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新たなる実力派 SCHALLER M6 90

 以前にシャーラー(SCHALLER)社のマシンヘッドM6 Vintageについて投稿したことがあった。

 それから数か月の後、このM6 Vintageへの換装を検討する機会が訪れたのだが、なんとM6 Vintgageの生産完了がアナウンスされたのだ。

 残念だが、その後継機種としてカタログに登場したのがM6 90(以下90)である。


 現在のシャーラー社ではM6シリーズに180ならびに135というモデルがラインアップされているが、この数字はボタン(ツマミ)と連結しているシャフトに対しての留めネジのタブの角度にちなんだものであろう。

 同じMの名を引き継ぐのであれば品質は一定の水準をクリアしているはずだ、という希望的観測のもと90を使ってみることにした。

 90の箱の横にあるのは同じくシャーラーの交換用ボタン、スモール/アクリルである。今回はボタン交換による軽量化も併せて試してみることにした。

 

 Vintageを含む過去のM6系とほぼ同寸なので行う加工も全くといっていいほど同じである。ただしヘッドの穴を広げる際には可能なかぎりタイトになるよう、リーマー以外にも丸棒ヤスリを併用した。
 DIY派の中には本業のギターエンジニア顔負けの工具類を揃えておられる方もいらっしゃるが、すでに開けてある穴やキャビティの追加加工というは意外なほど手がかかることも多い。マシンヘッドの取付においては木部の削りすぎや位置のずれは禁物なので、自信が無い場合は潔く修理業者に依頼することをお勧めしておく。


 弦を張って鳴らしてみるとよくわかるが、弦振動のロスがグッと減る。
 若干の誇張をお許しいただければ、弦振動がマシンヘッドに吸収されることなくヘッドへ、ネックへ伝わるのが感覚で分かるのである。
 
 シャーラーがこの90に与えた変更のひとつに、ツバ付きの2段型ワッシャーがある。
 弦を巻き付ける軸、シャフトの揺れやズレが弦振動のロスを引き起こすことを把握していたシャーラーは内部ギアの嚙み合わせの精度を限界まで引き上げてきたが、それにワッシャーの改良を加えることでさらなる安定を狙ったようだ。
 といっても実際に使ってみると、ワッシャーの有無にかかわらずシャフトの揺れやズレ、ぐらつきは最小限に抑えられているのが分かるので、ワッシャーは結局のところ長期の使用に耐えるための、主に外力の影響を減らす意味合いのほうが強いのではないかと想像している。

 
 90は従来のM6系よりもさらに軽量化されているとのことで、グローヴァーのロトマティックこと102の形状に倣ったM6 Vintageと比べれば相当軽くなっているはずだ。
 ロトマティックへの換装によるヘッドストックのヘヴィウェイト化を狙うギタリストにとっては90は軽すぎるということになるのだが、いちど90を使ってみると、弦の巻き上げ機としてのマシンヘッドの精度に驚かされるはずだ。
 それでも、どうしてもロトマティックの重量が欲しい、というのであれば仕方ない、102を選ぶほかあるまい。だが、その精度や耐久性をよく知っている私には90をパスして現行のグローヴァー102を選ぶという判断は、残念ながら最良とは思えない。



 グローヴァー102は長い歴史のあるマシンヘッドなので純正搭載しているギターも多いため、90への換装がもたらすチューニング精度の向上、およびギターの鳴りの変化の恩恵を受けられるギターおよびギタリストも多いはずだ。
 先述のグローヴァーやゴトー等の他社製品に比べれば高額に思えるはずだが、価格どおりの性能を発揮してくれるという点では決して割高ではない。さらに安価で同水準、またはそれ以上の性能を備える製品があるといいのだが、ことシャーラー製品については追走できるライヴァルはほとんど無いのではなかろうか。




 最後にもうひとつ。
 今回とり上げたのは90だが、同じM6にPINというモデルがある。

 これは80年代後半以降にフェンダーがUSA工場製のモダンスペック系モデル、シリーズでいえば
アメリカンスタンダード~アメリカンプロフェッショナル、
アメリカンデラックス~アメリカンエリート~アメリカンウルトラ
の各シリーズに採用したマシンヘッドと互換性を持たせている。

 ヘッドストックへの留めネジを廃し、マシンヘッドから突き出た2本のピンと、対応する木部の穴によりズレを防ぐ構造は今なお少数派であり、必要以上に木部を加工することなく換装できるリプレイスメントパーツはなかなかに貴重である。

 フェンダーの、特にストラトキャスターであればシンクロナイズド・トレモロブリッジによるアーミングとそれに起因するチューニングの狂いとは無縁でいられないこともあり、高精度なマシンヘッドへの換装のメリットは大きい。

 また、フェンダー伝統のシングルコイルはそのシンプルかつセンシティヴな特性もあって、木部の鳴りが音に出やすい。
 それは弦振動の伝達に関与するブリッジやマシンヘッドの換装による鳴りの変化を明確に感じ取れ、聴きとれることとイコールなのである。
 USAおよびメキシコ製のフェンダーギターをお持ちのギタリストで、少しでも弦振動をラウドに、生々しく感じられるセッティングをお望みであればシャーラーM6 PINへの換装を検討してみるべきだろう。高額に思えるかもしれないが、だいたい3年ほど弾いているうちに、価値ある投資であったと実感していただけるはずである。


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