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ギターピックあれこれ

 自分で記事を書いておきながらナンだが、ギターのアクセサリの中で最もレビューが難しく、そのわりに読者の気を惹きにくいものの最上位に君臨するのはピックであろう。

 何故か?答は簡単、

結局は好みの問題

だからである。
 しかも、これは製造者の努力の賜物ではあるが、価格は一枚がだいたい100円+税あたりに落ち着いている。
 たとえ自腹で購入したピックが好みに合わなかったとしても「ま、仕方ないか」で済ませられる範囲の出費でしかないのだから、わざわざ購入前に下調べする人達も少ないわけで、レビューの需要も少ないのである。

 
 その一方で、ギター用アクセサリの中でもこれほどのバリエーションが存在するものも他にない。
 選ぼうと思えばどんなモデルでも手に入るし、迷いだしたら救いようのない泥沼にはまる可能性だってある。ま、そこまで真剣に探すだけの熱意があればのハナシだが…


 私は楽器店での勤務の経験から、市場に流通する製品の大部分を自分で試す機会にも恵まれた。
 さらに言えば製品としての質や量‐安定して供給できているか‐についても、多少なりとも知ることができた。
 今回はその経験をもとにつらつらと書いてみようと思う。プレイヤーの皆さんのピック選びの一助になれば幸いである。


〇素材

□セルロイド

 60年代頃から長く使われているセルロイドだが、後発の人工素材に比べて;
・熱に弱く変形しやすい
・光に当たると劣化する
・燃えやすい
という弱点があり、日本では90年代後半から素材としては製造されていないという。
 この、時代の遺物ともいうべきセルロイドが現在も多くのプレイヤーに選ばれているのであり、その代表格はやはりフェンダー(FENDER)のピックだろう。

 だが、楽器屋店員の経験から言わせていただくとフェンダーのピックは不良品の発生率が非常に高いのである。
 また、最近はどうか分からないが以前は長期に渡って品切れを起こすことが多々あった。
 ピックは消耗品である。質、量ともに安定しないピックのためにあちこちの楽器店を探し回る労力を割きたくはないものである。

 代替品、ではないが楽器店時代に私が見つけたのは

(画像クリックで輸入代理店のHP)

 ジムダンロップ(JIM DUNLOP、以下JD)のジニュイン・セルロイド(Genuine Celluloid)だった。こちらは流通量も安定しており、輸入代理店のモリダイラ楽器の努力もあっていつでも入手できたように記憶している。
 残念ながら形状はティアドロップのみ、厚みや、後述するがエッジの形状等はフェンダーと全く同じというわけにはいかないが、ピックはセルロイド一択という方で、フェンダーのピックの品切れに困った経験がおありであれば、ジェネリックと思っていちどお試しいただくことをお勧めする。

 なお以下では画像クリックでメーカーまたは輸入代理店のHPが開くのでご利用のほどを。


□ナイロン

 人工素材としてはこれほどなじみが深いものも少ないのに、なぜかギター用ピックでは少数派である。
 ナイロンピックのロングセラーといえば

 ヘルコ(ハーコとも、HERCO)のフレックスであろう。私はロリー・ギャラガーの使用で知ったが、いつの時代にも愛用者がいる不思議なモデルである。
 他にはJDのジャズ(Jazz)シリーズにも長くナイロン製がラインアップしており、こちらも根強いファンがついているようだ。

 素材としてはそれほど目新しくもないナイロンだが開発の余地はまだあったようで、ナカノ社のアクセサリブランド、ピックボーイ(PICKBOY)は

「ハイモジュラスナイロン」シリーズのナイロン66というモデルを2000年代に発売した。
 弦との当たりは紛れもなくナイロンなのだが「しなり」感が非常に少なく、硬いピックでガシガシ弾いているのに弦との摩擦を感じにくい。非常にユニークで稀有な演奏感を備えた製品である。
 なおピックボーイからは

 先出のナイロン66に炭素を混ぜ合わせた製品も販売されている。
 炭素由来の硬さとナイロンの滑り感が融合したそのキャラクターはもはや唯一無二、ピックに硬さやしなりの少なさを求めるプレイヤーならば一度お試しいただければと思う。ただし、最初はそのあまりの個性の強さにまず間違いなく面食らうはずだ。


□デルリン

 これはJDにその名を冠したシリーズがあるのでご存じの方も多いだろう。

 いちおう記しておくと、デルリンとは素材の名である。ベアリングに用いられるぐらいに摩擦係数が低く、その特性からギターではナット材に用いられることもある。
 摩擦係数の低さはピックの弾き心地にも表れる。JDのデルリンを愛用している皆さんはその感触がいかにユニークかよくご存じだろう。

 素材のデルリンを前面に出しているのがJDだけということもあり、JDデルリンとは異なるサラサラの、サテン仕上の製品は存在しないと思われがちだが、インチューン(IN TUNE)からは
 

 GrippX-Xというシリーズ名でサテンのデルリンピックが販売されているので興味がある方はぜひ。特に指の汗でピックを落としてしまいがちなプレイヤーにはありがたい存在ではないだろうか。



〇エッジ形状

 ピックを選ぶ際に見落としがちなのが外周の、特に弦とヒットさせるエッジ(縁)の形状である。
 エッジを丸く仕上げたピックは弦をヒットした際の感触が滑らかになる。逆に、ある程度スクエアなエッジのピックはヒット時に固く鋭いタッチが指に伝わる。

 理屈でいえば細かく早いフレーズを弾くにはスクエアなエッジのピックが向いていることになる。
 一方、丸めのエッジではある程度ピックが消耗しても演奏感に変化が出にくい。結果として、

  このような編摩耗を起こしたピックでもそれほど違和感なくプレイできる…のだが、エッジがいびつなピックでの演奏は弦のアタック感にズレが生じやすいのでお勧めできない。潔くピックを交換したほうがいい。

 
 このエッジの形状による差に気づくと、素材や全体の形状が似通っているのに実際に使ってみるとしっくりこないピックがあることに納得がいくはずだ。ギター歴の長い方であれば一回ぐらいは経験があるかと思う。
 先に挙げたJDのセルロイドピックにしても、フェンダーに慣れているプレイヤーが何かしらの違和感を持ったとしても不思議なことではない。
 
 困ったことに、品質の安定しないピックだとこのエッジの形状にもかなりのばらつきが出るのである。
 こればかりはメーカーの製品管理能力を信じるしかないのだが、かりに感触が好みに合わないピックがあったとしてもすぐに捨てたり人に譲ったりせず、しばらく手元に置いておくことをお勧めする。
 そうして自分にとってのイマイチなピックが一定数溜まると、その中の傾向がおのずと見えてくる。それを踏まえて新しいピックを探すようにするとピック選びの精度が上がるだろう。



〇特殊素材

□金属製ピック

 樹脂製ピックのユーザーには馴染みが無いかもしれないが、金属製ピックというものも一定の需要があるようで、JDやクレイトンからも製品がリリースされている。

 近年でいえばBWC(BIG WEST CREATION)だろうか。2018年にはグッドデザイン賞を受賞したというのだから凄いことである。
 同ブランドは同一形状のピックにステンレスやチタン、銅といった素材によるバリエーションを展開することで金属製ピックのビギナー(?)の敷居を下げることに成功している。
 また、メッシュ形状の薄いピックも開発しており、

弦にヒットした際の硬質なタッチと、樹脂を思わせるしなり感を両立させることにも成功している。

 これから金属製のピックにトライしてみようというプレイヤーもいらっしゃるかもしれないが、元楽器屋店員、ついでに修理調整担当者だった私からはいくつかお伝えしておきたいことがある。
・ピックによる塗装やピックガード、ピックアップカバーのキズの入り方が凄まじいことになる。薄いとはいえ金属片で楽器の表面をガシガシと擦るわけだから、覚悟を決めておくこと。
・ピックの、特に弦が当たるエッジにキズが入るとピックとして使い物にならなくなる。キズはそのまま弦を削るヤスリの歯と化してしまい、弦切れが多発するからだ。
・これはあまり見かけないケースだが、素材によっては長く使用しているうちにエッジが弦に負けて削れてしまい、上記と同様にヤスリと化してしまう可能性がある。この場合は金属用ヤスリや研磨剤を使って磨きなおすことで回復するはずなのだが、精度の要求される作業でありDIYでは難しいだろう。そこまでの手間をかけてまで使い続けるか、買い替えるかの判断を迫られるはずだ。

□木材や骨材

 金属製と同じく、昔から常に一定数が市場に流通している。
 木材でいえばローズウッドやエボニー等の黒檀の系統の木材、骨材は水牛や牛、羊の骨である。
 ユーザーの皆さんには申し訳ないのだが、化学合成で生産できる人工樹脂に比べれば木材も骨材も品質がバラつきがあって安定しないし、エッジを薄く仕上げることが出来ないこともあり、ギター用ピックとしては不適だと思う。
 思いつきや話のネタとして使ってみるのなら、と思うのだが、樹脂製ピックの5~10倍近い価格もあって、私にはどうにも手が出ない。
 さらに言えばエッジの破損により使い物にならなくなるという、金属製ピックと同じ弱点を抱えていることもあり、やはり、強くはお勧めできない。



〇迷ったときは

 プレイヤーとしてのキャリアがまだ浅く、かつ頼りになるアドヴァイザーが周囲に居ない場合は;

・今まで使ってきたピックと形状や、指ではじいたときの柔らかさ、判明していれば素材、等が出来るだけ近い製品を探す
・弦をヒットしたときの感触やピッキングの強弱のつけやすさに注意して弾き続ける
・エッジの消耗や変形がどれくらいのペースで進行するかを何となくでもいいので把握しておく
・可能であれば同一製品のゲージ(厚み)が異なるものを一枚ずつでもいいので合わせて購入しておき、自分の好みに合うものを探してみる

という流れを繰り返せば、時間がかかるかもしれないが自分の理想に近いピックを見つけられるだろう。

 最後に、素材にしろ形状にしろ、あまりにも特殊すぎて入手が難しいピックには極力手を出さないようにしてほしい。
 特殊なピックに慣れてしまうと、そのピックが入手できなくなったときに演奏感が大きく狂ってしまって困るからである。
 メインに据えるのであればどこの楽器店でも簡単に見つかる製品のほうが有利である。これはピックもも同じである。



 ちなみに私はここ15年近くJDのトーテックスを使っている。ギターではスタンダード(ティアドロップ)の.88(緑)、ベースではトライアングルの1.14(紫)に固定されており、ほとんど変わることがない。
 知人の勧めや、楽器屋時代の余得で新製品や特殊素材を用いたものを試すこともあるし、それはそれで発見も感動もあるのだが、自腹を切って購入するのは今なおトーテックスである。

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