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GIBSON Burstbucker type1~type3の実力を改めて

 今回はギブソン(GIBSON)のリプレイスメント・ピックアップ(以下PU)のバーストバッカー(以下BB)を採りあげたいと思う。
 2022年の現在ではそれほど目新しい印象の無いBBだが、歴史をたどっていくと非常に重要な役割を果たしたことが分かるし、そのキャラクターを把握したうえでギターに搭載すれば、サウンドに大幅な変化をもたらすことが期待できる、掛け値無しの傑作だといえるからだ。

 

 とはいえ、BBまでたどり着くのにかなり長い前置きが必要になるのでご容赦いただきたい。

 
 ギブソンが50年代後半に製品化した純正ピックアップP-490はハムバッカーの通り名を与えられ、以降の中位以上のエレクトリックギターに純正搭載されることでギブソンのサウンドを決定づける大きな要素のひとつとなった。
 その中でも特に60年代初期までのハムバッカーは裏面に貼られたシールからPAFの名で呼ばれるようになり、その希少性や個体差の大きさからマニアやエンジニアを魅了し、また悩ませるようになった。

 そのギブソンも70年年代に入ると音響機材の大音量化・ハイゲイン化を受けて低ノイズでハウリング耐性の高いPUの開発に乗り出す。
 そこで招聘されたのが後に自身のブランドでPU製造販売を行うことになるビル・ローレンスである。

 80年代に入り、50~60年代のオールドギターの再評価、いわゆるヴィンテージブームが起こり、ギブソン社もかつての自社製品の復刻再生産を少しずつ行うようになる。

 といっても、この80年代の「リイシュー(reissue)」ものの実機を触ったことがあるギタリストはそうたくさんいないはずだ。
 この80年代リイシューは、例えば楽器店のオーダーによる限定生産や、カタログモデルとは異なる特別仕様扱いだったりしたこともあって、本国USA市場で少数のみ流通しただけなのである。

 現在では「プリヒストリック」「プリカスタムショップ」と称される80年代のリイシューではブリッジやマシンヘッド、そしてPU といった主要ハードウェアは当時の量産モデルのものをそのまま転用していた。
 いや、転用という捉え方のほうが間違っているかもしれない。限定生産に近いかたちとはいえギブソンにとってはあくまで量産モデルの派生型であり、製造も通常の量産機と同じナッシュヴィル工場で行われていたのである。
 特別仕様ではあったが、製造にあたってはそこまで特別扱いされるギターではなかった、というべきであろう。


 90年代が近づくと、ギブソン社はオールドギターの精巧なレプリカの製造と販売を検討するようになり、あわせてPUも再開発を検討されるようになった。
 そこでアドヴァイスを求められたのがギターコレクターでありオールドギター専門ショップのオーナー、ジョージ・グルーンであり、そのグルーンがギブソンに紹介したのがPUビルダーのトム・ホームズだった。

 ホームズによればギブソンのオフィスでビル・ローレンスと会う機会もあったらしいが、彼はローレンスの設計によるPUではPAFのサウンドは得られないことを予期していたようだ。
 ホームズはギブソンの新型PUのプロジェクトのためにPUカバーを製作したのだが、カバーの中身であるPUの、コイルやマグネットについては担当しなかったらしい。カバーを受け取ったギブソンが、それにはまるようなPUを開発してしまったからだそうだ。

 かといってトム・ホームズの手掛けるPUが駄作かというと、もちろんそのようなことはなく、彼のハンドメイドによる製品は非常に高い評価を得た。2000年代には日本製ライセンスモデルも登場して人気を博したのをご記憶の方もいるだろう。


 こうしてギブソンは90年代初期、本家によるPAFレプリカの第1号となる57クラシックを製品化する。


 これを、1993年に発足させたアーツ、ヒストリック・アンド・カスタム・ディヴィジョン、通称カスタムショップからリリースするオールドギターの「リイシュー」‐後のヒストリックコレクションシリーズ‐のレスポールに純正搭載した。

 また、この57クラシックはパッケージパーツとして単体販売されるようになった。
 それまでのギブソンの単体売りのPUはダーティ・フィンガーズぐらいであったが、57クラシックや他モデルが続々とラインアップされるにつれてギブソンのPUは、ディマジオやセイモアダンカン等のリプレイスメントPUブランドと同格かそれ以上の存在感を‐あくまでハムバッカーのフィールドのみだが‐持つようになった。

 
 57クラシックはギブソンの黄金のPAFトーンを甦らせた力作として多くの賞賛を集めたが、PAFの研究が進むにつれて、さらに高精度な復刻を求める声が上がりはじめた。

 もうひとつ、これが重要なことなのだが、現代の音響機材で鳴らしても説得力のあるPAFトーンを生み出すという特性を求められたのである。

 これがどれだけ難しいことか、オールドギターに親しく接しているギタリストでも想像しにくいかもしれない。

 以前の投稿で4スピーカーベースマンを採りあげたが、出力45ワットのコンボアンプをオーディエンスに向けて鳴らしていた50年代後半から40年近い年月が経った90年代、100ワット超級のハイゲインなチューブアンプが幅を利かせ、スタジアム~アンフィシアター級の巨大な会場に轟音を響かせる時代がすでに到来していたのである。

 さらにいえばオーディオの再生環境もモノラルからステレオへ、アナログレコードからデジタルのCDへ変化しており、ノイズや不要な歪みに紛れることなく微弱な音声信号が録音・再生できるようになった。

 その時代に対応できるPAF系ハムバッカーとしてギブソンはバーストバッカー(以下BB)と名付けたモデルを3つ製品化した。


 基本構造はあくまでPAFに準じているが、コイルの巻き数を調整することで出力の小さい順にタイプ1、同2および同3をラインアップし、ギターの求められるキャラクターに応じて組み合わせるという手法をとったのである。


 例えば、主にクリーントーンの明瞭さと低出力な「枯れ」感が求められるギターであればネック側にタイプ1、ブリッジ側にタイプ2を配する。
 ヘヴィディストーションを志向するモデルであればネック側にタイプ2を、ブリッジ側にタイプ3をセットする。
 ブリッジ側PUとして出力を強化したモデルというのは先行機種57クラシックにも同「プラス」があったが、BBではそれをさらに発展させ、PAF系の枯れ感と音の厚み、ブライトネスとヘヴィネスを3つのモデルでカバーするという手法を採ったのである。

 逆に言えば、PAF系ハムバッカーに求められる要素がそれだけ多いともいえる。70年代初頭にエリック・クラプトンやジェフ・ベック、ジミー・ペイジが残したギターサウンドが、PAFならあの音が出るはず!という夢や期待に胸と妄想を膨らませるギタリストが世界中に居るということだ。

 その、もはや神格化の域に足を踏み入れたPAFトーンを可能なかぎり現実的なかたちで現代のギタリストの手に届けるという難事を、ギブソンはBBでやってのけたのであり、賞賛に値する偉業だと私は真面目に思っている。



 では実際にBBの、ここではタイプ1~3に限定するが、他のPAF系モデルとの違いは何か。

 まず同じギブソンの57クラシックとではコイルのポッティング(potting)の有無が挙げられる。

 大音量時の、音が空気の振動となってコイルを揺らすことで起きるマイクロフォニックノイズ‐広義のハウリングを防ぐため、巻き上がったコイルを溶けたロウ(ワックス)に漬ける工程をポッティングという。
 これによりコイルの、あくまで外側だけではあるがコイルが振動しにくくなり、マイクロフォニックへの耐性が向上する。
 一方で弦がギターのネックやボディ、その上に留め付けられたPUを揺らすことで発生する非常に微弱な信号まで抑え込まれてしまうため、音の表情が乏しくなることも指摘されている。

 ではPAFはどうだったのか?ポッティングは施されていなかったのである。
 
 そのPAFにならったとされる57クラシックだが、PUのほぼ9割方を組み上げた時点でのポッティングが施されている。
 といってもそれほど高精度な工程ではなく、溶けたワックスの釜にPUごと浸し、しばらくしたら引き上げて余分なワックスを拭きとるだけのシンプルなものだという。
 このような原始的なポッティングは多くのPUファクトリーで行われており、日本では「ドブ漬け」と呼んできたそうだ。

 おそらくギブソンでは57クラシックを開発した時点では、マイクロフォニックのリスクを冒してまでPAFのスペックを再現するよりは安全策を採るほうを選んだのだろう。57クラシックはカバー付きだけでなくオープン(カバー無し)でも単体販売されるため、なおのこと用心したのかもしれない。

 ではBBはポッティングされているのかというと、カタログ上は”unpotted"、つまりポッティングされていないとされている。
 ところが、分解して調べてみると、ボビンにコイルが巻き上がった段階でごく軽くポッティングしているという。
 とはいえ、組みあがった状態でのドブ漬けに比べればごくごくささやかなものであり、音によるコイルの振動に必要以上に反応しないようなPUに仕上げるための隠し味のようなものだと解釈すべきであろう。


 私の手元には1997年発行の書籍があり、その中にBBシリーズのスペックがあるのだが;
○直流抵抗値(単位:kΩ)
BB1:8.0  BB2:8.4  BB3:9.1
57Classic:8.5  57Classic Plus:8.6
○マグネット
BBシリーズ全機種、57Classic全てアルニコⅡ
となっている。

 また、これはPUを分解して判明したらしいのだが、57クラシックに比べてBBシリーズはコイルを形成するワイアの線系が細いのだという。
 線系の細いワイアを用いたほうが、ポールピースとワイアの距離が狭まるため、より繊細な弦振動も音声信号に変換できる。
 つまり、PUの感度が向上するのである。
 
 過去に57クラシックとBB両方の音を聴いたことがある方であれば、これらのスペックの差が音に及ぼす違いが何となくでもご理解いただけるものと思う。
 ごく単純に、乱暴に言いきってしまえばBBのほうがより繊細でオーガニックなPAFトーンを鳴らすことができる、ということである。

 
 かといって57クラシックが中途半端で不出来なPUだとは、私も思わない。
 ギブソンが2000年代に積極的にリリースしたメンフィス工場製のエレクトリック・アーチドトップ‐L-5CESやスーパー400、バードランド等の錚々たるモデルで、ハムバッカーを純正搭載するものであればほぼ間違いなく57クラシックが採用された。
 ヘヴィディストーションを狙わず、あくまでギブソン王道の太く艶やかなトーンを鳴らすのであれば57クラシックは必要にして十分な特性を備えていたことの証ではないだろうか。

 
 そして、ハーモニクスの立ち方や豊かなサステイン、100ワット超級のオールチューブアンプが吠えたてるラウドでヘヴィなディストーションのなかに聴きとれるオーガニックで分厚く、それでいて表情豊かで強弱の変化が感じられるギターサウンドが求められ、かつ、それがどうしても57クラシックでは得られないときに初めてBBの本領が発揮される‐そう考えたほうがいいと思う。

 なので、たとえBBが素晴らしいPUであっても、歪みの質感に無頓着なギタリストには宝の持ち腐れになる可能性がある。
 単に激しく深い歪みを得たいのならばディマジオが得意とするハイゲイン系や、ノイズおよびハウリングに圧倒的な耐性を持つEMGやフィッシュマンのアクティヴPUを選んだほうが早いだろう。
 また、PUの特性を考えずむやみにハイゲインな歪みペダルを繋いだり、エクストリームなセッティングのアンプで鳴らしたりするのも考えものである。PUがどれだけ繊細で深みのあるサウンドを生み出しても、平板で無機質な歪みに変換してしまっては台無しである。


 そういった点で、やはりBBは多少なりとも玄人好みなところがあるPUだといえる。
 といっても初心者や一見さんお断りなハードルの高さを意味するわけではない。ギター本体の鳴りや繋ぐアンプの特性、特に歪ませた際のキャラクターをしっかり理解把握しているギタリストであればBBの生み出すトーンを上手く活かせるだろう。
 特に、ギターとアンプをダイレクトに繋ぐ、いわゆる直アンに近いセッティングほどBBの繊細で表情豊かなトーンを強力な武器にできるので、エフェクトペダルのトゥルーパイパスやアンプのエフェクトセンド/リターン端子等を活用してほしいと思う。

 それと、かつてトム・ホームズHシリーズやダンカンのアンティクイティ等の高額なハンドメイドモデルをギターに乗せていたことがある、音を知っているという方で、歪みとクリーントーンの微妙な変化を鳴らしたいとお考えであればBBの、タイプ1&タイプ2のコンビをお勧めしたい。

 たしかにハンドメイドのロウゲイン系モデルはクリーントーンのツヤや、コードストロークの立体感、弦の分離感が素晴らしい。秀逸すぎて歪ませるのがもったいないくらいである。
 だが、ある程度深く重いディストーションを鳴らそうとすると音の線が細く軽くなりはしないだろうか?かといってブースター系ペダルを繋ぐと音域に偏りが出てしまい、コードストロークがもっさりと重くなる。

 その点、BBは一般的なロウゲイン系よりは出力が高めであり、歪みの深さや重さ、激しさは十分に確保できる。
 クリーントーンにしても、2000年代初期ならともかく現在の、特にデジタルプロセッサが主流の録音環境であればかなり説得力のあるサウンドが鳴らせるはずだ。
 もちろん、アンプは出来るかぎり良質なもの、可能であれば出力30ワット以上のオールチューブを用意してほしいところだが、PUの生み出すトーンが聴き分けられるだけの耳を持ったギタリストにはそんなことは釈迦に説法というものであろう。



 BBはギブソンのPUにおける新たなベンチマークとなり、マグネットを保磁力の強いアルニコⅤに替え、より積極的なポッティングを施すことでさらにラウドなディストーションを狙えるようになったBBプロという派生モデルも生まれた。

 また、近年のカスタムバッカーやEバッカー等、さらに高精度なPAFレプリカを標榜するモデルにしてもBBが切り拓いた道を歩いているようなものであろう。
 PAFトーンを備えたPUを、手間暇コストをかけてでも開発し自社製品に搭載するというギブソンの手法は57クラシックが起点となり、BBがそれを継承発展させたのだから。

 さらに言えば、先述のトムホームズやリンディ・フレイリン、ヴァン・ザント等のハンドメイドPUビルダーの高額なPAFレプリカが多く流通し人気を博したのも本家ギブソンの本気のPAF系モデルの登場がきっかけだったわけであり、そのブレイクスルーを実現したのがBBだった。
 ギブソンがカスタムショップを設立して本気のヴィンテージレプリカをリリースする体制を整えていなければ、少数生産の高額なハンドメイド品など、どれほど秀逸な製品であっても多くは流通しなかっただろう。

 幸い2022年現在はネット通販も普及し、単品販売されるBBの購入も以前に比べればずっと簡単になった。
 さらにネットオークションも浸透し、それなりに注意は必要なものの、中古品の売買も盛んである。
 ハムバッカーの交換を検討しているギタリストで、予算にある程度の余裕があり、かつ、PU選びをギャンブルにしたくないのであれば、ギブソン純正PUである57クラシックと同プラス、そしてBBシリーズは強力な候補になるはずだ。
 その上さらに歪みの質感や立体感、分離の良さ等の高度な要求に高いレベルで応えられるハムバッカーに決めたいのであれば、ぜひBBをリストに入れておいてほしい。流通量が少なく高額なハンドメイドものよりも現実的で優れた選択になるものと思う。

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