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税理士事務所からIT業界へ【転職2回目】

エピソード#7 従業員の反乱

税理士事務所に入所してから3年が過ぎていた。
この3年間、たっぷり経理・税務の知識を吸収し、さらに日商簿記1級にも合格していた。
事務所には、姉御肌の堀江さんと私とほぼ同期入社となった志田さん、珠美ちゃん、私を合わせて4人。狭い事務所内で絶妙な人間関係のバランスを取りながら楽しくやっていた。
堀江さんは気さくな性格で、顧問先の社長や奥様からのうけがよかった。どうみても美人ではなかったが、足がすらりとしていてタイトスカートがよく似合っていた。堀江さんは地方銀行にお勤めの旦那さんとお見合いで結婚し、娘と3人で割と大きな家に住んでいた。経理をやるよりも、むしろ営業に向いているタイプに見えた。志田さんは、控えめで自己主張があまりなく、独身だったが結婚願望はあまりなさそうだった。珠美ちゃんは、商業高校出身で一番年下で、さばさばしていて仕事が早く、たまごっち(当時流行っていたゲーム)を育てることに夢中の女の子だった。

一時期、男性が短期間で就業したこともあったが、女性4人の中で居心地が悪かったのであろうか、すぐに辞めていった。
事務所内では、税理士がすべてを支配していた。
また、税理士のことを、「先生」と呼ぶことに最初は心理的な抵抗があったものの、そのうち慣れてしまった。

あまり仕事が立て込んでない時は、皆でソリティアゲームをして暇をつぶした。姉御の堀江さんがソリティアゲームが大好きだったからだ。

振り返ってみると、それは突然降ってきたかのような出来事のようにも思えた。
先生からも信頼の厚かった堀江さんが、まさかの反乱を起こしたのだ。
顧問先数社を引き抜いて、隣町の税理士事務所に転職したのだ。しかもその税理士は、先生の友達だった。

空飛ぶクジラ

私たち同期はかなり動揺した。当然ながら先生の怒りは凄まじく、私たちにも火の粉がたくさん飛んできた。たぶん、幻滅したのだと思う。私たち3人も同時に退職願を提出した。事務所職員が全員退職してしまうことになり、後から思うと先生に申し訳ないことをした。

しかし、何も幻滅しただけで退職を選んだわけではなかった。実は、その反乱の少し前、私は新聞である求人記事を見つけていたのだ。
新聞一面が朱色で、そのなかに白抜きで大きなクジラの絵がかかれてあり、その見出しが「空飛ぶクジラ」だった。
その記事は、地元はもちろんのこと、全国的にも有名になっていたIT企業の中途採用の求人広告だった。
私は、この求人に心を奪われてしまっていたのだ。

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