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かたつむりアカデミー2022年8月レポート「“八丁味噌“の名前が使えなくなる? 〜GI(地理的表示)制度について考える〜」

7月の かたつむりアカデミーを開催しました

先月の7月28日に 八丁味噌とGI(地理的表示)制度をテーマに かたつむりアカデミーを開催しました。

アカデミー終了時に参加者の皆さんと記念撮影しました

その名も「“八丁味噌“の名前が使えなくなる? 〜GI(地理的表示)制度について考える〜」です。

かたつむりアカデミーって?

かたつむりアカデミーでは、現在、食料システムの中で起きている「課題」や「問題点」を取り上げて、議論を喚起させる事を目的としています。
最終的には、国内外のスローフードのネットワークの知見を集めて学び合い、より良いフードシステムに向けて行動を起こす人が増えている状態を目指しています。
様々な知識や課題事例などが学べる場にしていきたいと思っています。

伝統を守り続けてきたカクキューとまるや

愛知県岡崎市八帖(はっちょう)町。徳川家康が生まれた岡崎城から西へ八丁(約870m)の距離にあることから名付けられた地名です。そして「八丁味噌」という伝統食品は、この八帖町で400年以上前に誕生し、以来「八丁味噌」をつくり続けてきたのが、カクキュー(正式名称:合資会社 八丁味噌)とまるや八丁味噌(以下、まるや)との2社です。

GI制度って?

「九条ねぎ」「松原牛」「有明海苔」など「地名+農林水産物・食品」の組み合わせで表記されるブランド食材を見かけると思います。
これら食材の名称は、農林水産省(以下農水省)が制定した「GI制度」(正式名称は「地理的表示(GI)保護制度」)によって知的財産として守られています。
地名の付いたブランド名を市場へ流通させることで生産者の利益を保護し、農林水産業全体の発展を狙った施策です。
詳しくはこちらをチェックしてくださいね↓

良い制度のように思えるのになぜ問題が?

説明を見ている限り、地域名を付けた生産物が売れることで、付加価値も大きくなり、生産者も守られるし、地域名も知られるし、農林水産全体が活性化するのならいい制度じゃないか?と殆どの方が思われるかと思います。

では、八丁味噌が伝統的に作られた岡崎市八帖町ではなぜGI制度が足枷となったのでしょうか?今回のかたつむりアカデミーで掘り下げていきました。

ことの発端は

日本でGI制度が始まってすぐ、農水省から案内がありカクキューさんとまるやさんで「八丁味噌協同組合」を立ち上げ、早速申請をされたそうです。しかし、受理されませんでした。

地理的範囲が岡崎市八帖町のみだと、狭すぎるというのが農水省からの理由でした。愛知県まで範囲を広げることはできないのか?と何度となく聞かれていたそうですが、そもそも愛知県といえども、岡崎市八帖町特有の風土、独自の製法などにより生み出されている八丁味噌ですので、八丁味噌協同組合として、農水省の言い分を受け入れることはできませんでした。

八丁味噌独自の製法とは

カクキューの野村さんの話によると、八丁味噌の特徴として

  • 100%豆で作られた味噌(麹も豆麹)

  • 木製の桶で作る

  • 味噌玉は拳大の大きさ

  • 熟成期間は2年以上(二夏二冬以上)

  • 重石は3tを円錐状に積む

などがあります。八帖町は川に挟まれた中洲のような地形のため湿度が高く、そんな環境で保存の効く味噌として豆味噌が生まれています。
これらの条件の中で作られた八丁味噌を、愛知県の他の場所で、他の製法で作られたいわゆる”赤味噌”も八丁味噌として認めるように話している農水省の提案は、伝統を守ってきた側としては、なかなか容認できるものではありませんでした。

話は平行線であったが

農水省と八丁味噌協同組合との話は平行線をたどりましたが、農水省から、このまま続けても話が変わることがないことと、やり取りを続けるか取り下げるかを決めるよう求められたのをキッカケに、申請して却下されるよりは、一度取り下げ、その後の結果に不服を申し立てることも可能だったため、申請を取り下げました。

その後、驚くことに八丁味噌協同組合の申請の後に同じ八丁味噌の申請を出していた「愛知県味噌溜醤油工業組合(以下、県組合)」によって申請された物が、早々に受理されたのです。

しかし、県組合が申請して受理された「八丁味噌」の生産基準は、岡崎の2社が守り続けてきた生産工程よりも、大幅に緩やかな内容でした。

資料:八丁味噌協同組合 地理的表示GIの問題点

カクキューとまるやの2社は、県組合には所属していません。
また、「先使用権」という、『GI登録前から「八丁味噌」の名前を使っていた生産者に認められる権利』についての規定も最近変更になり、このままいけば、2026年以降は「八丁味噌」という名前を使うことができなくります。そのための不服申立を提出しましたが、「岡崎2社の八丁味噌と県組合の八丁味噌に大きな差は認められない」と取り合ってもらえず。その後、まるやが国を相手取って訴訟を起こすまでに発展しています。

カクキューとまるやが愛知県味噌醤油工業組合に加入しない理由

参加者とのディスカッションの中で、カクキューやまるやが愛知県味噌醤油工業組合に加入し、組合の中で差別化を図ればよいのでは?といった意見がでました。
しかし、生まれたときから「八丁味噌は岡崎市だ」と言われる中で育ち、伝統を守り続けてきた身としては、とても容認できるものではない。という代表の気持ちがあると野村さんは教えてくださいました。

県組合の八丁味噌が登録された2017年12月15日は、ヨーロッパとの経済連携協定が大筋合意された日でもありました。その時に発表された、知的財産を相互に守るリストの中に、既に八丁味噌も入っていたのです。

こうした、経済・貿易を優先させるあまり、本来の文化を守ってきた生産者をないがしろにする事は、とても受け入れられるものではないのは理解できますね。

Slow Food Nipponとしては

日本だけでなく、GI制度の元となったヨーロッパでも、制度設計の不備や、経済合理性の過度な追求によって、本来守られるべき生産者が不遇を受けている出来事が起こっています。そのたびに、スローフードでは、プレシディオのプロジェクト等を活用して、生産者と共に活動を行い、唯一無二の食文化を保護する活動を続けてきました。

スローフードの国際的なネットワークを活用して海外のジャーナリズムに発信したり、若者を巻き込んで伝えていくと効果が期待されるのでは、という話がアカデミーの中でも話題にのぼりました。Slow Food Nipponでは、あらゆるネットワークを活用して、今後も「八丁味噌は岡崎市」という発信を続けていきます。

また、日本ではまだ十分に展開できていない「プレシディオ」のプロジェクトを立ち上げることも計画しています。

たくさんの方に食べてもらうためには、この取り組みに共感していただける皆さんの力が大切になります。私達Slow Food Nipponと一緒にカクキューさんやまるやさんの作る伝統的な八丁味噌を応援をしませんか?

応援する方法は、周りの知り合いにこの話を拡げていただいたり、Slow  Food Nipponの会員に加入して、一緒に活動したりなど方法は様々です。
今後ともぜひ岡崎市の八丁味噌を応援してくださいね。


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