見出し画像

勝てるブランドを構築する ‐その1‐

■2023年版最新のグローバルブランドランキング

米インターブランドが2000年から毎年発表をしている、「ブランド価値評価ランキング(Best Global Brands)」の2023年版では、日本企業は100位以内に7社ランクインしました。

トヨタ(6位)、ホンダ(27位)、ソニー(36位)、日産(63位)、任天堂(71位)、パナソニック(90位)、キャノン(100位)の順で、この他にアジアからは韓国ブランド3社(サムスン、現代、起亜)、中国ブランド2社(シャオミ、ファーウェイ)がランクインしており、アジア勢で12ブランドというのは2022年に続き過去最高でした。

過去20年間、飛躍的な成長を遂げてきたアジア経済からわずか12ブランドのランクインでも過去最高というのは意外に感じるかもしれません。

ランキング上位を見ると、1位が11年連続でアップル、2位にマイクロソフト、3位にアマゾン、4位にグーグルと、シリコンバレー発の米国ビックテックがここ数年不動の位置を占めており、それに続く5位がサムスンという結果となっています。

この中で6位に付けているトヨタは、2000年のランキング開始時は欧州を代表する高級車ブランドのメルセデスベンツ(12位)を下回る15位でしたが、2004年途中にこのライバルを抜き去ってからは、20年連続で自動車業界のトップを守り続けています。

「ブランド」と聞いたときに一般的に連想されるのは、「知名度の高さ」や「高級感」といったものではないでしょうか。確かにブランド力の高い企業や製品は知名度も高く、消費者がそのブランドの製品を所有することに憧れたり、ブランドオーナーであることに誇りを持ったりする等、通常の製品価値を超えた要素を備えていることは間違いありません。

これによって、リピーターや指名買いが行われるようになり、他社製品との不毛なプロモーション合戦や価格競争に巻き込まれることなく、売り上げを伸ばしていくことが可能となります。では、このような高いブランド力を構築していくには、何が必要となるのでしょうか。

アップルとトヨタの2社に着目して、トップブランドがどのようなブランド戦略をとってきているのかを振り返ることで、今後の日本の製造業に必要なヒントを見つけていきたいと思います。

■トップブランドから学ぶこと

(1)アップルの事例
アップルといえば、iPhoneに代表されるような洗練されたシンプルかつ機能的なデザインを思い浮かべる人は多いでしょう。このようなイメージを思い浮かべた人は、すでにアップルのブランド戦略にしっかりと取り込まれています。

アップルは創業以来、マッキントッシュのコンピュータや携帯音楽プレイヤーのiPod等、各時代の革新的な製品を発表して人々のライフスタイルを大きく変えてきましたが、ブランドランキングの首位に一気に躍り出たのは2012年のことでした。

初代iPhoneが2007年に発表されてからわずか5年での快挙です。勝てるイノベーションを創出するで紹介したように、自動車が発明されてから一般に普及するまでに150年以上もかかったのに比べると、スマートフォンはまさに21世紀型のイノベーション創出の最たる例と言うことができるでしょう。

2012年といえば、iPhone5が発表をされた年で、同時に次世代高速通信である「4G LTE」のサービスが開始され、本格的なスマートフォン時代の到来を誰もが感じた1年でした。毎年のiPhoneの新作発表にはメディアの注目も集まり、世界中の大都市に出現したお洒落なApple Storeには最新機種をいち早く手に入れようと長蛇の列ができました。

同時期にAndroid端末を提供しているグーグルやGalaxyで世界市場でアップルと並ぶ高いシェアを誇る韓国のサムスンも上位にランクインするようになっており、私達にとって手放せないアイテムになったスマートフォンのインパクトがいかに大きかったのかがわかります。

ただ、アップルが11年連続でグローバルブランドのトップに立ち続けているのは、人々の生活を大きく変えたスマートフォンのマーケットリーダーであっただけでなく、確固たるブランドイメージに基づいた戦略的なマーケティングがあったからだと言うことができます。

アップルを他のブランドと差別化する要素として、①革新性、②メッセージ性のあるストーリー、③シンプルなデザインの3点がしばしば指摘されます。アップルのブランドを体現するものとして、よく引き合いに出されるのが、同社が1997年に発表したテレビコマーシャルです。

「Think Different」と名付けられたこのCMは、創業者のスティーブ・ジョブズが「世界を変えられると信じている人(クレイジーな人たちとCMの冒頭では言及)だけが、世界を変えることができる」と語り掛ける企業CMです。

そこには一切のアップル製品も登場しなければ、何の売り文句も入っていない、ただ自分たちが製品をつくる原点を訴えるものでしたが、当時の人たちに強いメッセージ性と共感を与えるものでした。

何よりも驚きなのが、パソコン界の寵児としてすでに1980年代に一世を風靡していたアップルでしたが、このCMが世に出る直前には最終赤字を10億ドルも計上しており、ひん死の状態であったということです。

誰にも真似できない革新性で、世界を変えるような製品を送り出すアップルの決意は、その後も一貫してブランドのアイデンティティとして引き継がれ、1,000曲の音楽が、このポケットに入っていますとスティーブ・ジョブズがプレゼンした「iPod」、ボタン1つという革新的なデザインで携帯電話、ネット接続、音楽視聴等の機能を実現した「iPhone」、ノートパソコンでもスマートフォンでもない第3のデバイスを提案した「iPad」と次々と革新的な製品を発表していきます。

こうしたブランドの姿勢そのものが、メッセージとして繰り返し体現されることで、顧客のアップルに対するブランドイメージは強化され続けているのです。「勝てる製品開発プロセスを構築する②」で触れたように、アップル自体は工場を持たない、いわゆるファブレス企業ですが、サプライチェーンに協力する企業は2022年の時点で188社と言われています。

アプリストアにサービスを展開するコンテンツプロバイダーも合わせると、無数の企業が参加する製品エコシステムのトップとして、アップルは多くのユーザーを魅了するようなブランドイメージをマネジメントし続けてきているのです。(山縣敬子・山縣信一)

後半の「勝てるブランドの構築 -その2-」はこちらから。

【特集:勝てる製造業】
勝てる製造業のDX
勝てる製品開発プロセスを構築する①
勝てるイノベーションを創出する①
勝てるブランドの構築-その2-

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

出展に関する詳細&ご案内はこちらからご覧ください。

<<これまでの記事>>

諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド①
日本の製造業の歴史を紐解いてみる
日本の製造業の競争力を低下させた構造的要因

「Next Industry 4.0」に向けて動き出した世界の潮流
少子高齢化に伴う製造業従事者の多国籍化
後継者不足の解消と事業承継支援の取り組み

製造業の変革期に求められる日本のトランスフォーメーション
日本の製造業に求められる4つの視点
社会課題の解決にむけたものづくり

勝てる製造業のDX
勝てる製品開発プロセスを構築する①
勝てるイノベーションを創出する①
勝てるブランドの構築-その2-