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好きをカタチにする「志賀彩美」という生き方。

演劇ユニット 箱庭は2016年に旗揚げをし「あなたの好きを“カタチ”にする」をコンセプトに活動しているアマチュア演劇ユニット。毎回、参加する役者も公演場所も脚本も全く違う。演劇の枠にとらわれないインスタレーションのような唯一無二の世界観にはファンも多く、前売り予約で会場を満員御礼にすることも。そんな演劇ユニット 箱庭の仕掛け人は志賀彩美(通称あやなみ)。脚本・演出・制作の他、時には自ら役者もこなす。これまで様々な人の「好き」を巻き込んでマネジメントを行ってきた。第5回公演となる「38.9℃の夜」では演出を務める。普段は会社員として活動し、仕事終わりや土日を使って稽古をする日々。彼女が今回の公演で作りたいものとは何なのか、彼女の人生観と共に探ってみた。


 
 
現在社会人2年目。大学卒業後、フリーターを経て仙台の企業で営業の仕事をしている。スーツを着るのは好きだし、人間関係もそこまで悪くないし、取引先への移動時間は自由に過ごせるしまあまあかな、と話す。


 
就職先の条件は、自分の時間が持てるかどうか。土日休み、定時で上がって稽古の時間を確保する。好きなことを仕事にするよりも自分の条件の中からはみ出さない最適を選んだ。
 


演劇活動ありきで就職先を選ぶほど演劇が好き。旗揚げ時は学生で福島在住だった彼女だが、就職をして宮城に拠点を移しても箱庭を存続させている。それほど好きであるなら、プロになるという選択肢もあったのでは?と聞くと「演劇で食っていこうという気持ちはない」と即答。自分の好きを作るために、会社員として安定した経済力で、演劇を続けられる環境を保つほうが大事なのだという。
 


そんな彼女の箱庭での役割のひとつが、舞台監督。全体の進捗を管理し声をかけが主な仕事。やりたいからやるというよりは、誰もやらないからという理由が近い。面倒くさいからやりたい人はいないけれど、自分は得意だし出来るからやる。
 


「誰もやりたがらないまま流れる空気がとにかく苦手なのは昔から。委員会や生徒会も、誰も手を上げないで決まらないのが嫌だから手を上げていた。特に苦痛じゃなかったし。」


 
役者をやりたいなって思うのは時々あるけれど、舞台監督になったからには全ての段取りを完璧にこなす。メンバーからの意見に対するレスポンスもとても早い。そして舞台監督ができる自分を誇りに思っているようだ。


 
この生き方や考え方は、「あなたの“好き”をカタチにする」というテーマにも現れている。「あなた」とはダンスや洋服など趣味を持っている人たちみんなのこと。せっかくの好きなものを仕事のせいで手放すことのないように、カタチにできる場として積極的に舞台に起用する。旗揚げ公演「星屑のサーカス」ではジャグリング関係のパフォーマーに声をかけ、演出に取り入れた。
 


 
毎回新たな挑戦、新たな人選でアップデートされる箱庭の舞台。第5回公演「38.9℃の夜」は、福島大学演劇研究会出身の既婚女性3人が、「結婚」をテーマに舞台を作るというコンセプトだ。
 


結婚でとても大切にしていることは、互いに独立していること。一緒に出かけることはあっても、基本的にはそれぞれ別の世界観で生きている。夫婦だからと干渉することなく、互いが勝手に幸せになっていこう。それは自分のためだけじゃなくて、相手のためでもある。自分を幸せにできないと、他人も幸せにできないから。どちらかが倒れたときに、支えられるような経済力を持ちたい。



「どうしたら自分が幸せになれるか?どうしたら自分の好きなように生きられるか?」と問いかけながら、世間の価値観や、常識、遠慮は徹底的に排除して自分の欲望をシンプルにする。純度の高い幸せの定義を作り、叶えるための最短距離を導き出す。生き方が何百通りもあって自分のコンパスはどれなのか迷いながら歩いている現代で、彼女は自分の幸せの定義に沿った道を堂々と歩いているように見える。



結婚で精神的にも経済的にも満たされ、自分にとっての自由と幸せを獲得した。それでも彼女が私生活の合間をぬって、創作活動を続けている理由を尋ねた。




「演劇を続ける理由は、好きだからに他なりません。自分だけでなく、誰もが好きを諦めない生き方を形にするために、箱庭を作り続けたいです。結婚という幸せのマジョリティに属してもなお、私が幸せになるためには箱庭が必要です。」





箱庭第5回公演「38.9℃の夜」で描かれる女性、智恵子の一生を描くだけではない。演出、脚本、役者それぞれが社会を泳ぎながらも表現活動を両立させようとしている。自分たちがいかに強く生きているか、いかに辛いかといった、人間として、女性として感じる生きづらさを智恵子の半生にのせて表現していく。明治時代に生きた芸術家の先輩たちも、令和に生きる自分たちも、同じようなことで悩んでいる。時代を超えて、智恵子と自分たちがリンクしたその先に光が灯せるように大切に舞台を作っていく。今までもそうだったように、彼女は今回もたくさんの人の好きをカタチにしながら、素敵な舞台を作り上げるだろう。

 
 




 
 
【演出】志賀彩美(演劇ユニット 箱庭)H27年度福島大演研卒。箱庭の代表、脚本・演出・制作など幅広く取り組む。脚本・演出について、観た人によってたくさんの解釈が生まれる難解さと余白が持ち味。2019年3月に結婚。世の中から求められる女性像や結婚観へのギャップに対し深く思いを馳せており、
現代の女性の生きづらさや孤独を表現できないかと考え、企画の全体プロデュースを行う。
 
【インタビュアー&ライター】スナックおりんママ H27年度福島大学卒。福島県いわき市出身。H28~H30年度喜多方市地域おこし協力隊として3年間、熱塩加納町の魅力を発信する仕事に取り組む。同時期にローカルラジオ局で3年間ラジオパーソナリティを務める。現在は花屋で働きながら、年に数回福島県郡山市のスナックSHOKU×SHOKU FUKUSHIMAにて1日ママをしている。劇団きらく座に所属。未婚。
 


INDEPENDENT:SND 2019 参加企画
演劇ユニット 箱庭 第5回公演
『38.9℃の夜』

出演:しゅー(演劇ユニット あかりラボ)
脚本:長門美歩
演出:志賀彩美(演劇ユニット 箱庭)

7/5(金)19:30〜 1作品目
7/6(土)19:30〜 2作品目
7/7(日)13:00〜 3作品目

せんだい演劇工房10-BOX box-1(仙台市)


演劇ユニット箱庭Twitter↓



ヘッダー写真撮影 鈴木麻友

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