオォーッ! スカル最高オオオォーッ!」」」」」

パルプスリンガー諸氏は詮索を止め、歓喜した。金の力は偉大である。

「気に入らねえ。どんな妖術魔術を使ったか知らねえが……」
「マスターは疑ってみるみたいだけど、皆はもうどうでもいいみたいよ?」

女子高生スカルが上目遣いで微笑んで勝ち誇ったように言うと、マスターは大袈裟に肩を竦めて頭を振った。女子高生スカルはスツールに腰を下ろしてポケットからガラケーを引っ張り出す。キラキラシールに彩(デコ)られた眩い筐体を女子の細指が弾き開け、物理ボタンを秒間16連打で打鍵する。

マスターは鼻を鳴らすとドリアンを取り出し、腰から下げたボウイナイフを左右に閃かせてパックリと割り開いた。熟れた臭いを放つ果肉を、ナイフの切っ先で逆円錐型……成形炸薬のような刻み目を入れると、コロナを注いでライムを絞り、径の太いストローを添えて女子高生スカルに手渡した。

「今日はみんな楽しんでって! イェーイ、レッツパーリー!」
「「「「「ヒャッホーッ! レッツパーリィー!」」」」」

舞い踊る一万円札吹雪の狂乱の輪から外れ、店内の片隅のテーブルに座って腕組みする黒尽くめの男・レイヴン。事態を静観する彼に、中世医師姿の男ジョン・Qが、マントを翻して歩み寄る。二人もまたパルプスリンガーだ。

「なんだかのー、レイヴン。ワシャどーも胡散臭くて敵わんでな……」
「何がだ」

レイヴンがぶっきらぼうに問い返すと、ジョンは手にしたアブサングラスをゆったりと揺らし、白濁した水割りアブサンの水面を戸惑うように眺めた。

「あのスカルを自称する女子じゃ。いやそもそも女子なのか。どう思う?」
「どう思うって、見た目通りなんじゃないか。まあ今のところは、だが」
「ハッ、見た目通りかい? 大体、奴さんからは獣の臭いがするんじゃよ」

ジョンは冷笑してテーブルの端に片手を突くと、水割りアブサンをちびりと飲み、口をへの字に曲げて皺を深めた。レイヴンは僅かに片眉を吊り上げてジョンを視線で追い、片手で顎を撫ぜた。ざらついた感触に眉根を寄せる。

「何か悪い事が起きそうな予感がしてならないんじゃがの、ワシは……」
「起きた時は起きた時さ。それまでは好きなように泳がせておけばいい」
「本当に悪い事が起きたらば?」

シュパッ。レイヴンの片手が黒衣の懐に伸びて、黒塗りの折り畳みナイフを素早く振り出した。スパイダルコ・パラミリタリー2だ。高級な粉末鋼製の3インチブレードで、レイヴンは僅かに伸びた髭を無造作に剃り落とす。

「実害が出たら、叩っ切って解決するまでだ」
「パルプスリンガー式にか」

レイヴンはナイフの刃を紙ナプキンで拭いつつ頷き、刃をパチンと畳んだ。

「にっぽーんの! みらいは!」
「「「「「ウォウウォウ! ウォウウォウ!」」」」」
「せっかーいが! うらやむ!」
「「「「「イェイイェイ! イェイイェイ!」」」」」

女子高生スカルと一万円札吹雪を中心に馬鹿騒ぎを始める一同に、ジョンは溜め息がちで眉根を揉み、呆れかえったように頭を振る。レイヴンは卓上のノートPCを睨み、キーボードの打鍵を再開した。我関せずといった風情だ。

「これまたなっつかしい歌ァ歌っとるのう……平成の歌も今や懐メロか」
「行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず、だな」
「レイヴン、本っ当にどうでもよさそうじゃのう」
「どうでもいいな。ただ」
「ただ?」

レイヴンは打鍵の手を止め、視線だけで上目遣いにジョンを見る。それから傍らのジョッキに手を伸ばして、褐色の微炭酸飲料を呷って喉を鳴らした。

「こんなご時世だ、誰しも鬱憤が堪っているんだろう。ガス抜きする口実が欲しいんじゃないか。とはいえそれで病気を感染(うつ)し合ったら……」
「本末転倒もいいとこじゃがのう!」

レイヴンは肩を竦め、ジョッキの半分まで液体を呷って息をついた。

「何飲んでるんじゃそれ? 黒ビール、コーラ、ルートビアにも見えるの」
「クヴァスだ。平たく言えばノンアルコールビール。最近は節制中でな」
「何か聞いたことない飲み物じゃのう」
「凝り性のマスターが、また変わり種を仕入れて来たから飲んでみた」
「旨いのか?」
「表現が難しい微妙な味だ。少し酸味はあるが、美味しいとも言い難い」

レイヴンがそれだけ答えたきりPCの打鍵を再開すると、ジョンはアブサンをちびちび舐めつつ、つまらなそうな顔でサルーンの群衆に目を向けた。

「「「「「ウォーウオ、ウォーウオ、ウォーウオフーフー!」」」」」

場末の居酒屋に屯する大学生めいた雰囲気に、ジョンは半目で口を開けた。

「何か、場の空気が呑まれとるのう。狐に化かされた昔話みたいじゃ……」

ズバーン! スイングドアが勢いよく蹴り開けられ、土埃をまとった人影の輪郭が逆光の下で浮き上がる! 盆踊りめいて輪を成して踊り、騒いでいた群衆が一斉に動きを止めて静まり返り、入口の人影を凝視する。レイヴンとジョンは互いに目を見合わせ、各々が服の下に隠した武器へ手を伸ばした。

ドヤ顔でガラケーを打鍵していた女子高生スカルもまた、突然訪れた静寂に小首を傾げて振り返り、悪事を見られた子供のように表情を強張らせた。

「あッやべッ」

人影が片手に握る細長い物を突き出し、ズドーン! 無言の発砲! 長大な銃身が硝煙を吐いて前後動し、12ゲージの空薬莢を吐き出す。撃ち出された1オンスの鉛のライフルド・スラッグ弾は、女子高生スカルのセーラー服の上体に過たず直撃して全身を滅茶苦茶に歪ませ、四方八方に吹き飛ばした!

「女子高生スカルがー!?」
「吹っ飛んだーッ!?」

否! 吹き飛んだように見えた物は、宙に躍る無数の一万円札の紙吹雪!

「あっぶね、万札でガードしてなきゃ死んでたじゃん!」

女子高生スカルは一万円札吹雪から飛び上がりつつ高速宙返り!

「いくらなんでも、酷く……なぁーぃッ!?」

女子高生スカルは空中での高速スピンから姿勢制御し、セーラーの上着から両手で取り出した二台のスマホを、手裏剣じみて続け様に投擲! 闖入者は延長チューブを装着したオート5散弾銃の銃口で、飛来するスマホを照準!

ズドーンズドーン! ドバーンドバーン! スラグ弾で撃墜されたスマホが木っ端微塵に炸裂した! 只のスマホではない、リチウムポリマー爆弾だ!

「カハーッ!」

闖入者は散弾銃を片手で構え、巻脚絆の軍靴を踏み鳴らして、悠然と店内に歩み入る。その姿は襷掛けした袴で腰には黒塗りの薩摩拵えを差し、肩から12ゲージ弾を大量に納めた革の弾帯(バンダリア)を下げていた。顔を覆うスカルマスクの奥で瞳が輝き、西南戦争の薩軍の亡霊じみて殺気を放つ!

「ネメシスのお出ましってわけか。この分じゃ俺の出る幕はなさそうだな」
「ハァ? 何を言っとるんじゃヌシは」

マントの下の手斧を握りしめるジョンを余所に、レイヴンは勝手に理解してジョッキのクヴァスを呷り、指の骨を鳴らしてPCへと視線を戻した。

「何だ手前はーッ! エイプリールフールはもう終わったはずだろーが!」

誰かの叫びに、闖入者は散弾銃を再装填して一歩踏み出し、銃口を上げた。

「それは、こっちのセリフじゃあああああッ!」

女子高生スカルがニヤッと笑い、手印を結んで真言を詠唱し、回転跳躍。

「まだまだ、こんなもんじゃ終わらないよ!」

茶髪の隙間からは獣耳が、ミニスカートの狭間から、ふさふさの尻尾が!

「「「「「イヤーッ!」」」」」

女子高生スカルがドロンと白煙を上げて分身、着地と同時にスマホ型爆弾を闖入者めがけて投擲する! 闖入者の散弾銃が立て続けに閃いて迎撃!

「外れー!」
「まった外れー!」
「ざーんねん!」
「へっぼーい!」
「ざーこ、ざーこ!」

轟音と共に飛翔するスラグ弾と、衝突して弾けるリチウムポリマー爆弾!

「ブッ! 殺す! チェストオオオオッ!」

闖入者は弾切れを起こした散弾銃を捨てると、薩摩拵の鞘から波平の打刀を引き抜いて、示現流スタイルの大上段に構え猿叫と共に駆け出した!

「うっわわわわ本気で怒ってる!? ばーかばーか!」
「ギョワーッ!」

分身した女子高生スカルたちが、バスケットボール選手めいた身軽な動きで闖入者を挑発しつつ、スマホ手裏剣投擲! 闖入者はその全てを猿叫からの波平スラッシュで叩き切り、ケミカル爆風を潜って女子高生スカルに迫る!

「気違いがカチこんできたぞーッ!」
「発狂頭巾……いや発狂仮面だ! 逃げろーッ!」

ある意味では平常運航の狂乱によって、馬鹿騒ぎの宴の熱も冷め我に返ったパルプスリンガー諸氏が、女子高生と発狂仮面の戦いから逃げ惑って叫ぶ!

「なにぃ!?」

発狂仮面のスカルマスクの奥で、血走った目が見開かれる!

「狂っておるのは……お前たちの方じゃないかああああッ!」

カァ~~~~~~~~~!(ビブラスラップ)

「掴まえれるもんなら掴まえてみー! へっへーんお尻ぺんぺーん!」
「ギョワーッ! ギョワーッ! ギョワアアアアアーッ!」

スマホ手裏剣投擲! 波平スラッシュ! リチウムポリマー爆発!

「うきゃあああああッ!」

波平の刃の餌食となった女子高生スカルの一人が、白煙を放ち虚空に還る!

「おうおうおう派手にやりおるわい。正体は化け狐か化け狸か」
「とすると、あそこで暴れ回ってるヤツは本物のスカル、ってことだな」
「恐ろしいのう。何も八つ墓村スタイルで出てこなくとも良いものを」
「相手の妙ちきりん女子高生も、ナルトのパクリだから同レベルだろう」
「結構、辛口じゃな……」

割と安全地帯であるサルーンの片隅で観戦するレイヴンとジョンを余所に、女子高生スカルと発狂仮面スカルは店内を所狭しと駆け回り、斬撃と爆発で丁々発止の戦いを繰り広げる。影分身からのスマホ手裏剣投擲で数の優位を有しているように見えた女子高生スカルは、発狂仮面スカルの負傷を顧みぬ示現流突撃からの虱潰しの斬撃で、瞬く間に分身の残機を減らしていた。

「ちょ、ちょまっままま! 待った待った! 無敵なんてずるいじゃん!」
「お前を殺す! ギョワーッ! ギョワーッ!」
「そんな怒んないでよ! ちょっとヒッチハイクして、昏睡強盗して車ごと東京湾に沈めただけじゃん! 生きてるんだから結果オーライじゃん!」
「この目明しスカル、一生の不覚! 貴様だけは許さん! ギョワーッ!」
「うわあああはあああん! 東京こわいよおおおお母ちゃああああん!」

波平スラッシュ! 最後の一体の分身を切断! 女子高生スカルを壁の隅に追い詰める! 発狂仮面スカルは瞳を爛々と輝かせ、波平を振りかざす!

「ちょ、ちょーまままッ、待ったスカルちゃんよ。相手は女の子ゾ?」

緑ツナギの上半身をはだけた快活な女性・サカキが思わず割って入る!

「思い直して、スカル! 悪戯好きで世間知らずな可愛い妖怪なんだよ!」

更に割って入って力説する、眼鏡にゆるカジュアルの青年・モモノ!

「どうか話を聞いてあげて、スカル。何か訳があるのよ……何か重大な」

更に割って入って諭す、つややかな黒髪の女性・無銘!

「面白そうな流れだから俺も入っていい? てか高粱酒でも飲む?」

理由もなく、清代ころの中国民族衣装をまとった男・ホイズゥが割り込む!

「黙れ。勘違いしてるみたいだから言っとくが、こいつ女じゃなくて男だ」
「「「「ハァーッ?」」」」

女子高生にしか見えない少年に化けた獣は、ミニスカートの股の間に尻尾を挟んで獣耳を垂らし、握った両手で前足を象ってか弱い表情を浮かべた。

「いや待て……寧ろそれはおいしいッ!」
「男の子でも全然イケる!」
「悔しいけど、それはちょっと認めざるを得ないわね……」
「♂でも♀でもどっちでもいいけど。KILLの? KILLないの? どっち?」
「ええい、グチグチと横から五月蠅い外野どもめ……」
「隙ありッ! にーぎりっぺ!」

追い込まれたかに見えた女子高生スカルは、ブッと屁をこいて片手で握ると飛び上がり、発狂仮面スカルの顔面に握りっ屁を投擲しつつ、肩に手をかけ跳び箱のごとく飛び越しては、呆気に取られる面々を尻目に遁走した。

「ギョワーッ! 目がーッ! 目がーッ!」

獣の屁はすっごく臭く、目に染みる! 目潰しを食らった発狂仮面スカルは矢鱈滅多と波平スラッシュ! サカキとモモノと無銘とホイズゥは狼狽して飛び下がり、危うく精肉所のごとく切り刻まれる寸前に離脱した!

「ヒョアーッ、ああああぶなーっい!?」
「スカルがキレたーッ! 切られるのはこっちだって、誰ウマーッ!?」
「キャーッ!? ちょっちょま、正気に戻ってスカルー!」
「あっぶねーお前! 周りも見ないでダンピラぶん回すんじゃねえよ!」

スカルは波平を手荒く足元に放り捨て、着物の裾でゴシゴシと目を擦った!

「逃げるが勝ちってねー! バイバイキーン! まった遊んでねーッ!」

酒場の入口めがけて逃げつつ、女子高生スカルが背後を振り返り、最後まで小憎たらしい口調でなおも発狂仮面スカルを挑発する! 彼女の目に入った発狂仮面スカルは、使い捨てロケット榴弾発射機・M72 LAWを構えていた!

「そんなモンどこに隠し持ってたんだよ!」

ホイズゥの冷静な指摘を無視しつつ、スカルは発射機のチューブを伸ばして肩に担ぎ、片脚を床に投げ出してもう片方の立膝の踵に腰を下ろした。

かの有名なデスペラードのかの有名なアレである!

「問答無用おおおおお! ギョワアアアアアーッ!」

ボタンをクリック! ロケット発射! サカキとモモノと無銘とホイズゥがケツを撒いて逃げ惑う中、バックブラストが壁に反射して何か色々大変だ!

「ホンギャアアアアアー!?」

女子高生スカルの背中に66mm焼夷ロケット弾が直撃し、ナパーム爆発!

吹き抜ける爆風に抱かれて、ボロ雑巾のような人型の何かがスイングドアを跳ね飛ばしてまろび出たきり、パルプ酒場『Mexico』に静寂が戻った。

「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……」

発狂仮面こと本物の目明しスカルが発射機の撃ち殻を投げ捨てると、傍らに転がっていた波平の打刀を拾い上げ、傷の無いことを確かめて鞘に納めた。

「ア、ア、アアアアーッ! 一万円札がーッ!」

パルプスリンガーの誰かが足元に散らばる紙幣を掬い、叫んだ。いやそれはもはや新券の一万円札などではない、ただの大量の木の葉であった。

「こんな結末じゃねえかと思ってたんだよ、俺は……」

マスターは頭痛のするような面持ちで、目頭を揉んで深い溜め息を吐いた。

「あーあーしっちゃっかめっちゃかじゃのう。ワシ、もう帰るわ」
「お疲れさん」

三十六計逃げるにしかず、面倒を嫌ったジョンが先手を打ってサルーンから逃げ出そうとレイヴンに一声かけていた頃、酒場の外に近づく人影あり。

「これは、人……それとも動物……? 誰がこんな酷いことを」

店先に転がった黒焦げボロ雑巾物体の前で、錫杖を携えた屈強なる修験者がおもむろに腰を下ろした。修験者は複雑な手印を結び、女子高生スカルよりずっと流暢に真言を詠唱して、黒焦げボロ雑巾物体へと両手を翳した。

修験者の両手に超自然の閃光が宿り……黒焦げボロ雑巾物体に生命力注入!

「もう大丈夫ですよ! 平気ですか?」
「ぷっはー! 生き返った! おじさんありがとう!」
「お安いご様子ですとも! あとおじさんではなくお兄さんですよ!」
「チキショーやってくれたな目明しスカルめ。タダじゃ済まさないぞ」
「え……えェ?」

呆気に取られる修験者の前で、女子高生スカルが長く複雑な手印を結びつつ真言を詠唱した。修験者はその内容に眉を顰め、割って入ろうとした瞬間。

「クサ……何だこの臭い、目に染みる!」

女子高生スカルの獣の放屁にたじろいだ隙に、手印と真言の術式が完成!

「あッ……」

修験者の眼前で大爆発! パルプ創作酒場『Mexico』が木っ端微塵に炸裂!

「あッ……あーぁ」

修験者は顔面をピクピク引き攣らせ、眼前の惨状にそう呟くほかなかった。彼が呆気に取られている間に、女子高生スカルは逃げおおせたのだった。

「ぼく、何か悪いことでもしましたか?」

彼の行者服の腰紐に、キラリと輝く一両の金貨が挟まれていた。


【エイプリール・フール+1、サプライズ女子高生 VS スカル怒りの鉄剣 #ppslgr  おわり】


――――――――――


今作は遊行剣禅様の作品『パルプスリンガーズ』の二次創作です。

素浪汰 狩人の過去のパルプスリンガーズ二次創作

【おことわり】
今作は一部の要素において、集団幻覚『♯発狂頭巾』の文脈を引用して書いておりますが、発狂頭巾と直接関連性のある物語ではありません。

混ぜるな危険。怒られが発生したら自重します。それではごきげんよう!


From: slaughtercult
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