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GI(地理的表示)って何?詳しく紹介します!〜実は知らない食の豆知識〜

シャンパーニュ地方のシャンパン、パルマの生ハム、モデナのバルサミコ酢、ギリシャのフェタチーズ、奈良の三輪素麺・・・

これらの共通点が何か、わかりますか?

答えは、全てGI(Geographical Indication = 地理的表示)の保護制度に登録されている食べ物ということです。

地理的表示・GIとはなんでしょう?この記事でじっくり詳しく解説していきます。

GI(地理的表示)とは

知的財産権の一つです

例えばシャンパンは、フランスのシャンパーニュ地方で生産された発泡ワインのことですが、地名がそのまま発泡ワインの名前になっています。この地域では紀元後すぐにブドウ栽培が始まったとされていて、15世紀ごろには発泡ワインの技術が確立していたといわれています。
シャンパーニュ地方の、大西洋と大陸性の混じり合った独特な気候や、石灰質の土壌や地下層、時間をかけて発達してきた発泡ワインの発酵技術など、テロワール(terroir)とも呼ばれる、これらの条件が全て整って初めて、この地で生産された発泡ワインがシャンパンであると考えることができます。シャンパーニュという地域とシャンパンという製品は切っても切れない繋がりがあるものだということがわかります。

冒頭の例も全て、「場所」と「製品」の間に密接な繋がりがあることが認められ、GIの制度で保護されている食品です。

GIとして登録するには、

  • 産品の基準(「生産地の範囲」「生産方法」「産品の特性」等)が明らかであること

  • 産品の基準を守るための管理体制が整っていること(生産者団体等がある)

が、基本的な必要条件です。

GIの歴史

このGIの考え方は、元々はフランスで15世紀に生まれたとされています。

ワインが好きな方であれば、フランスのAOCやイタリアのDOC・DOCGの仕組みをご存知の方も多いのではないでしょうか?これらも、GI保護制度の一種です。

1925年に、フランスの青カビチーズ、ロックフォールがAOCに登録され、これが世界最初のGI登録とされています。

その後、フランスにならう形でイタリアがDOC(Denominazione di Origine Controllata)の法律を制定し、1992年には、ヨーロッパ(EU)全域で
原産地名称保護制度PDO:Protected Designation of Origin)
地理的表示保護PGI: the protected geographical indication)
が導入され、本格的に広域での制度運用が始まりました。

PDOとPGIの違い

GIの機能・効果

GIを制度として保護することで、主に以下のような効果があります。

①不正競争防止
GIに登録するような産品は、すでにブランド力を持っているものが多いです。GIに登録することで、その商品のブランド力を悪用して、関係のない地域で同じ名前で生産が行われたり、地域内で基準に則らずに生産・販売をしたりするようなケースを規制することが可能になります。

②付加価値の上昇→生産者の保護や担い手の増加
GIとして登録することによって付加価値が高まり、山間部や遠隔地のような農業収入の割合が高い地域に経済的利益をもたらし、地方の雇用を創出して過疎化を防ぎ、観光産業や飲食産業において重要な波及効果をもたらします。またそのことによって、担い手不足の解消にも繋がります。

国際的な統一基準によって国際的な貿易を可能にする
EPA(経済連携協定)等によって、海外における地理的表示の保護が国家間の国際約束によっても実現可能になり、輸出・輸入の際にも知的財産権を保持したまま貿易ができます。国家間での連携があれば、日本で作った発泡ワインをシャンパンと呼んだ場合や、海外で生産した牛肉を神戸牛と呼んだ場合でも、取り締まることができます。

日本でのGI

こうしてヨーロッパを中心に制度化されてきたGIですが、その機能が1999年には中国でも同様の制度が導入され、日本では、農水省のもとで2014年からGI保護制度が正式に運用され始めました。2015年には神戸ビーフや夕張メロンを含む7件が地理的表示として登録されました。

日本のGIロゴマーク
GIに登録されている産品にのみ付けることができる。
日本でGIに登録されている産品一覧(2022年6月末現在、121品目が登録)。

似ているけれど違う、地域団体商標

広く原産地呼称保護の文脈でいえば、GI制度に先駆けて、「地域団体商標(通称  地域ブランド)」が2006年から運用され始めています。こちらは、農産物に限らず、「地名+モノ(コト)の名称」で商標登録を特別に認めるものです。

GIが農水省で管理されているのに対して、こちらの地域団体商標は特許庁で管理されており、登録商標(トレードマーク)の一種です。

2022年6月末現在、735件が登録されていて、米沢牛や小豆島オリーブオイルといった農水産物の他にも、なみえ焼きそばや伊香保温泉など、郷土料理や食品でないものまで、多様なものが商標登録されています。

では、GIと地域団体商標は何が違うのでしょう?

GIと地域団体商標の違い(特許庁資料より抜粋)

大きな違いは、GIは地域の共有財産であるという考え方、地域団体商標は特定の団体が保有する(=独占的に使用できる)ブランド・商標であるという考え方です。

また、地域団体商標では、地域との関連性や認知度が認められれば登録でき、商品の品質の管理の方法も商標権者に委ねられています。一方、GIでは、ある一定の地域との品質や特性の結びつきを重要視し、詳細な生産基準を明確に示し、継続して管理を行う必要があるという点で、より地域のテロワールと密接に関わっているものと言えます。

また、GIは国家間の約束によって、産品が海外に輸出された時でも保護することが可能になるという点も、大きな差です。

産品によっては、GIと地域団体商標の両方に登録されている物もある程、似た性格を持つ2つの制度ですが、うまく使い分けることが重要です。

GIをめぐる物議

地域に脈々と続く食文化を保護するために、とても重要な制度であるGIですが、単なる知的財産権の話だけでなく、貿易、農水産業などと複雑に絡み合っているため、物議を醸すこともしばしばあります。

製造基準の厳密さや生産者団体の規模は様々

- パルミジャーノ・レッジャーノ


たとえば、イタリアのパルマで生産される世界的にも有名なチーズ、パルミジャーノ・レッジャーノは、GIを管理するコンソーシウムに現在310もの会社が加盟しており、ヨーロッパのGIの中でも最大級の規模となっています。

生産規程には、品質を統一するために、生産される地域が限定され、乳からチーズに加工する工程や、牛に与える餌に関して事細かな記載があります。しかし、飼育する牛の品種に関する規定はありません。これによって、昔に比べると、多くの生産者が効率を求めて、在来種の牛からホルスタインに変更するということが起こりました。実際、パルミジャーノ・レッジャーノがここまで大きな規模に広げることができたのは、品種を生産規定の中で指定せず、効率化をすることを選んだからだった、とも言えます。

しかし、地域の風土と共に続いてきた在来種を残していくことも重要です。スローフードでは、プレシディオのプロジェクトを通して、パルミジャーノ・レッジャーノの中でも、特に在来種のモデナ牛にこだわって作り続けている生産者を保護する活動をおこなっています。

- ブルース・デュ・ロヴ


一方で、とても小さな規模のGIも存在します。
フランス、マルセイユ近郊のLe Roveで生産される山羊の乳で生産されるチーズ、ブルース・デュ・ロヴは、現在8社で生産者団体を構成しています。フランス最小のGIであり、こちらは、ヤギの品種や餌、生産工程、使用する道具まで細かく規定があり、対象地域も狭小なものです。

このチーズは、GIに登録される前に、プレシディオプロジェクトを発足し、後にGI登録に至ったケースでした。実績があったからこそ、小さな規模・細かな規程を維持することができたケースといえます。

本来保護されるべき生産者が保護されないケースも

悲しいことに、本来この制度で保護されるべき生産者が、制度設計の不備・経済や貿易の過度な重視によって、報われていないケースもあります。

- スティルトンチーズとスティッチェルトンチーズ


例えば、イギリスのこちらも有名な青カビチーズ、スティルトンチーズ
フランス原産のロックフォール、イタリア原産のゴルゴンゾーラとともに「三大ブルーチーズ」として並び称されています。

スティルトンチーズは1996年にGIに登録され、ダービーシャー・レスターシャー・ノッティンガムシャーの3つの州で生産規程に則って作られたものだけが「スティルトン」と名乗ることができます。

この規程には、牛乳を「低温殺菌」するという決まりがあります。
現在スティルトンチーズを作っている5社は、ほとんどが牛乳を仕入れ、加温殺菌のルールを守った上で、全部で一年に100万個以上のチーズを生産している、大規模な生産者です。

一方で、自社で飼育する牛の乳のみを使い、昔ながらの作り方で加温殺菌をせずに生乳にこだわって作り続けている零細の生産者がいます。しかし、生産規程上、殺菌していない生乳を使用した彼のチーズをスティルトンと呼ぶことはできません。その代わり、スティルトン(Stilton)村の古い地名である、スティッチェルトン(Stichelton)チーズという名前を使用して、生産を続けています。

スローフードではこのチーズに関しても、プレシディオのプロジェクトを立ち上げ、生産者の保護をおこなっています。

そもそも、加温殺菌をするということは、乳の中の多様な菌も一緒に殺菌してしまうということです。生乳を使ってチーズを作ることで、その地域ならではの特徴が表れ、それが本来の姿といえます。杓子定規の衛生基準を理由に、多様性がないがしろにされてしまいます。

スローフードでは、生乳でチーズを作ることを推進するロビイング活動もしています。

- 日本でも・・八丁味噌をめぐる問題

愛知県岡崎市八帖(はっちょう)町。徳川家康が生まれた岡崎城から西へ八丁(約870m)の距離にあることから名付けられた地名です。そして「八丁味噌」という伝統食品は、この八帖町で400年以上前に誕生し、以来「八丁味噌」をつくり続けてきたのが、カクキュー(正式名称:合資会社 八丁味噌)とまるや八丁味噌(以下、まるや)との2社です。

そんな2社が、2026年以降、「八丁味噌」という名前を使えなくなるかもしれないという事態に発展しています。

Slow Food Nipponでは、この問題を取り上げるイベントを開催しました。
詳しくはそちらの記事から。

他にも、GI制度が浸透していない北米でも多くの問題が起こっていたりと、「文化を知的財産権として保護すること」は様々な要素が複雑に絡み合う、非常に難しいテーマです。

さて、GIについて詳しく説明してきました。

GIだけでなく、制度は作って終わりではなく、経験を積み重ねながら、改善を重ねていくことが大切です。そのためには、多くの人が関心を持ち、話題にし、声を届けていくことが重要です。この記事が、GI制度に関心を持つきっかけになれば幸いです。


Slow Food Nipponでは、160カ国以上にネットワークを持つスローフードの知見を活かした学びの場づくりや、食文化や小規模生産者を保護する活動を行なっています。興味のある方は、ぜひメンバーになって一緒に活動しましょう。


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