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良い音で音楽を楽しむために

 皆さんはどのような環境で音楽を楽しんでいますか?イヤホンやヘッドホン、スピーカーと音の出る機材だけで考えても環境はさまざまだと思います。しかし、こうしてこのノートに辿り着いたのなら、きっと誰もが今より良い音で音楽を聴きたいと思っているはずです。実は、良い音は環境に関係なく存在しています。この記事ではどのようにして良い音に辿り着くことができるのかを紹介します。


1.良い音とは?

 まず、良い音とはなんでしょうか。本題の前にこれを説明します。
良い音の条件は、
①製作者の作った音が広く顧客に受け入れられる音であること
②録音された音(原音)が忠実に再現された音であること
③自分にとって心地よい音であること

の3つが挙げられます。

①製作者の作った音が広く顧客に受け入れられる音であること
 1番目の条件は製作者によるものですから、我々にはどうすることもできない部分です。製作者は顧客の大多数が使う機材、例えばAir Podsをテスト機材の1つとして用いることで広く受け入れられる音色や残響の音源を作っています世の中にはマニアが認める名録音盤というものがありますが、これはマニアが決めるもので、高級オーディオ機器で再生した際に音音色や残響がほど良い盤のことです。多くの人は名盤とかは関係なく自分の好きな曲を自由に聞きたいでしょうから、1番目の条件において気を付ける点はあまり癖の強くない機材を使うようにすることくらいです。

②録音された音(原音)が忠実に再現された音であること
 2番目の条件はオーディオ機材が目指す原音再生そのものであり、よくフラットな音と言われるのは、このことです。原音というのは難しくて、アーティストのライブへ行っても、座席の位置やホールの環境によって大きく左右されてしまいます。また、人によって思い出による補正もあります。たとえスタジオ録音であっても使っているマイクや製作者の視聴環境によって音色が変わってきてしまいます。もっとも、機材選びは作者の意図するものであることも多いですが。
 原音再生といったときに、こういったあいまいさがあるために、機材を次々と入れ替えるマニアも少なくないというのが現状です。何か絶対的な指標があれば良いのですが、それは測定器(例えば、スペアナ)ということになってしまい、現実的ではありません。最も現実的なのは、聴覚上フラットな音を出す機材を自分のスタンダードとする方法だと考えています。これを基準に自分の好みの方向に僅かに音色をイコライザー等で寄せてあげるのが良い音への近道です。イヤホンやヘッドホンではこの方法でそれなりの環境を整えることが可能です。スピーカーの場合は音色や残響が部屋に依りますから単純にはいきません。まずはイヤホン、ヘッドホンでスタンダードとなる環境を整えて、それと聞き比べながら調音していくのがよいでしょう。フラットな音と言われて困ってしまう方はイヤホンではRHA MA750、ヘッドホンだとSHURE SRH1840 やaudiotechnica ATH-AD2000Xあたりの音を聞いてみると良いと思います。

※ 一部の人々は、スタジオやライブ会場の機材は大体お決まりのものなのだから、これらを自宅に揃えればよいのではないか、と言います。プロ用機材には高品質なものもあり、この主張は部分的に正しいと言えます。しかし、プロ用機材に求められるのは高い信頼性と耐久性、音源の品質確認のための粗探しの性能です。プロ用の機材は必ずしも我々顧客のニーズと合致する性能を持っているとは限りません。顧客はあくまで音楽を聞いて感動したいのだと私は思います。粗探しをしている方は多くないでしょう。

③自分にとって心地よい音であること
 3番目の条件は一番大切なことだと思います。ただし、この基準は個々によるもので、一概にはいえません。これがオーディオ機器の多様性を生み出しています。好みだからどんな音でも良い音なのか、と言われるとそうではなく、1番目の条件をある程度満たしている必要があります。例えばレコード盤で聴いた音がCDで聴いた音に比べて良いという発言はたまに耳にします。こういった記録メディア同士の争いはどの時代もあるように思います。実際にMDは音源を圧縮していることからマニアや製作者から嫌われて廃れた過去があります。一方で記録方式のスペックではレコードとCDで差はないと言えるので、音の味付け、つまり音色と残響による差なのだと思われます(盤による部分はありますが同じ音源、モノラル/ステレオで比較した場合)。音色はすなわち周波数特性です。周波数特性は、それぞれの音の周波数によってどの程度の音の出力があるのかをあらわしたものです。おおざっぱに言えば、低音が強いだとか、そういった傾向を表すものです。例えば使っているイヤホンやヘッドホン、スピーカーによってドラムのハイハットの聞こえ方が異なったりするのは、これらの周波数特性が異なるからです。この音色周波数特性)と残響を自分好みにしてあげれば、自分にとって心地よい音、すなわち良い音に近づきます。

 結局上記の3つの条件から、前述の聴覚上フラットな音を出す機材を基準にしてそこから自分好みに調音するのがよいということがわかります。以下では具体的に音色と残響の調整の方法を述べていきます。


2.音色とは?音の好みについて
 
そもそも音色とは何でしょうか。例えば、ピアノとヴァイオリンで同じ「ラ」の音(A440)を鳴らしたとしても、同じ音色には聞こえません。この原因は楽器の音にはたとえ1つの音であってもさまざまな周波数の音が含まれているためです。それらが合成された音が音色としてそれぞれの楽器を特徴づけています。この周波数のバランスを整えるのがイコライザ(EQ)と呼ばれるものです。
 イコライザという言葉は、どこかで聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。イコライザという言葉はイコールからきていることからもわかるように、各周波数の聴覚上の音量を整える意味合いがあります。身近なところだと、簡易的なイコライザが音楽再生ソフトに付属していたり、カーステレオなどの音響機器にBass (バス:低音)やTreble(トレブル:高音)の調節機能がついていたりします。よく探すとAndroid の設定の中にもイコライザがありますから、一般的に備わっている機能であるといえます。そもそもなぜイコライザが必要なのかというと、人間の耳は音量によって聴覚上の音のバランスが変わるからです。具体的には、人間の耳は大音量では比較的フラットに聞こえると言われていますが、小音量では低音と高音が聞こえにくくなってしまいます。さらに、楽曲毎にある特定の周波数が強かったり、世界の音楽トレンドが変わったりすることから、全ての楽曲に適した調整を行うのは容易ではありません。それゆえに、顧客の好みや環境に合わせた機材選びをするべきだという意見が多くみられるのです。
 ここでひとつ例え話をしましょう。目が悪くなって眼鏡屋に行ったとします。そこには視力測定器があり、乱視なども含めて判定して機械的にレンズを選択してくれます。そうして出来た眼鏡をあなたがもし初めてかけたならば、目が良く見えるようになったことに感動するはずです。日常生活が快適になるならば眼鏡に数万円の投資をする人が大多数のはずです。
 では、オーディオの場合はどうでしょう。使っているオーディオ機器に満足できずにオーディオ屋に行ったとします。そこには他社と差別化するためにメーカー(やシリーズ)の特徴的な音色のあるオーディオが置かれています。価格が上がると性能も上がりますが、音色は好みに応じて選ぶ必要があります。一つ一つの機材を確認するのにも1曲分の時間程度がかかりますから、好みがはっきりしていない人にとって、とても敷居の高い買い物になるでしょう。一般にオーディオ機器は無くても生活に困らないというのも腰を重くしている要因です。あくまで生活を豊かにするためのものなので、眼鏡の場合に比べて買い求める人数は少なくなります。それによりオーディオ機器を価格が上がってしまうのですから、少しでも興味を持ってくれるひとを増やして、みんなで幸せになりたいものです。
 良い音で音楽を聴きたいと考えている人にとって大切なのは基準となる音色を持つことです。例えば、楽器の演奏を間近で聞く経験をするのは最もよい方法です。それが出来ないのならば、上記の比較的音色がフラットな機種で色々な曲を聴いてみると良いでしょう。この作業を行わない場合、世にあふれた各メーカーの特徴的すぎる音色に慣れてしまって、楽曲によってあれこれ機材を後々買い足したり、迷走してしまいます。
 私の考える理想の音とは、各楽器やボーカルの音色が正しく表現されており、何より気持ちよく聞ける音です。この理想を叶えるためには、イコライザによる調音が欠かせません。音色に特徴のあるオーディオ機材を無限に組み合わせて偶然、理想的な音が鳴った場合はそれでよいですが、そうならないことがほとんどだからです。イコライザを邪道だという人々もいますが、音楽制作の現場では当たり前に使われているツールなので、使えるものは利用するのが良いでしょう。

3.音色と残響を調整する

3.1 音色の調整
 
音色を調整するためにはイコライザ(EQ)を使用します。可能であれば周波数(Hz:ヘルツ)毎に音圧、音量(dB: デシベル)を調整できるものを用いるのが望ましいでしょう。このようなイコライザは身近なところだと音楽プレイヤーソフトやスマホの機能として備わっているほか、高性能なものだと音楽用機材であるグラフィックイコライザや一部DACに備わっているパラメトリックイコライザがあります。まずは身近なものから試すのが良いでしょう。
 以下に楽器の音の周波数範囲と各周波数の音の特徴、調整の際のポイントをまとめます。これらの記載を参考に音圧を調整してみてください。大体のEQは±10dBの範囲、1目盛り1dBあるいは0.5dBで調整できます。±10dBの範囲ならば如何様に数値を設定して良いです。巷で出回っている高音質のEQ等は作ったその人の環境のものでは良いものというだけですので、環境が共通でないのならまったく参考になりません。ご自身で地道に音楽を聴きながらEQ設定を追い込む必要があります。たまにEQをオフにして違いを比較しながら設定すると良いでしょう。ここでフラットな機材での試聴経験が活きます。標準の音を見失わないように気を付けながら設定をしてみてください。

楽器の音の周波数範囲 (https://masatsumu-dtm.com/word_23-frequency/より引用)

各周波数の音の特徴
50-100Hz:
  バスドラやベースの帯域。50Hz付近は低域の沈み込み。100Hz付近までの低音は空間的に広がりやすいので包まれ感、すなわち音場の広がりを感じるために不足してはいけない。
400Hz:  ボーカルやギターの帯域。ここを増やすとボーカルやギターの存在感が増し、女性ボーカルの声の重心が少し下がる。減らすとハイ上がりになって抜け感、すなわち倍音が強調される。
800Hz:  ボーカルの倍音や、スネア、ギターの高音帯域。増やすと奥行表現や艶(息遣いなど)が出る。増やしすぎると艶が出過ぎて聞きづらい。
2kHz:  各楽器のアタック音と女性ボーカルの倍音が含まれる帯域。低音域とのバランスを見ながら調整するとよい。増やすと楽器の迫力が増すして、女性ボーカルの抜け感がでる。一方でボーカルの明瞭性は損なわれる。
4kHz:  シンバルやハイハットの帯域。人間の聴覚上敏感な帯域なので特に小音量のときに増やしすぎると耳障り。シンバルやハイハットの存在感を最低限だして、とりあえず控えめにしておくと良い。
7-8kHz:  シンバルやハイハットの倍音の帯域。増やすと聴覚上は音全体の解像度が増したように感じる。つい増やしてしまいがちだが、耳障りな音にならないように注意。シンバルやハイハットの倍音でもあるので、それらの響きが嘘くさくならない範囲で調整すると良い。
14kHz以上:  高音を奏でる楽器の倍音が含まれる帯域。増やすと、左右の分離が進み、音の抜け、透明感が増す。音全体に与える印象も大きいので、他の帯域に比べて音圧を下げ過ぎないように注意が必要。一方で、増やしすぎると耳鳴りがするような不快感がある。


 調整の際のポイント
・楽器の出した音の周波数の2倍の周波数の音の音量を増やすと高域の伸びや付帯音による艶や高音の伸び感とともに輪郭が浮かび上がる。しかしその分、その音の明瞭さが失われる。1倍音とのバランスをとる必要がある。
※女性ボーカルを際立たせたり、透き通った音を追い求めると倍音のある1kHzから3kHz弱の音圧が過剰になることが多い。特に2kHzあたりはサ行の刺さりの原因になるのでほどほどにする必要がある。この内容は他の楽器にも当てはまる。
・100Hzまでの低音は増やしすぎると全体の音がぼやけてしまう。その場合は100-200Hzを-0.5dB、2kHz付近を+0.5dB程度の調整を加えるとアタック感じが出て若干の改善がみられることが多い。この調整を行う場合は100-300Hz付近の音を出すベースやギターの音圧不足に注意すること(単純に聞こえにくくなる)。また、電源の安定性や部屋の音響処理に気を遣うとぼやけにくい。
・低音の倍音が過剰だと詰まった音に聞こえがちになる。50Hzの倍音である100Hzが過剰である場合がその一例である。50Hzの低音に不自然さを覚えた場合にはその倍音の100Hzとの音圧差を調整する必要がある。
・高域の抜けが悪くなったと感じるならば7-8kHzあたりを+0.5-1dB程度してたうえで、必要に応じて10-14kHzの範囲を右肩上がりの形で数dB程度増強してあげればよい。この際、4kHz以上の帯域を増やしすぎると耳に刺さりやすい音になってしまうので注意すること。


 EQについて以下に但し書きをしておきます。
① 良質なEQでない場合は機種に依りますが、大きく振りすぎると音質が悪くなることがあります。その場合は±6dBあるいは0-10dBまでの範囲で数値を設定すると改善する場合があります。また、音圧dBの目盛りがない場合は最大値を+10dBとして1目盛りの大きさを推測してください。
② Bass (バス:低音)やTreble(トレブル:高音)の調整のみしかない場合は、それぞれおよそBassが80-120Hz以下、Trebleが4k-6kHz以上の周波数の音量を調整するものだということを知っておけば、上記の内容が応用できると思います。

3.2 残響の調整
 最も手軽な調整はDAC(デジタルアナログコンバータ)にたまにあるDAフィルターで残響時間を制御します。これで好みのモードに切り替えます。DACをお持ちでない場合はこの調整はできません。録音された残響時間を精密に再現したい場合は、なるべく振動の収束の早いモード、可能であればノンオーバーサンプリング(NOS)モードするのが良いでしょう。但し、NOSを使用した場合にはおよそ8kHz以上の周波数領域で音圧の低下が起こるので、8kHzで+1dB、16kHzで+5dB程度の補正を行う必要があります。
 スピーカーの場合は、これに加えてスピーカー本体や床を補強したり、バスレフポートのフェルトを詰めたりすることで残響を調整します。スピーカーインシュレータも有効です。また、詳しくは述べませんが、部屋の寸法による共振が起こるので、その効果を抑制するために、部屋の角に数十㎝程度の吸音材を設置すると効果的です。ここまでの内容だと残響は悪だと思われるかもしれませんが、そうではありません。残響を上手く使って音楽性を表現しているDALI MENUETというスピーカーもあり、この音には一定の説得力があります。それでも調音の手法は覚えておいて損はありません。
 ヘッドホンやイヤホンには開放型や密閉型といったものがあります。この型により、響きが大きく異なりますので、本体を加工して開放度合いを調整することで残響や周波数特性を変更することが可能です。しかし、その不可逆性から、本体の加工を皆さんにはおすすめしません。過去に音場を広くする目的でaudiotechnica ATH-W5000のハウジングに穴をあけた例があります。この穴は残響にも当然影響を与えますが、周波数特性にも影響があります。W5000は密閉型なので、開放型に近づけると低音が弱くなるのです。このようにヘッドホンは繊細なものなので、素人が浅い考えで加工するのは難しいです。構造的に無理のあるものを求めすぎないようにすることは大切です。

4.まとめ
 
今回は自分にとって良い音をどのように手に入れるのか、私なりの方法を紹介しました。是非、オーディオ売り場に足を運んで自分に合った機材を見つけてみてください。その際には買わなくても良いので高級オーディオも視聴してみることをお勧めします。そこには確かに説得力のある音の世界が広がっているはずです。そうした試聴経験があなたの買い物をより良い方向へ導いてくれるでしょう。ここまで音の話をしてきましたが、気に入ったデザインの機材を揃えるというのも一つの楽しみ方だと思います。皆さんそれぞれの形で良い音楽ライフをお過ごしください。


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