見出し画像

「ハイゲイン」ピックアップ~SEYMOUR DUNCAN BlackoutsとDiMARZIO X2N

今回は世に言うところのハイゲイン系ピックアップ(pickup、以下PU)について、その代表格のモデルをふたつご紹介したい。

 今回は特に現在の20代前後の若いギタリストの皆さんに興味を持ってもらえるよう、なるべく平易な表現を用いたいと思う。ピックアップ上級者(?)の皆さんには物足りなく、また言葉足らずに感じられるかもしれないがひらにご容赦のほどを。
 また、以下に挙げるギターカンパニーやその製品、およびユーザーの皆様の名誉を毀損する意志の無いことを先におことわりしておく。




 まずはセイモアダンカン(SEYMOUR DUNCAN、以下SD)のブラックアウト(Blackouts、以下BO)。

(以下画像クリックでHP)

電池駆動のプリアンプ回路を内蔵したアクティヴPUといえばパイオニアにして現在も精力的な製品リリースが続くEMGが有名だが、SDも2000年代初頭にはライヴワイア(Live Wire、以下LW)シリーズの名でアクティヴPUをラインアップに加えていた。

現在ではデイヴ・ムステイン(MEGADETH)のシグニチュアモデルのみの生産となっているが、かつてのLVはプリアンプの18ボルト駆動によるワイドレンジかつナチュラルなトーン、そして高出力の実現をアピールしていた。
 もっとも、9ボルト電池を2個使用することもあって既存のギターへの換装のハードルが高くなったことがリプレイスメント(交換用)PUとしては痛かったのであろう、2010年代には現行BOシリーズへシフトしていった。
 おそらくLVの反省からだろう、BOはEMGと同様に9ボルト電池ひとつで駆動するし、さらにはハンダ付けを排したコネクタまでEMGと規格を統一することで交換しやすさを追求している。

 BOはSDの輸入代理店ESPの製品、とりわけアーティストシグニチュアに純正搭載されることが多かったが、近年ではジャクソン(JACKSON)製品にも採用されるようになった。

かつては自身のモデルにEMGを搭載していたミック・トンプソンも現在はBOを選んでいるし、他にはコリー・ビューリューもシグニチュアモデルにBOを搭載している。

 初めてBO搭載のギターを弾く際に、楽器店での試奏のようにあまり慣れていないアンプやエフェクトペダルを繋いで鳴らしてみても、それほど驚くことはないかもしれない。小さめの音量であれば一般的なPUとさほど大きな差は感じられず、特定の音域だけ異様にブーストされたような違和感は無い。
 ところが、ステージで鳴らす程度の音量まで上げるとそのサウンドの強靭さに耳を疑うはずだ。

 強靭と表現したが、まず、圧倒的に音が太い。
 他のPUであれば低音が痩せ、高音域、さらにその上のプレゼンス成分と呼ばれる音域が削れて明瞭さを欠くようなセッティングにおいても、BOはタッチの強弱がハッキリと聴こえるし、コードカッティングのザクザクとしたタッチ、ブリッジでのミュートのズクズクという重みがロスされることなく鳴る。
 また、ノイズの少なさも特筆すべきレベルにある。
 音声信号とノイズの割合、いわゆるS/N比が非常に小さいため、他のPUであればノイズの乗りを用心して「攻め」られなかったえげつない歪みを鳴らせることは、極限のヘヴィディストーションを求め、しかもその中できっちりと「鳴り」感が感じられる‐平板で空気間の無いトーンではなく、ヴァイタリティと躍動感が発揮できるギターサウンドを求めるギタリストには重要な要素であろう。
 




 次にディマジオ(DiMARZIO)のDP102 X2N

先のBOが2000年代生まれなのに対し、X2Nのリリースは1979年と、実はかなり長い歴史がある。

 かつてはディマジオ製品の中でも最強のハイゲインをうたわれたモデルであり、コイルの巻き数(ターン数)、マグネットの磁力ともに最大級である。

 この、コイルとマグネットを、いわば力で力を制するという手法は決して安易なものではなく、実は非常に理にかなっているのである。
 例えば、形状は全く違うが

シェクター(SCHECTER)の看板ともいえるスーパーロック系や、シングルコイルのモンスタートーンも、ターン数多めのコイルと大型で磁力が強めのマグネットを組み合わせることでダイナミックなサウンドを獲得しているのである。


 また、ディマジオがX2Nで切り拓いた
○ハイゲイン
○ブレイドポールピースによる切れ目ない磁界
 それによる長いサステイン

というふたつの要素は後発のモデルでも活用され、現ラインアップの中でもDP222 D ACTIVATOR-X/bridge、DP207 D Sonic(旧名Drop Sonic)に継承されている。
 特にD ACTIVATORはアクティヴPUへの対抗馬として2000年代にディマジオが投入したシリーズで、コンプレッション感が無くかつワイドレンジなトーンキャラクターを志向したのだが、その手法と既発モデルX2Nを組み合わせることで、ハイゲイン&ヴィヴィッドという魅力的な特性を獲得している。

 
 X2Nを搭載したギターを弾いたギタリストの多くがドンシャリと表現する。
 それもあながち間違いではないし、ギブソンの初期型ハムバッカー、いわゆるPAFのトーンを基準とすれば確かにX2Nはドンシャリだ。

 だが、大音量時、またはヘヴィディストーション時の、腰が抜け膝が笑うような重さにおいてX2Nを超えるPUは今なお少ない。
 また、硬さや重さを保ちつつ、ヴォリュームを絞れば歪みの質感にも変化を出せるのもX2Nの強みである。
 さらに各コイルの出力が大きいため、コイルスプリット(タップ)時のシングルコイル風サウンドもかなり主張が強い。スイッチによるハムバッキング⇔コイルスプリットの切替を使いたいギタリストにとってはなかなかに魅力的なアドヴァンティッジではないだろうか。
 X2N=単にズゴォーと歪むだけの無芸なPU、という誤解はあまりにももったいないというものだ。


 もうひとつ、先のBOと異なりX2Nはパッシヴであり電池は不要である。
 アクティヴPUはその信号の性質上、複数のPUが搭載されたギターの場合全てアクティヴに換装しなければならないが、その点でパッシヴのX2Nは他のパッシヴPUとの回路内の共存が可能であり、単体での交換が容易だ。

 PU換装はいわば「お試し」の連続のようなところがあり、自身にとってベストの一個にたどり着くまで時間も手間もかかるものだが、パッシヴPUはその点で有利といえる。





 アンプ・プロファイラーやペダル型デジタルプロセッサの進歩もあって、若いギタリストの多くは歪みの質感の追求をデジタルの中で完結させているものと思う。
 しかし、そこから一歩踏み出し、サウンドメイキングに真空管アンプの音圧やヘヴィディストーションを加えたいと思っているのであれば、BOやX2Nのようなハイゲイン系PUを採り入れるメリットは少なくないはずだ。
 特に、ハイゲインなPUをギターに搭載し、かわりにブースター系ペダルをオミットすることで得られる、音域の偏りのないナチュラルなタッチやヴィヴィッドな反応は他に替えがたい魅力である。これは経験してみると判ってもらえるはずだ。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?