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ギター業界の隠語・略称あれこれ② GIBSON&FENDER編

 中古ギター、その中でも希少価値が認められるヴィンテージギターに関する隠語や略称で、私が楽器屋店員時代によく使われたものを中心にご紹介するシリーズ第2弾、今回はギブソン(GIBSON)とフェンダー(FENDER)に関するものを列挙していく。


○59コンバージョン('59 conversion)

 前回の記事でも取り上げた、特定の仕様の個体へ「寄せた」徹底的な改造であるコンバージョンだが、ギブソンでは1959年製レスポールへのコンバージョンが圧倒的に多い。

なかにはレスポールジュニアをベースにして59年型レスポールに仕立ててしまったコンバージョンものまで存在するというから、もう何がなんだか… 

○バースト('Burst)

 ヴィンテージギターの世界でバーストといえばタイヤの破裂ではなく、チェリーサンバースト/ハムバッカーの組合せが定着した1958~1960年製のレスポール(スタンダード)のことを指す。
 つまり、それだけ別格扱いということ。

こういう本まで売られている



○ミッキーマウス・イヤー(Mickey mouse ear)

 ES-335のスペックのひとつで、丸く大ぶりだった1950年代末のカッタウェイのホーン(ツノ)の形状のこと。

すぐ後の60年代には

やや尖った形状に変更される。
 初期型ES-335では他にブリッジまで伸びた長めのピックガード、通称ロングガードも特徴のひとつとして知られている。(先ほどの画像を参照)



○カラマズー/ナッシュヴィル/メンフィス

(Kalamazoo/Nashville/Memphis)
 ギブソンの工場が有る(有った)都市。
 ミシガン州カラマズー:1894~1984年
 テネシー州ナッシュヴィル:1984年~現在
 テネシー州メンフィス:2000~2018年
 転じて、ギターの製造時期の大まかな区切りとして使われる。
 ES-335のように初期ナッシュヴィル期とメンフィス期で価値が大きく変わるものもある。

 なおアコースティックギターについてはナッシュヴィルの高温多湿な気候が木材の管理に向いていないと判断され、1989年にモンタナ州ボーズマンに専門工場を設立。現在も製造を続けている。



○カラマズー(ブランド)(KALAMAZOO)

 1965年から約5年間ギブソンが展開した廉価ブランド。もちろん工場のある都市の名にちなむ。

KG-2

 


○ロケットケース

 70年代末頃より使われ始めた樹脂製のギブソン純正ハードケースのこと。



○JS、JP、RR、SL、etc.

 いずれも著名なギタリストのイニシャルであり、その愛器の仕様に準じていることを示す。
 例えばエボニーブラックのレスポール・カスタム、またはそれに準じた仕様の

Edwards E-LP-130CD

このようなモデルの型番に「JS」とあれば、それはジョン・サイクス(John Sykes)を意味している。
 JP:ジミー・ペイジ
 RR:ランディ・ローズ
 SL:スラッシュ
 レスポールだけでもこれぐらいは当たり前のように用いられる。
 限定モデルやコンバージョンものを見かけた際は商品説明の文言にこのようなイニシャルがこっそりと記載されていないか目を通してみるといい。



○ひとコブ/ふたコブ

  決してラクダのことではなく、ギブソン製品に多く採用されたクルーソン(Kluson)社マシンヘッド、デラックスの仕様のこと。
 ボタン(ツマミ)にある丸い飾り部分がひとつあるのがひとコブで、

飾りがふたつ連なっているほうがふたコブ

クルーソンには他にも背面のブランドロゴの一列→二列という変更も知られている。



○ブラックガード(Black guard)

 初期型テレキャスターを指す。黒いピックガードを純正採用していたことにちなむ。



○レストレ

 ヴィブラートユニット非搭載モデルのこと。トレモロレスの倒置が由来らしいが、最近では英語のハードテイル(hardtail)のほうがとおりがいいかもしれない。
 ただ、フェンダーではオプション扱いだったストラトキャスターのハードテイル仕様のことをあえてレストレと呼ぶ向きもあるとか。



○デイト(date)

 ギターの製造時に部材に記入・捺印される日付。また回路パーツに刻印される製造管理番号も含む。
 フェンダーではネックの製造年月日を示すネックデイトの他に、ピックアップやピックガード、およびそれらと回路パーツをまとめたアセンブリ等にも日付や番号をふっており、それらを解読することもヴィンテージギターの売買に携わる者に求められるスキルのひとつ。
 もっとも、デイトにばかり気をとられて見誤ることもある。




 20年前の2000年代初頭では現在ほどネット通販が普及しておらず、欲しいギターを見つけるためには雑誌に掲載されている楽器店の広告を隅々まで探さなければならなかった。

 できる限り多くの商品を掲載したい販売店は広告の文字数を削るために隠語を多用し、
”バリトラ美麗マホ、ジミー様ドンズバ!”
などと書くものだから、それを
「ボディ表に最高クラスの杢目、裏は木目のきれいに通ったマホガニー、ジミー・ペイジ所有機と完全同一仕様」
と脳内変換しながら読んだものだ。

 楽器屋店員はこの程度は判って当たり前だったのが今思い返すとそら恐ろしく、同時に滑稽である。

 あれから時代は巡り、ヴィンテージギターの市場はかなり落ち着いたものになっている。ネット通販での売買も定着し、ギャンブルめいた要素はグッと減った。
 40代中盤の古狸と化した私はそれがありがたくもあり、ほんの少しだけ淋しくもある。

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