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少子高齢化に伴う製造業従事者の多国籍化

■少子高齢化の影響

日本は世界で最も急速に少子高齢化が進んでいる国の一つです。1947年から1949年のベビーブーム、その世代が子供を産んだ1971年から1974年の第二次ベビーブームによる出生数増加があったものの、 それ以降の出生数は低下し続けており、2011年から人口は減少に転じています。

生まれる子供の数が少ない一方で、平均寿命は男女とも80歳を超えています。その結果、2020年の国勢調査では15歳未満人口が11.9%に対し、65歳以上の人口は28.6%に達しており、2038年には65歳以上の割合が3人に1人を超えると推計されています。一方で、15歳から64歳の生産年齢人口は1995年の8,762万人をピークに減少に転じており、2020年には7,509万人となっています。これは2015年に比べて227万人の減少となります。

少子高齢化の影響は労働力不足の問題としても現れています。退職する高齢者が増えている一方で、若年層の人口が減少しているため、このギャップを埋めるのに十分な若者がいません。その結果、全ての産業で問題が顕在化しつつあり、製造業も例外ではありません。

特に中小企業における労働力不足は深刻です。2022年度版の中小企業白書によると、従業員数過不足数DI(従業員の今期の状況について「過剰」と答えた企業から「不足」と答えた企業の割合を引いたもの)は2013年第4四半期にマイナスに転じて以来、慢性的な人手不足となっています。労働力不足対策として日本政府は女性や高齢者の労働市場への参加を促進する政策の推進に加え、外国籍労働者の受け入れ拡大も図っています。

■製造業従事者多国籍化の現状

製造業で働く外国人労働者の数は2020年、2021年は新型コロナウィルス感染拡大の影響で若干減少したものの、基本的には増加傾向にあります。(図―1)2022年10月末現在の「外国人雇用状況」の届出状況まとめによれば、2022年の外国人労働者の総数は182万2,725人となっており、うち製造業で働く外国人労働者は48万5,128 人と約4分の1を占めています。

国籍別に見ると、ベトナムが17万1,142人、中国が7万1,974人、フィリピンが6万9,058人、ブラジルが5万3,059人となっています。(図―2)

出所)厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめより筆者作成


出所)厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ 令和4年10月末現在より筆者作成

日本における外国籍労働者受け入れの在留資格としては、「技能実習」と「特定技能」があります。「技能実習」は1993年に創設された制度で、開発途上国などへの技術移転による国際貢献を目的としています。在留期間は最長3年でしたが、2017 年の法改正により最長5年に延長されました。

実習生にとっては技能を身につけ母国に貢献するための教育を受ける機会ですが、受け入れ企業、特に中小企業にとっては自社の労働力不足を補うため、事実上外国籍労働者の就業受け入れのための制度として利用されている実態があります。技能実習により就労する外国籍労働者約34万3,254人のうち、製造業は16万7,702人と約半数を占めています。

対して、「特定技能」は、特に労働力不足が深刻な分野において外国籍労働者を受け入れるために2019年に新設された在留資格です。相当程度の経験、知識を要する技能を要する業務に従事する外国籍労働者に対して最長5年の在留期間を認める「特定技能1号」と、熟練した技能を要する業務に従事する外国籍労働者に対し、制限なく在留を認める「特定技能2号」の2つの資格があります。

現在、製造業では「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野」が特定技能1号の対象となっており、技能実習生が試験に合格して特定技能1号の在留資格を得ることで、通算10年まで働けるようになっています。2023年6月には特定技能2号の対象とすることが閣議決定され、2024年春の受け入れに向けて準備が進められています。

製造業における在留資格別の状況を表したグラフが図―3(「外国人雇用状況」の届出状況まとめ 令和4年10月末現在)になります。「専門的・技術的分野の在留資格」には、高度専門職や企業内転勤などが含まれ、「身分に基づく在留資格」には、永住者や定住者などが含まれます。


出所)厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ 令和4年10月末現在より筆者作成

■多国籍化に伴う課題

日本の製造業における多国籍化は加速しています。それに伴い、いくつか課題が顕在化しています。主にここでは4つをご紹介しますが、これらは相互に関連しています。

(1)コミュニケーションの課題
言語の違いにより、日常的な意思疎通や安全指導、業務の質の維持が難しくなっています。また、文化、宗教の差異についての理解不足も、職場内のミスコミュニケーションや誤解を招く原因になっています。

(2)教育・研修制度の不足
外国籍労働者の多くを受け入れている中小企業では、外国籍労働者が必要とする技能や日本の職場文化を理解するための教育プログラムを十分に提供することができない場合があります。また、日本語教育の提供が追い付いていないことも、職場への適応が難しくなる要因となります。

(3)日本人労働者との格差
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、2022年の製造業で働く外国籍労働者の平均月給は、外国籍労働者で19万6,600円(平均年齢32.6歳)でした。同年代(30代前半)の日本人労働者の平均月給は26万1,100円となっており、約7万円の差があります。

法律では外国籍労働者の賃金水準は日本人労働者と同等にすることが求められていますが、外国籍労働者の多くが、経験が浅く、単純労働に従事しているため、結果として賃金が低いこと、言語の問題や教育体制の不足により技能の習熟度が上がらず賃金も上がりにくいことが想定されます。

また、外国籍労働者が在留期間等の問題から期限付きの短期雇用契約を結ぶことが多く、昇進や福利厚生の面で日本人労働者と同等の待遇を受けられないことがあります。

(4)法律・制度の課題
技能実習制度については、本来の技術・技能の外国人への移転という目的が既に形骸化しているにもかかわらず、転籍禁止などの制約により、外国籍労働者が権利を侵害されている実態があります。

政府の有識者会議は、将来的に技能実習制度を発展的に解消し、人材確保と人材育成を目的とした新たな制度を創出することを提言しています。新しい制度では受け入れ対象分野を特定技能と揃え、3年の育成期間で特定技能1号の水準の人材に育成し、継続して働きやすいようすること、また原則禁じられていた実習期間中の転籍を条件付きで認めることなどが盛り込まれる予定となっています。

■外国籍労働者の問題解決のためのプラットフォーム

「JP-MIRAI」

日本で働く外国籍労働者は言語やコミュニケーション、労働条件、職場環境、あるいは生活のための情報の不足など、業種によらず、さまざまな課題をかかえています。そうした課題への対応として、独立行政法人国際協力機構(JICA)と一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)が共同事務局となり、「責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」を立ち上げました。

「JP-MIRAIポータル」でのやさしい日本語による情報提供、各国語による相談窓口「JP-MIRAIアシスト」の開設、自身の労働条件や生活環境が適正で人権を侵害されていないかを確認できる「JP-MIRAIセーフティ」の提供など、外国籍労働者が抱える問題を解決するためのツールを提供しています。

また、企業向けには、ビジネスと人権の視点から、外国人受け入れのための研修プログラムやアドバイザー、弁護士などによる支援、送り出し国へのスタディーツアーの開催などを実施しています。(板垣朝子)

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

出展に関する詳細&ご案内はこちらからご覧ください。

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諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド②
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