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好きなものを諦めない「しゅー」の生き方

第5回公演「38.9℃の夜」で智恵子をモデルにした1人の女性を演じるしゅー。福島県出身で、福島大学を卒業後に上京。高校から演劇を15年間続けている彼女だが、今回の舞台をもって役者を休業することを宣言した。彼女にとって節目となる舞台にかける想いをこれまでを振り返りながらお話を伺った。


東京でアパレル通販サイトのWEBディレクターをして現在6年目。好きなことを仕事にしたいと服飾関係の道に進んだ。しかし、最初の3年は自分の希望の部署ではないカスタマーの仕事をしていた。すぐに辞めていく人が多い中でも続け、念願叶って好きなことができる環境に身を置いている。


高校時代に演劇を始め、大学でも演劇サークルに所属をし、卒業後はフリーで様々な舞台に携わり、気がつけば15年が経っていた。彼女が思うお芝居の魅力は、ナマであること。その場にいるお客さんのために、人が目の前で泣いたり怒ったりするのは贅沢な空間だ。


子供の頃は、周りの声や先生の評価を気にしながら勉強をきちんとするような子どもだった。しかし、高校で演劇に出会ってからは、勉強そっちのけでのめり込んだ。舞台で表現する魅力に取り憑かれた彼女は大学時代にダンスに出会う。上京してからコンテンポラリー、ジャズ、クラシックを本格的に習い始めた。体で語れる表現はダンスもお芝居も通ずるものがあると感じている。


演劇人生の中で特に印象的な舞台があるという。それは自分が主役をする大学の卒業公演だ。公演予定が2011年の3月11日だったこの日、未曾有の影響をもたらした東日本大震災が発生した。最後になるはずだった自分の舞台が中止になってしまった。当時の仲間とこの日を夢見て魂を注いで作り上げてきた舞台が、完成しなかった。


それでも彼女は諦めなかった。どうしてもやりたくて、社会人になって東京に出てから、仲間に声をかけた。上京したばかりでお金もなかったけれど、とにかく完成させたい。自腹を切ったためにクレジットカードの請求額が10万を超えて驚愕した。当時の自分はどうして生きていたのか分からない。そのときのエネルギーは異常だった。どうかしてた。でもどうしてもやりたかった。その異常な熱意によってリベンジ公演を果たすことができた。偶然にも別れをテーマにした舞台は時代の空気感にも合っていた。その時の役が今だに残っていると彼女は話す。卒業公演で燃え尽きるはずだった火が消せず、かれこれずっと続いたままここまできた。



箱庭第5回公演「38.9℃の夜」は、福島大学演劇研究会出身の既婚女性3人が、「結婚」をテーマに舞台を作るというコンセプトだ。
 

結婚して5年ほど経つ。結婚した理由は、一人暮らしの寂しさにやられたから。常に孤独がまとわりついて離れなかった。東京生活は東日本大震災が発生して間もない頃、真夜中にたった1人でスタートした。予約した引越し業者は震災を理由に来られないと告げられ、身ぐるみ一つでタクシーに乗って上京した。家具も持っていけなかったから何にもない部屋にがらんと1人きり。それでも大家さんが家賃を負けてくれるなど人の優しさも素直に染みた。寂しくて染みた時期だったから、結婚も自然と浮かんで来たのかもしれない。2人でいると改めて自分が1人が嫌いであることを痛感する。人がいるというそれだけの事実が、孤独を和らげる。


結婚する前は、結婚は閉鎖的なイメージを抱いていたという彼女。結婚してみると、閉鎖的というより重りがある感覚。でも重りがあるのはいいことだと感じた。

「結婚という重りがあることで、迷わなくなる。明確になる。優先事項ができる。若い頃は怖いもの知らずだった。仕事が辛いとすぐに退職願を出せていたが、家族がいる事で耐えることができる。いやいや出ていた職場の飲み会も、断りやすくなった。」

重りが多すぎると足かせになるが、適度な負荷は自分の芯として味方になってくれるようだ。



休みの日は夫と映画を観たり、ロードバイクで遠くまで走るなど共通の趣味を持っているが、唯一共有できないのが演劇。自分が好きな演劇の良さを分かってくれないことが、時にはもどかしく感じることもあるのだという。2人で楽しく暮らしたいけれど、演劇モードに入ると自分を追い込んで余裕をなくすこともある。でもお芝居も、創作活動も、楽しい結婚生活も決して諦めない。


第5回公演「38.9℃の夜」では智恵子をモデルにした1人の女性を演じる彼女。自分と智恵子は同じ福島から上京したという共通点があり、共感できる部分がいくつかあるという。
智恵子は光太郎と芸術家同士だが、自分はWEBディレクターで、夫はWEBデザイナーというクリエイティブな仕事をしている同士。0から何かを立ち上げている瞬間をみるのがが好きで夫の仕事をとても尊敬している。だからこそ智恵子が光太郎に抱く憧れの感情は共感できる。そして智恵子が故郷に対して言った「ほんとうの空がある」という言葉に激しく共感を覚えるそう。星の数が違うとか、数値化、言語化ができないレベルで違う。何かは具体的に言えないけれどすごいわかるそうだ。

感性や私生活が似ているという彼女が演じる智恵子を、どんな女性として演じていきたいのか。


「この舞台をエンターテイメントとして完成させたい。」と強く話す。一度はこの舞台を断った。結婚というセンシティブなテーマをエンタメとして成立させる自信がなかった。でも、演出の志賀彩美の熱意に押されてオファーを受けた。自分が演じるからにはお客さんの心に何かを残したい。全力を尽くすという言葉通り、彼女は舞台の完成を目指すため、今日もストイックな練習と綿密な打ち合わせを怠らない。


振り子は重心があるから遠くへ飛べる。踊りは体に芯があるから表現できる。どんな環境でも自分が納得するまで好きなものを決して諦めない姿は「わたしの一生はわたしが決めたい。たった一度きりしかないわたしの一生ですもの。」と言った智恵子にシンクロして見えた。
自分の好きなものをカタチにするまで、全てをさらけ出して挑む彼女は、卒業公演で生まれた演劇での残り火を魂に灯しながら、最後の舞台で再び燃え尽きることを望んでいる。 


【出演】しゅー(演劇ユニット あかりラボ)H22年度福島大演研卒。就職を機に上京するが、地元である福島の演劇シーンでも活動。JAZZやコンテンポラリーなどダンスを中心に、幅広い身体表現を続けており、その個人として表現の探求は時代は違えど高村智恵子と重なる。

【インタビュアー&ライター】スナックおりんママ H27年度福島大学卒。福島県いわき市出身。H28~H30年度喜多方市地域おこし協力隊として3年間、熱塩加納町の魅力を発信する仕事に取り組む。同時期にローカルラジオ局で3年間ラジオパーソナリティを務める。現在は花屋で働きながら、年に数回福島県郡山市のスナックSHOKU×SHOKU FUKUSHIMAにて1日ママをしている。劇団きらく座に所属。未婚。
 


INDEPENDENT:SND 2019 参加企画
演劇ユニット 箱庭 第5回公演
『38.9℃の夜』

出演:しゅー(演劇ユニット あかりラボ)
脚本:長門美歩
演出:志賀彩美(演劇ユニット 箱庭)

7/5(金)19:30〜 1作品目
7/6(土)19:30〜 2作品目
7/7(日)13:00〜 3作品目

せんだい演劇工房10-BOX box-1(仙台市)



演劇ユニット箱庭Twitter↓




ヘッダー写真撮影 鈴木麻友

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