見出し画像

ギターケーブルの実力派 ORB J7 Pro

 2023年現在ではオーブ(ORB)の製品は家電店の、とりわけオーディオ機器売場で見かけたという方のほうが多数を占めるものと思う。
 今回はそのオーブが手掛けるギター/ベース用ケーブル、J7プロ(以下J7P)をご紹介したい。

(画面クリックでHP)





 現在はヘッドフォン用の交換用ケーブル、いわゆるリケーブルの需要に応える製品を多くラインアップするオーブだが、2010年代初頭にはギター/ベース用ケーブルをすでにリリースしていた。
 私が当時勤めていた楽器店に、取引会社の伝手だといって製品が並べられたのでよく憶えているのである。

 モンスターケーブル(MONSTER CABLE)が先駆けとなって90年代末に起きた「ハイエンド」ケーブルのブームも2010年代を迎えるころにはかなり下火になっていた。
 私が記憶するかぎりJ7はオーブにとって初の楽器用ケーブルであり、1mで諭吉(今後は栄一か)越えの価格帯にあるJ7のことを当時の私は遅れてきたハイエンドケーブルの一派と思っていた。

 サンプル品を試したときは
○音のエッジが立たず地味で、
○どちらかといえば暗めの音像に仕上がる
ケーブルであるという印象を受けた。いずれも当時の私の好みには合わず、自前での購入には至らなかった。



 あれから10年以上が経った現在であれば、現行品J7Pの魅力‐美質というべきか、他製品には無い強みが有ることを実感する。

 音質以外の点について先に触れておくと、線材に適度の柔軟性があり巻きグセがつきにくいのは実用面でのメリットとなる。

ジャケット(外装)にはナイロンメッシュを採用しており踏みつけやねじれによる断線に対する耐性を強化している。汚れが付着しにくいというメリットもある。



 ここからはケーブルの音質という抽象極まりないモノのハナシになるので、例えとして今回は

フォント(字体)を挙げたい。

 noteのような文章主体のサイトをご覧の皆さまであれば、同じ内容の文章でもフォントが変わると印象も大きく変わることをお分かりいただけると思う。

 ギタリスト/ベーシストが自身の楽器を繋いで鳴らし、その音をオーディエンスに聴かせる、または録音メディアに残すまでのあいだの経路を思いうかべていただければ、その間に発生する音色の変化が、プレイヤーによってはフォントの変化のように感じられる。

 自分が書いたはずの文章がフォントによってまるで違った「字面」になってしまうように、自分が弾いて鳴らしたはずの音がまるで違った質感に変わってしまう‐そのような変化だ。 


 以前であればそういう音色変化も「それも含めての音だから」、意訳すれば「気にするな」で済ませていた。
 それが、90年代にはPCによるミュージシャン自身による録音編集の発達が大幅に進んだことで、エンドユーザーであるギタリスト/ベーシストによる音質の、トータルコントロールと呼ぶべきだろうか、変化の抑制というものに需要が生まれた‐私はそう推測している。


 改めてオーブJ7Pだが、
①自分の鳴らす音を細部まできっちりと聴きとりたい
②アンプや録音メディアからの出音まで可能なかぎり音色を整えたい
③明瞭で強弱のメリハリがはっきりと聴きとれる音像に仕上げたい

と望むプレイヤーにとっては非常に心強いケーブルである。
 特に③については再生音域、いわゆるレンジを広くとっているため、イコライザによる特定の音域のブーストにもしっかりと対応できる。


 先のフォントの例えを使えば、掠れや傾き、ズレが発生せず、もちろん字体はそのままでサイズが大きくなったり小さくなったりする感覚に近い。スマホの画面でのズーム操作に慣れている現在の皆さまであればご理解いただけるものと思う。

 ①について補足すると、これは特にベースを鳴らしていて気づくことなのだが;
低音弦を弾いていても高次倍音(オーヴァートーン)が
高音弦を弾いていても低次倍音(アンダートーン)が
楽器ではけっこうな割合で響いているものである。
 この倍音をロスなく伝達するには、ケーブルにも一定以上の実力が求められる。異論は多いが少なくとも私はそう思っている。
 具体的には線材の素材や構造であり、その点でオーディオ機器の開発を手掛けるオーブには相当のアドヴァンティッジがあるものと思う。





 2023年の今になって改めてオーブJ7Pを採り上げる気になったのはもうひとつ理由がある。
 2010年代以降に世に出てきたギターケーブルを試す機会が幾度かあったが、私の耳には
①上のレンジは広い
②低音が細い

ように聴こえる。

 ①についてはやはり録音環境の変化が大きいのであろう。
 2000年代初頭であればCDが主流だった音源再生が現在では動画SNSやダウンロードなどのネット上のデジタルデータの比率が上がったし、PCによる個人録音及び編集は20年前とは比較にならないほど浸透した。
 高精細で歪みが少ないデジタルデータの音像をふまえれば上のレンジ‐高音域、ギターアンプのイコライザのツマミでいえばトレブル、およびその上のプレゼンスの音域まできっちりと伝達する特性がギターケーブルには必須となったのも不思議ではない。
 一方でベースアンプや、オーディオ機器でいえばサブウーファーが必要な音域はあまり重視されなくなったのだろうか、それとも音像をシャープに保つためだろうか、低音の比重がずいぶんと下がったように思う。


 レコーディングスタジオでの、プロフェッショナルな水準の機材を用いての録音や、ある程度の規模の会場での演奏を想定したギター/ベースのセッティング、しかも可能なかぎり「純粋」な音を鳴らすためのツールとしてのケーブルを選ぶのであればオーブJ7Pは非常に有力な候補になる。

 ただし、その「純粋」さはミュージシャンの理想に近いという意味であり、オーディオ的にピュアな‐劣化や色付けが少ない、またはゼロであるという意味ではない。電気信号の機械的な伝達という特性に比重を大きくとるならば他に有力な候補となりえる製品はいくつか有る。
 オーブJ7Pは自身の鳴らす音に「自覚的」なミュージシャンに選ばれるべきケーブルという表現がふさわしい。

 特にローB弦を備えたエレクトリックベースやエレクトリック・アップライトベースにはとても使いでのあるケーブルだと思う。
 流通量は多いほうでないし知名度もそう高くはないが、ケーブル選びで迷っている方である程度の予算を割けるのならばぜひ候補に入れておくようお勧めする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?