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2枚のコイン、ドライアイスの。

土日だけ主夫になって2ヶ月が経つ。
同居の義母が背骨(頸椎)を圧迫骨折し、
更にもう一箇所胸椎にも発生、
拙宅はてんやわんやになった。

仕事しか能のない僕が
出来ることと言えば、週末に
ほぼ一週間分の買い物をするくらい。

よって毎週土曜午前8時に
その食品スーパーに赴くことは
完全に僕のルーティンになってる。

その時間帯は店内にお客さんが
まばらだから、ある程度の買い溜めも
レジで行列にはならない。
だからこのスーパーでこの時間帯なのだ

僕は、その店が設えた、
100円を入れると使える買い物カートの
上下2段にカゴを入れ、
レギュラーになってる商品を積み込み、
レジに並び会計をする。
そして駐車場へ、これを2往復。

レギュラー商品のひとつに、
ハーゲンダッツなどの
カップアイスがある。
通常は8個くらい買う。
レジに並び、店員さんに言う
「ドライアイスください」と。
すると彼女は黙ってコインを1枚、
差し出すのだ。

会計が済んだあと、カートを引いて
大きなドライアイスBOXに行き、
コインを挿入すると、
僅かばかりのドライアイスが
音を立てて出てくる。
それを専用のビニールで掬い取るのだ。

今日、驚いた。

いつものようにレジで
「ドライアイスを」と言うと
笑顔で「はい!」と
ベテラン風の店員さんが
コインを2枚差し出してくれた。  
真夏は過ぎ今日は涼やか。
コイン1枚でも事足りるが
彼女のその姿勢に
僕は心揺さぶられた。
おそらく60歳前後のチーフ格だろう。

このスーパーでは去年の冬、
こんなことがあった。
レジで僕のポイントカードを預かった
店員さんがそのカードを
自分の足元に落とした。
勿論、僕の視界には入らない。

彼女は、カードを拾い上げると
拭きもせず、黙々とレジ処理を進める。

笑顔が素敵な店員さん、
機転の利く店員さんがいる。
片や、仕事をさばくように
無表情で決められたことしか
しない店員さんもいる。

心の余裕の差か、
本来の資質か、
仕事観か。

でも彼女らは皆、
感染拡大のなか懸命に国民の暮らしを支える、
エッセンシャルワーカーだ。

僕は誰かから
「そういうお前は一体 
何の役に立っているのだ」
と問われれば、閉口するしかない。

常なる感謝を忘れてはならない。
そう自戒する。

このスーパーの業務マニュアルでは
おそらくドライアイスはコイン1枚
という掟があるのかもしれない。
経費削減の中、諸々の成約は
どんな会社にもある。
あるいは、真夏のピークを超えたので
ドライアイスを需要と供給の観点で
いつも以上に提供できるように
したのかもしれない。

でも、ひとつだけ確かなことは、
今日のレジの彼女は
お客さんの方を向いて
仕事をしているということ。
仕事の本質を熟知されている。

毎週土曜の朝になるとやってきて
カゴを満タンにカートで2往復する
疲れた様子の、しがない中年男に
同情したのか。
いや、そうではない。
彼女はきっと
「レジの前ではお客さまは皆平等」
との心の旗を立てていると拝察する。

お客さまへの目配り、気配り、心配り、
要は「気」。その注ぎ方なのだと。
彼女は素敵な時間の使い方をしている。

僕はコイン2枚を受け取りながら
「ありがとうございます」
と笑顔を返した。

2枚のコインが、
土曜の朝のちいさな幸せ、
大切な瞬間をいざなった。

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