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【道】 第6回 謎の「コリトリ」(国道439号/徳島県)

国道なのに車の通行が困難だったり未舗装だったりする「酷道」とも呼ぶべき道は、全国各地にまだまだある。それらの「酷道」の中でも、とりわけ険しい道として語り草になっているのが、四国にある国道439号だ。路線番号の語呂合わせから、道路マニアの間では「与作」として親しまれている。

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この国道の大きな特徴は、四国山地の一番険しい地帯を、まさに端から端まで横断していることだ。総延長は徳島市から高知県・足摺岬の手前の四万十市までの約340㌔㍍。東京―名古屋間の距離に匹敵する長大な「酷道」だ。

徳島県の旧木屋平村(現美馬市)の区間に入ると、「コリトリ」という不思議な響きの地名が標識に現れるようになる。それも1㌔㍍ごとに設置されているので、いやが応でも目に入ってくる。

道を進むに従ってカウントダウンのように近づいてくる「コリトリ」。いったいどんな場所かと期待は膨らむが、いざ、その地点に到着してみると、家1軒も見当たらない原っぱだった。何か肩透かしを食わされたような心情になる。

コリトリは漢字では「垢離取り」と書く。「垢離」は、神仏に祈願する時に冷水を浴びる行為のことをいうので、「コリトリ」とは一種の禊(みそぎ)の場、穢(けが)れ祓(はら)いの場であるようだ。

国道439号のコリトリの先には霊峰の剣山が控えている。今でこそ「酷道」といわれながらも自動車で剣山の頂上近くまで行けるようになったが、そのような道がない時代は、ここ「コリトリ」から剣山に入山した。参拝のための清めの場であって、今でも本格的な登山道はコリトリからのルートとなっている。

地元の人に尋ねると、「コリトリ」は何も珍しい地名ではなく、全国にあるという。調べてみると、鳥取県の三徳山には垢離取川が流れている。この山には鳥取県唯一の国宝建造物である三仏寺「投入堂」があり、厳格な修験道の行場として知られる。

国道にある標識「コリトリ」でつながる日本の霊場。酷道「与作」もそのような行場巡りに一役買っている。

2010・11・22 記
時事通信社出稿

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