【妄想好き集合➀】架空の小説の冒頭から妄想してみてください!

男は一本の瓶ビールを片手に、物思いにふけっていた。美しい満月を見る目には光のかけらも映っておらず、顔には月光が照らされているものの、灰色で塗られた表情には死以外の何ものも感じ取ることはできなかった。

幸いにも彼の死にゆく様は誰にも見られずに済みそうだ。部屋の中には彼とロープ一本がたたずんでいるだけだった。
何を思い立ったのか、彼は5階のベランダから飲みかけの瓶ビールを投げ捨てた。残念ながら、瓶の割れるきれいな音ではなく、ただ水に物が落ちた音が聞こえてきた。そうか、そういえばマンションの前には川が流れていたな。世界でウイルスが猛威を振るう中、引っ越してから外出は一切控えていたので、この辺の地理は良く分かっていない。外出をしたとしても、川の方向には出かけないため、存在すら忘れていた。

今さら川の存在に気が付いた彼は少し寂しそうな表情をして、部屋に戻り、ベランダの窓を閉じた。そして、そのままロープを手に取る。くしゃみをしながらも、無表情で柱にロープをくくりつけていく。
彼の心はなぜか踊っていた。苦しみからの解放への安堵感、死への恐怖、未知の体験への興奮、様々な感情が混ざり合ったカオスな状態であった。今の彼にはもはや死へのカウントダウンは止めることはできなかった。

準備は整った。
色々ネットで人に迷惑をかけない死に方を調べていたが、駅での飛び降り以外は特にどれも同じだと思った。ベタに最も苦しくない死に方を選んだわけだ。彼らしい。普通の人間を目指していた彼にとってはこの死に方があっているのかもしれない。

机にそろった3枚の遺書を見つめながらも、そっと目をそらし、時計を見た。11:59。あと1分で聖なる夜か。去年の今頃は安い缶ビールを飲みながら、彼女とのそれはもう素晴らしい時間を過ごしていた。生まれてきてよかったとさえ思っていた。それが今では死への階段を着実に昇っている。人生何があるか分からない。だから面倒くさい。

ロープを首にかけ、そして、彼は動かぬ存在になった。



ドクターは今日をずっと待ち望んでいた。
このアルゴリズムがあれば、日本、いや、世界を変えられる。
そう信じて、この数十年やっとの思いで完成させた。
感極まって涙を流しているその目には、完成物とある男の死体が映っていた。つい先ほど運ばれてきた死体であったため、まだ生きており、ただ寝ているようにも見える。なんとなくドクターは死体の口元に鼻を近づけた。すると、ほのかな麦とアルコールのにおいがした。

※この先は読者の妄想におまかせします!

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