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プラグはプラグ それゆえ重要

釣道具などというものは実力がなければどうしようもない品で、それに釣師にはいろいろと厄介な気質があり、頑迷をきわめている反面、いい道具なら一も二もなくとびつくという面がある。また道具のよしあしを見極めることにかけては、日頃どんなケチンボでもコウと狙いをつけた釣道具には呆れるほどの大金を投じて悔いない(以下略)

開高健 『フィッシュ オン』(新潮文庫)

 いきなりの引用で恐縮だが、1971年発行の釣り紀行にある開高健の表現である。

 1969年にスウェーデンのスヴェングスタにある釣具メーカー、アブ(ABU)社のゲストハウスに招かれた作家は

私が別荘に招かれたから宣伝しているのだろうと思われると苦しい。

(先に同じ)

 と断ったうえで、この後にアブ製品の優秀さをほめたたえているのだが、同じ「厄介な気質」はミュージシャン/プレイヤーにもあてはまる。

 
 楽器本体はもちろん、ギター系弦楽器であれば弦やピック、スライドバー、ギターケーブルのアクセサリ類は、個人差はあれ「固定」‐お気に入りの製品が決まったらその先ずっと使い続け、よほどのことがない限り他へ鞍替えしなくなるのではないだろうか。

 

 かつて楽器屋で働き多くの商品を試した私にも、長く使い続けて絶大な信頼を寄せている製品があるのと同時に、ごくたまにそこから離れて新しい製品を試しては色々と比較検討することがある。
 そのひとつが今回採り上げるプラグ、正確にはモノラル・フォーンプラグである。



 分かりにくい画像で恐縮だが、アンフェノールAMPHENOL)社のプラグ、JM2Pを入手したのである。
 
 私がアンフェノールの名を知ったのは数年前、現在も愛用するMXRのギターケーブル、DCIWのひとつ前に選んだ

DCIXのプラグがきっかけだった。
 勧めてくれたお店の店員さんは、このプラグはアンフェノールではないかとおっしゃる。
 そういえば他社のギターケーブルでも見かけたような気が…などと考えながら、そのときはそれほど気にも留めなかった。

 やがて、現在メインで使う

 DCIWにも同型のプラグが採用されていること、そして、仕事で使ううえでの最も重要な接触不良の起きにくさが際立っていることに気づいた。

 しかし、これは私のケーブルの扱いがラフなこともあるのだが、プラグ内のホットの端子のハンダ付けが割れて外れてしまい音が出なくなるというトラブルに何度か見舞われた。

 こうして、少なくともギター側のプラグは交換する必要に迫られたというわけである。



 改めてアンフェノールJM2Pだが、ケーブル側に配された樹脂製のブーツが分厚いこともあって、ケーブルを横方向に引っ張った際の力が分散されることでプラグ内の変形やねじれ、それに起因する断線が起きにくくなっている。

 プラグのハウジング(ケーシングとも、外殻)はガッチリしているのにケーブルとの「当たり」の柔らかさに対しては配慮が足りていない製品は意外に多いものだし、日本の市場ではおなじみの

カナレ(CANARE)のプラグにはケーブル側にスプリングが配されていることを思い出す方もおられるだろう。


 私が楽器屋で働いていた頃に店で販売していたプラグといえば

スイッチクラフトSWITCHCRAFT)のこのプラグだった。280という型番を知らなくても通じるくらいに普及していたし、スリーブの短い他モデルはカスタム・オーディオ・ジャパンが自社のパッチケーブルに採り入れるまで顧みられることはほとんどなかったように思う。

 やがてモンスターケーブルに代表される「プレミアム」ケーブル路線の製品の登場に伴ってプラグの耐久性や接触の安定性が取りざたされるようになり、プロヴィデンスのように自社独自開発のプラグを採用する製品も現れた。

 

 それらをひと通り試し、またお客様からの破損や不良などのお叱りをいただきながら、私が最終的に信頼を置くようなったのは

ノイトリック(NEUTRIK)NP2Xである。
 
 自作派の方であればご存じだと思うが、まずこのプラグ、ハウジングが非常に頑丈である。
 内側のハンダ付け部を外からの衝撃から守るうえでハウジングが硬く肉厚であることは大きなメリットになる。
 
 先のアンフェノールJM2P同様にこのNP2Xもケーブル側に樹脂製のブーツを配しており、ケーブルの当たりが柔らかくなっている。

 私の経験ではギターの状態をチェックする際の、ジャックの変形や錆びによる接触不良の見落としが最も少ないのがノイトリックである。

 また、長期の使用で破損や変形、ハンダ付けの割れが発生する確率が最も低いのもノイトリックである。

 この、耐久試験のごとき長期使用であえなく脱落していくプラグが意外に多いのである。先に名の出たスイッチクラフト280もノイトリックNP2Xほど長持ちしてくれなかった。

 おそらく、移動や抜き差しの頻度が段違いに少ないオーディオ/音響機器であればそれほど問題ないのだろうが、ライヴハウスや練習用スタジオに持っていく個人用のエレクトリックギター/ベース/アコースティックギター用ケーブルに使うべきプラグとして私が最も信頼を置くのはノイトリックであり、この先もそう簡単には変わりそうにない。

 もうひとつ、ノイトリックNPシリーズは私が知るかぎりでも20年近いロングセラーであり、しかも流通数も多い。
 ジャックに比べれば寿命は長いほうとはいえ、プラグもまた結局は消耗品である。たとえ優秀な製品であっても流通量が少なく高額だったりするのは、ことプラグにとっては美点とはいえない。
 かつては楽器メーカーや輸入会社の取扱いが少なく都市部のオーディオ機器専門店まで探しに行かなければならなかったノイトリックが、先述のようにネット通販の普及でずいぶんと入手しやすくなっていることは時代の追い風であり、ミュージシャンにとっても幸せなことである。



 最後に蛇足だが、私はプラグによる音質の「改善」は無いと思っている。
 若干の「変化」はあるかもしれないが、それとて他の要素であっさりと相殺される程度のことだ。
 具体的にはエフェクトペダルのスルー/バッファードパイパス、弦のゲージや鮮度、弦とピックアップとの距離などであり、それらに比べたらプラグは電気信号の通過点のひとつにすぎない。もちろん、プラグじたいに信号を増幅する能力は付加されていない。
 
 私がプラグに求めるのは耐久性と確実な接続、安定した品質と流通量である。ライヴや練習などの実戦の場に持ち出すことを前提でギターケーブルを手掛ける自作派の皆さんなら私の志向も理解していただけるものと思う。

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