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メーカーと部品メーカーの主従関係の変化①

■「東京モーターショー」から「ジャパンモビリティショー」へ

2022年10月、20世紀を象徴する産業である自動車業界で、ものづくりの在り方が大きく変化していることを示すできごとがありました。

国内最大の来場者数を誇る「東京モーターショー」の名称を、2023年10月から「ジャパンモビリティショー」に変更して開催することが発表されました。

この名称変更に伴い、従来の大手自動車メーカーとそれらに部品供給を行うメーカーを中心とした自動車展示会から、未来のモビリティー産業を支える様々な業種の企業やスタートアップが参加するイベントへと大きく生まれ変わりました。

「東京モーターショー」の歴史は、前身の「全日本自動車ショウ」に始まります。第1回全日本自動車ショウが開催された1954年は、高度経済成長が始まろうとしたタイミングとなります。

時代は「3種の神器」と呼ばれた
冷蔵庫、
洗濯機、
掃除機の普及期で、
庶民にとって自動車はまだ「高嶺の花」ともいえる存在でした。

その後の高度経済成長とともに進んだモータリゼーションの象徴として、「全日本自動車ショウ」は出展企業数と来場者数を伸ばしていきました。

1964年に名称を「東京モーターショー」に変更してから、オイルショックの影響による一時的な停滞はありましたが、日本の大手自動車メーカーの世界シェアの拡大と海外からの自動車輸入の自由化に伴い、再び規模を拡大しました。日本の新車の販売台数がピークを迎える1990年代には、世界が注目する5大モーターショーのひとつとなりました。

21世紀に差し掛かると、自動車産業を取り巻く環境は大きく変化していくことになります。国内の人口減少や生活スタイルの変化に伴い、自動車の所有に関する概念が大きく崩れ始めました。

具体的には、「カーシェアリング」や「ライドシェアリング」などです。
また、地球温暖化問題の対策として、CO2排出量削減の目標が定められる中、「電気自動車(EV)」を始めとした次世代のクリーンエネルギーを動力とした自動車への転換が模索されています。

さらに、自動車の制御技術に関しても、エレクトロニクス化が進み、かつては遠い将来の夢として構想されていた「自動運転技術」も実用化を迎えようとしています。

このように、自動車産業は便利さと豊かさの象徴として、国民生活の向上と共に大量生産を目指していましたが、今まさに岐路に立たされています。

特に「EV」と「自動運転技術」の2つの流れは、エレクトロニクス産業やIT産業との垣根が希薄化していることを示しており、従来の自動車産業が得意としてきた、ものづくりの在り方に革命を起こそうとしています。

また、自動車所有に関する価値観の変化は、従来、自動車に求められてきた機能や品質に対して根本的な見直しが迫られており、これまでの生産ネットワークの在り方に変革が求められています。

こうした新たな潮流を先行して経験をしてきたのが、エレクトロニクス産業になります。家電製品やパソコン・スマートフォンなどの通信機器が世界中に広まり、それぞれがインターネットでつながり、新たな利便性をユーザーに提供してきました。

ここでは、20世紀のものづくりの象徴であった自動車産業と、21世紀に入りいち早く変化を遂げたエレクトロニクス産業に焦点を当てて、製造業の生産ネットワークにおける分業体制の変化について考察していきます。

■「ものづくり」における分業体制の変化

ものづくりの在り方の変化を示す類似概念として、「インダストリー4.0」という考え方があります。

18世紀に英国で始まった蒸気機関を動力として工場の機械化を図る「インダストリー1.0」、19世紀後半の電気の実用化に伴う工場の電力化と大量生産体制の実現を可能とした「インダストリー2.0」、1970年代以降のエレクトロニクス産業の発展により工場の各ラインのデジタル化と自動化を促進した「インダストリー3.0」という時代認識を踏まえています。

「インダストリー4.0」の時代には、デジタル化した各工場や各ラインがネットワークで接続をされることによって、クラウド上に「デジタルツイン」(現実の世界から収集した、さまざまなデータを、まるで双子であるかのように、コンピュータ上で再現する技術)が再現できるようになり、データ解析やAI技術の活用によって、生産ネットワーク全体を自動的に管理できる「スマート工場」が可能となります。

「インダストリー4.0」という考え方も、変化するものづくりの在り方を理解する上で重要な概念ではありますが、ここでは、生産過程での分業体制にフォーカスするため、経済産業省の「日本の『稼ぐ力』研究会」がエレクトロニクス産業の競争力低下を分析した資料が提示する「ものづくり1.0~4.0」という概念に基づいて考察を展開していきます。(図-1)

 (1) 「ものづくり1.0」から「ものづくり2.0」へ
(インテグラル型/モジュラー型)

「ものづくり1.0」の世界では、生産で必要となる技術の多くは完成品メーカーが保持しており、製造工程の多くは内製化されています。

自社内で調達できない部品や部材が外部企業に発注されることもありますが、その場合も完成品メーカーが主導をして、製品を設計して、製品に必要なパーツを部品メーカーに発注し、部品メーカーは完成品メーカーが要求する基準で製造を行い、完成品メーカーへ納品する形となっています。従って、発注者である完成品メーカーが主で、受注側の部品メーカーが従という関係性となり、こうした関係性を垂直分業といわれています。

このような分業体制が効率的である条件は、製品の生産に必要な技術やノウハウが完成品メーカーに集中していることと、製造過程で完成品を構成するパーツを微調整しながら組み合わせていくことが重要であることが挙げられます。このようなものづくりの進め方は、インテグラル型(擦り合わせ型)と呼ばれ、現場の研究員や技術者がまさに「擦り合わせ」をしていくことによって、システム全体を最適化させます。

高度経済成長期の日本の製造業は、オートバイ、自動車、小型家電などの分野で、旺盛な内需を背景とした十分な需要、安定した金融システムを背景とした資本調達、さらには豊富な労働力に基づいた現場力で順調に成長を遂げていきます。

これに伴い、完成品メーカーによる部品メーカーへの技術支援が進み、部品メーカーの品質改善が図られました。1970年代までに技術力と資本力を高めた一部の部品メーカーが、単なる下請けの次元を超えて独自の開発力や提案力を持つTier1(ティアワン)企業へと成長しました。

この間に自動車業界では、特定の自動車メーカーと部品メーカーが緊密な関係を保ち、特定の部品については系列内の企業に長期に渡って継続的に発注し、新規開発についても共同で進めていく垂直分業体制が構築されました。

系列内の取引では、中長期的に安定した取引が保証されたため、現場技術者どうしの交流が深まり、技術も系列内で蓄積されました。また部品メーカーが、開発の早い段階から参画していくことで、部品や完成品の品質を高める方式は、日本の自動車メーカーが世界に輸出攻勢をかけていく上で大きなアドバンテージとなりました。

こうした商慣行が、部品メーカーとの協力で在庫を最小限にまで抑える「かんばん方式」を実現しました。

「ものづくり2.0」の世界では、機能単位別に完成された部品を設計書通りに組み合わせるだけで完成品が生産できる「モジュラー型(組み合わせ型)」分業体制が想定されています。

電子部品を組み立てて完成する家電製品や、パソコン・スマートフォン等の情報通信機器などのエレクトロニクス産業が、これに該当します。

「モジュラー型」の分業体制では、製品の性能や品質を決める仕様の決定権が部品メーカー側に移行します。わかりやすい例を挙げると、パソコンの情報処理能力を決めるのは、中央処理装置(CPU)の性能であって、CPUやメモリーあるいはディスプレイといった各モジュールを組み立てるパソコンメーカー側ではありません。

このような変化は、各モジュールをつなぐ「インターフェイス」と呼ばれる規格が共通化されたことで、部品間の擦り合わせが不要になったため生じました。

日本の製造業でも、エレクトロニクス分野ではいち早く「モジュラー型」の開発・生産体制を経験します。

1990年代からイノベーションの最先端が、デジタル家電、情報通信機器、半導体へと移り、一気に「モジュラー型」へとシフトしました。

一方で、自動車でも電装品と呼ばれるエレクトロニクス系部品、例えば、エンジンを始動させるスターター、ウィンカー、エアコン等は、1つのユニットとして完結しているため、擦り合わせの必要性が少ないですが、基本的な性能である乗り心地や安全性といった部分は、運転に関するあらゆる部品の微妙な擦り合わせが必要となります。

自動車産業もエレクトロニクス産業と同様に、1970年代から80年代にかけて、すでにアジア諸国へ進出して現地生産を開始し、技術移転も進んでいましたが、依然として多くの製品はインテグラル型であったため、垂直型統合型の分業体制にとどまりました。(山縣敬子・山縣信一)

>>「 メーカーと部品メーカーの主従関係の変化②」に続く
(2) 「ものづくり3.0」、そして「ものづくり4.0」へ
  (クローズド型/オープン型)
(3) 日本のエレクトロニクス産業の敗北から学ぶ教訓

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

出展に関する詳細&ご案内はこちらからご覧ください。

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