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077:沖縄本島一周サイクリング(DAY8:総括)

7日間の自転車旅を終えて


 7日間にわたる「沖縄県スポーツeバイク一周の旅」モニターツアーも無事終了し、現在那覇空港のラウンジでこの原稿を書いている。参加した側の立場として今回体験した「沖縄本島一周スポーツeバイクの旅」が旅行商品として成立するのか、成立させるためにクリアにしなければならない課題はどこにあるのか、について勝手に分析してみたいと思う。

 その前に、沖縄県における観光客数の推移について現状把握してみた。言うまでもなく沖縄県は県外からの観光客の来客によって多くの人が生計を立てている「観光県」である。それ故に今回の新型コロナウイルス感染拡大と、それに伴う国の感染予防策の影響を日本の都道府県の中で最も受けている県と言っても良い。外国客を含め2019年には年間1,000万人もの入域観光客があったのが、2021年は約300万人にまで落ち込んでいるのである。二年間で規模が70%も減少すれば立ち行かなくなる観光関連の業者が出てしまうのも当然と言えば当然。実際スタート前に訪れた国際通りの店舗も、特に2階以上に店舗を構えているところの休業や閉鎖が非常に多く目に付いた。自転車で一日目に訪れた北谷のアメリカンビレッジも、過去に家族旅行で訪れた際にはいずれも駐車場が満車状態だったのに、今回は閑散としていた。平日と休日の差を差し引いたとしても、それだけで沖縄県の観光業の窮状が分かったような気がする。

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 残念ながら現時点で新型コロナウイルス感染の収束が見通せない現状を踏まえると、「今まで通りの沖縄観光コンテンツ構成」ではコロナ前のレベルまでの回復を期待するのが難しいのが実情なのではないかと思う。「コロナ時代に対応した新たな観光コンテンツ」の構成と商品化が急務であることは想像に難くなく、今回私が体験した沖縄一周eバイクの旅もそうした点が評価されて内閣府の助成事業として認定されたのではないかと思う。

スポーツeバイクの可能性

 次にスポーツeバイクについての感想を。実を言うと、今回スポーツeバイクに乗るまではその利用価値について懐疑的であった。スポーツバイク市場を調査する過程で業界関係者の皆様から「欧米ではスポーツバイクのマジョリティはスポーツeバイクに移行している」という話を多数聞いていたが、それを聞いても「本当なのそれ?」と思っていた。実際当社が「スポーツ産業白書」発刊に向けて、昨年からメーカー各社に「スポーツeバイクの出荷台数と出荷金額」をヒアリングしているのだけれど、いずれのメーカー(ブランド)も出荷台数は僅少レベルにとどまっており「スポーツeバイク単体の市場規模」を推計算出することができていない

 そんな状態で7日間にわたり乗ってみた訳だが、「乗ってみないと分からない」「長期間乗らないと分からない」スポーツeバイクの利点を知ることができた。乗る前に感じていた「疑念」はすっかり霧散してしまったというのが今の感想。私が感じた利点を簡単に述べると、

■バッテリーの進化により、過去に比べて走行可能距離が格段に上昇している点。今回私が乗ったジャイアントのバイクは、一番アシスト力が弱い「エコモード」ならば約180キロの走行が可能。これは長時間ライドする上での圧倒的なアドバンテージになると感じた
■複数のモードを選択できること。上述したようにエコモードであれば180キロのアシストをしてくれるが、道路状況(坂の傾斜)に応じてアシストの強弱を付けられることのメリットは大きかった。特に「激坂」では最もアシストの強い「スポーツモード(約60キロ走行可能)」を選択すれば、周りの人と会話しながら坂道を登ることができた。これは「幅広い人に自転車旅の楽しさを味わって頂く」上で強力な武器になると感じた
■アシストをオフにして走ることも(当然)可能ということ。オフでも十分に走行可能であることを知った二日目以降、基本的に平坦な道は全てアシストをオフにして走り、キツい坂道だけアシストの力を借りる、というスタイルを通した。これによって「スポーツしている」「運動している」という自己満足感というか、「電気の力を借りている」ということに対するある種の罪悪感のようなものが軽減されたような気持になった

 要するに「乗る人のニーズやメンタリティ、その日の気分や体調などに応じて様々な使い方ができる」というのがスポーツeバイクの最大のメリットである、ということ。また乗る前までは「ママチャリタイプのアシスト車と何が違うんじゃい」と思っていたのだけれど、スタイリング自体は普通のスポーツバイクと同様なので、当然ながら乗車姿勢もそれとほぼ同様であり「スポーツバイクに乗っている感」を存分に味わえることができた。これは近年発売されているいずれのバイクもバッテリーとフレームが一体型になっているものが中心でありデザイン自体もノンアシストのスポーツバイクに近いものになっていることも関係しているのではないかと思う(個人的にはバッテリーが更に進化してフレームがもっと細くなって欲しいなと思うけれど)。やはり「スタイル」は大事。

 更に業界関係者からは、日本の道路交通法に即した「時速24キロまでしかアシストしてくれない」点がスポーツeバイクの普及を妨げている、という意見を聞くことが多いが、今回体験した限りではそのデメリットを感じることは皆無であった。今回の旅の平均速度が時速20キロ弱と比較的「ゆっくりめな」ツアーだったこともあるのかもしれないが、上述したような使い方をしていたこともあって「走っている途中でアシストが終わって急にペダルが重くなる」というようなシーンは殆どなかった。

 実際に乗ってみて初めて分かったスポーツeバイク利点であるが、当然ながら課題も数多く残っている。私が感じた課題は以下の通り。

価格が高いこと。今回私が乗せて頂いたジャイアントの「ファーストロード E+」というバイクは税込で462,000円。ノンアシストタイプも含めたスポーツバイクの相場観を知っている身として、また実際に7日間乗ってその良さを体感した身としては決してこの価格が高いとは思わないが、「普通の自転車の相場観」を知っている人たち(恐らく今後スポーツeバイクの購入ターゲットの一つとなるであろう「非スポーツバイク愛好者層」)からすると「何で自転車が50万近くもするの?」という見方をされることが多いのではないか。スポーツeバイクの普及を実現するためには、後述する認知向上策と併せて「普及価格帯の商品」の発売を期待したいところ
認知度が低いこと。今回のモニターツアーの名称は「地元ガイドの厳選“道”探訪 快適e-BIKEで沖縄一周充実旅」というもの。仮に今後このツアーが正式に商品化されて販売されたとして、果たしてこのタイトルを見て「お、eバイクの旅面白そうじゃん」と興味を示してくれる人が果たしてどの程度存在するのか。これはこのツアーのターゲットをどこに設定するかによって変わってくのだと思うけれど「eバイク」という乗り物の存在を知ってもらうための認知向上策と、そのバイクを使ったツアーに興味を持ってもらうための興味喚起策が必要ではないかと感じた次第。極めて基本的なAIDMAの組み立てが必要ではないかと

 以上が課題と感じたけれど、「コロナ時代に対応した新たな観光コンテンツ」としてのスポーツeバイクの活用は非常に親和性が高く、更なる磨き上げによって沖縄県だけではなく他の地方でも十分に水平展開が可能なのではないかと感じた次第。

旅行商品としての可能性

 では、今回私が体験した「沖縄本島一周スポーツeバイクの旅」が「新たな観光コンテンツ」として成立するのか、成立させるためには何が必要なのか、派生的な商品は構成可能なのか?といった点について思ったことを勝手に述べてみたい。

 今回は「モニターツアー」ということで助成金が交付されたこともあり、参加費は7万円程度だった(沖縄までの交通費は自己負担)が、実際にパッケージツアーとして商品化するとしたら約45万円程度のツアーになるとのことであった。果たして「45万円払って自転車で沖縄を一周する旅」は成立するのであろうか。ここでは想定されるターゲットについて想像してみたい。

 まずは「時間的なもの」について考えてみたい。これまで繰り返し述べているように今回のツアー期間は「一週間」である。「一週間自分の身体を空けられる人」でないと物理的にこのツアーには参加できないということになる。私が過去に実証実験した「ゴルフワーケーション」であれば日中を仕事に充てることも可能だが、今回のツアーは基本日中「自転車こぎっぱなし」になるので仕事をすることは基本的にできない。当然リモート会議なども日中は実施することができない。そうなると自ずと「働き盛り」の30代~50代をメインターゲットにするのは無理がある。

■仕事をリタイアして悠々自適に暮らしていて
■コロナによる運動不足を実感していて
■身体を動かすことが好きだけど、あまりハードな運動はしたくない

 所謂「アクティブシニア」が自ずとメインターゲットになるのではないかと思う。

 また上述した約45万円という価格設定だが、

■2名のプロライダーがツアーガイドで付いてくれること
■2台のサポートカーが同行し、荷物の運搬や食べ物や飲み物の手配をしてくれること
■毎日ランクの高いホテルに宿泊できること(朝食、夕食付)

 といったフルサポートが付いて7日間を「大名気分」で過ごせることを考えると、決して高くはないのでは?と思う。逆説的に言えば、このくらいの価格設定にしないと関連業者の利益が出ないのではないかと思う。しかしながら、仮に私がこのツアーに自分の妻を誘ったら「なんで45万円も払って沖縄まで行って自転車こがなきゃならないの?」と言われて一蹴されるのは目に見えている。まあ激烈インドア人間の私の妻はこのツアーのターゲットとは真逆にいるので参考にはならないのだけれど。上述した「スポーツeバイクの認知度向上」とも関連する部分だが、「自転車で同じメンバーが1週間かけて自転車で旅をする」という行動を取ることによって得られる「付加価値」を商品構成やターゲット選定に結び付ければ活路も見えてくるのではないかと。例えば、

■このツアーを法人向けの「チームビルディング」「社員研修」の商品として販売する。今回参加して実感したのは「日が経つにつれて深まるスタッフや他の参加者との連帯感」。この連帯感は企業におけるチームビルディング(社員間のコミュニケーション力強化)や社員研修との親和性が絶対的に高いと感じた。更に、仮にこのツアーを企業が採用すれば、社員の会社に対するロイヤリティ向上、更には「健康経営」とも結びつけられるので会社の価値向上にも繋がる

■健康増進、ダイエット、美関連企画として商品構成する。ガーミンの計測では1日平均の消費カロリーは1,500であった。つまり一週間の旅で合計10,000キロカロリーを消費した計算になる。「10,000キロカロリー」を食事に換算するとどのくらいになるのかは分からないけれど、かなりの「運動効果」を得られたのではないか。「ダイエット」と大々的に謳ってしまうと商品構成上問題が出るのではないかと思うが、例えば健康促進に効果のある沖縄料理との組み合わせによる「走って食べて美しく!eバイクで沖縄一周の旅」とか「スポーツeバイクで美脚実現!沖縄一周の旅」といったような、「健康」「美」が獲得するような立て付けはアリなのではないか。例えばガーミンジャパンに代表されるようなスマートウオッチメーカーから滞在期間中スマートウオッチをレンタル頂き、日々のアクティビティと運動量、消費カロリーを計測し蓄積。ツアー終了後に期間中の定量データを集計して参加者の「美の進化度合い」を可視化すれば参加者にとって励みにもなるのでは

■今回参加者から口々に上がっていたのは「スポーツeバイク欲しくなるよね」という声。例えばオプションとして「ツアー期間中にあなたが乗っていたeバイクを購入できる権」を付与するのもアリなのではないかと思った。例えばだけれど、私が乗っていたジャイアントのバイク税込465,000円を、ツアー参加料金にプラス300,000円払えばツアー終了後にそのまま自宅まで配送してくれる、という感じでお得感も演出する。自分もそうだが、7日間もずーっと乗り続けているバイクに対する愛着も湧いてくるもので、「自分が乗っていたバイクをそのまま使える」というのがミソというか、付加価値になるような気がする。

 その他、参加者からは「もっと短期型の商品を考えた方が現実的ではないか?」という声も上がっていた。「沖縄一周」ではなく、例えば2泊3日での「NHK朝ドラ“ちむどんどん”のロケ地、やんばる地区をスポーツeバイクで巡礼する旅」みたいなもの(NHK的に大丈夫なのかという気もするが)。短期間型であればターゲットの枠も広がるしツアー料金も低価格化できるのではないか?というのが主旨であり、私もそれは「アリ」だなと思った。

 また、「自転車で一週間走りっ放し」ではなく、間にスポーツバイク以外のアクティビティを盛り込むのも良いのではないか?と思った。例えば「3日目にカヌチャでのゴルフラウンド(ゴルフ体験)を挟んだり、「沖釣り体験」を実施してその日の夕食は自ら釣った魚を食す、的な構成。

 しかしながらこれらの「派生商品」は、あくまでも王道である今回のモニターツアーの「7日間をスポーツeバイクで一周する」という商品が成立できた後に考えたり主催者が議論すべきことであり、今の段階で中途半端に派生商品を企画するべきではないだろう(当たり前)。そうじゃないと何のために助成金を使ってモニターツアーを実施したのかという話になっちゃう。

 冒頭で述べた「コロナ時代に対応した新たな観光コンテンツ」として成立させるためには、クリアしなければならない課題や潰しておかなければならないボトルネック、付加価値創造に向けた戦略立案と戦術実行など「磨き上げ」のために果たさなければならないことは多いと感じたが、大きな可能性を感じると共に「スポーツを介した地方創生の実現」を目指している立場としても非常に勉強になる一週間だった。


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