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ギター雑学③ FENDER製品のBlondeについて

 それほど重要ではないが知っておいて損は無い、ギター系弦楽器の成り立ちに由来するスペックや形状をご紹介するシリーズの第3回はフェンダー(FENDER)社製エレクトリックギター/ベースの塗装色のひとつ、ブロンド(Blonde)を採り上げたい。





 フェンダー製品の塗装色のうち、限定生産モデルやアーティストシグニチュア等を除く量産モデルに採用の、いわゆるカタログカラーにおいてブロンドは確認されるかぎり最も古くから存在するもののひとつである。

 
 そのブロンドだが、この塗装を施されるギター/ベースのボディ材はアッシュ(ash)である。
 言い換えればブロンドはアッシュ材と組み合わされる塗装色であり、フェンダー製品でブロンドを選択した場合、ボディ材は必ずアッシュである。

 正確には「であった」。近年になってこの不文律‐はさすがに大げさか‐を破る製品が登場したのである。これについては後ほど。





 フェンダーの塗装におけるブロンドの採用は40年代後半まで遡る。
 ボディに音響用の中空部を持たない一枚板を用いたソリッドボディ・エレクトリック・「スパニッシュ」‐立奏用ギターをスティールギターと区別してこう呼んだ‐ギターの

ブロードキャスター(Broadcaster、後のテレキャスター)の生産を開始したときのことである。

 電気回路の優れたデザイナー/エンジニアであるレオ・フェンダーだが、ギター系弦楽器の構成要素である木部の加工についてはそれほどの含蓄は持ち合わせていなかった。

 加えて、これは50年代中盤にフェンダー社に加わったレオの片腕フォレスト・ホワイトも証言しているのだが、レオは生産ラインの整備や管理もあまり得意ではなかったという。


 そのフェンダー社はブロードキャスターの量産に乗り出す際、ボディの塗装に半透明の白色の塗料を用いた。

 これは当時の家具業界で採られた手法だったのだが、流行に合っていたうえに、後述するように製造上の利点があった。
 これが、木部加工のスキルの蓄積が無かったフェンダーにとっては都合が良かった。家具工場での勤務経験がある作業員を雇用して木部の加工を任せられるし、木材や塗料などの資材を低いコストで確保できたからである。





 ブロンドがフェンダーのカタログカラーとして定着した要因は色々とあるが、まずフェンダーの、50年代を通して製品に多用した木材がアッシュ(ash)であったことが大きい。

現在ではエレクトリックギターのボディ材としてすっかりおなじみのアッシュだが、40年代のUSでは家具に多く用いられ、市場の流通量が多かったこともあって確保しやすい材だった。

 

 ここで製材に関するハナシになるが、

上の画像における木口(こぐち/きぐち)がエレクトリックギターの側面にあたる。

 木目の見映えを重視するのであれば継ぎ目の無い、文字どおりの無垢の一枚板をボディに採用したいところだが、いくら流通量の多いアッシュといえどもそのような材はコストがかさんでしまう。


これは家具業界でも無垢材の需要が高いためである。
 カリフォルニアの片田舎の町工場にすぎなかった頃のフェンダーでは木材のコストを出来るかぎり抑えるべく、無理に無垢材を仕入れるのではなく複数の板を横方向に繋ぎ合わせてボディに用いる手法を採った。

 幸いアッシュは木目がかなりはっきりと出る材であり、板どうしの木目を配慮して組み合わせれば、製品となったギター/ベースの表および裏を見ても板の継ぎ目はそれほど目立たない。

だが上の画像を見て判るとおり、木口面は木目がかなりはっきり出てしまう。

 もちろん、木口面を含めたボディの全面をソリッド(塗りつぶし)カラーで塗装してしまえば、少なくとも木目の見映えを気にする必要は無くなる。
 しかし、当時の家具業界では木目が見える塗装に人気が集まっており、同じ板材を加工するエレクトリックギターでも同様に木目が見えたほうが商品としての訴求力が上がるとフェンダーは判断したのであろう。


 ここで改めてブロンドという塗装だが、濃度や重ね塗りの回数などを調整して仕上げる半透明の白色である。
 これは見方を変えれば、どこまで透けてみるか、どこまで木目を隠すかの調整が可能ということであり、しかも複数の色を使い分けるのではなく単一の白い塗料だけで可能ということである。

 そして、お察しいただけるとおりフェンダーでは木口面には木目が見えなくなるまで塗り重ね、ボディの表・裏はアッシュの主張のある木目がうっすら見えるあたりまでの着色に留めることで、板の繋ぎ合わせが目立たないボディが仕上げられたのである。


 木材は金属や樹脂のように工場で生産されるわけではなく生き物の細胞の集合体であり、当然ながら質のばらつきは多少なりとも発生する。
 なかでも

 ふしの存在は厄介なもので、特に木口面に顔を出されると悪目立ちしてしまうのだが、かつてのフェンダーは節の出ている板材でも製品に用い、塗装で隠すことで生産ラインに載せたという。
 他にも木部の、製造時に発生してしまったチップ(欠損)を補修したうえで塗装を塗り重ねた個体も存在が確認されているそうだ。


 もうひとつ、フェンダーが製品に採用した他の木材、とりわけアルダーやマホガニー(個体はごく少数だが)に比べてアッシュはもともと白みがかった材であり、白の塗装色と合わせやすいというメリットもあった。






 フェンダーは50年代終盤あたりから多くの量産機のボディ材にアルダー(alder)を採用する。
 さらにステューデントモデルのような下位製品にはポプラやバスウッド等を用いており、時代や個体での使用木材のバラつきは他社製品と比較してもかなり大きいほうなのだが、そんなフェンダーであってもブロンド~アッシュの組合せは、おそらくテレキャスターの出自もあって長く継承されてきた。

 ところが2020年代、ついにこの伝統から外れた製品が登場したのである。

それがこの Made in Japan Hybrid II Telecasterであり、”US Blonde"カラーであってもボディ材には他の塗装色と同様にアルダーを採用している。

 USブロンドという塗装色は現在のメイド・イン・ジャパンの源流であるフェンダージャパンでも存在していたが、組み合わされるボディ材はアッシュだった。

 この、ブロンド~アルダーの組合せを解禁(?)した経緯や背景については、おそらくだがアッシュ材の流通が減少した、市場価格が高騰した、等が考えられる。
 だが、そういった事情が明かされるのはたいていの場合ずっと後になってからである。今のところはフェンダー公式を含めて何も明かされず、語られもしていないので私もこれ以上の言及は避けておきたい。





 最後にふたつほど。

 まずフェンダーの塗装色におけるブロンドのつづりだが、これは Blonde が正しい。
 一般的にはblondとつづられるが、フェンダーにおけるオフィシャルの表記は今も昔もずっとBlondeである。


 もうひとつ、ギブソン(GIBSON)にも”Blonde”というカタログカラーが存在するが、ギブソンが呼ぶところのブロンドは

フェンダーや他の多くブランドがNaturalと表記する白木(無着色)の塗装である。

 塗装色ひとつとってもギブソンとフェンダーではあれこれと異なるものが多くあり、両社が互いにライヴァル視しているのがうかがえて可笑しくもあるが、これについてはまた別の機会にまとめてみたいと思う。

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