『石橋湛山の65日』保坂正康(東洋経済新報社)を読む

ブックライター塾でご縁をいただいた編集者の方がつくられた本を読了しました。

短命に終わった〝まぼろしの政権〟が日本人に投げかけた謎に迫るノンフィクション
首相としての在任がわずか65日だった石橋湛山。近代日本史では最短に近い任期の中で、彼は何を残したのか。「最短の在任、最大の業績」とも言うべき、石橋政権の功績に迫る。

 こんな、自分の言葉を持つ首相がいた、というのは、驚きでした。いえ、正確ではありませんね。何ら品格のない言葉を吐く総理は、何人もいたと思います。自分の頭で考え抜いた理念、哲学、思想を、自らの言葉で語る内閣総理大臣は、少ないような気がします。

 それにしても、その潔い引き際は、このドロドロと汚濁にまみれた政界における、いわば“一服の清涼剤”ですね。病に倒れ、2か月後には復帰できるのに「自分のために政治に空白をつくることは許されない」と身を引く。カッコよすぎます。

 比べて、私も“大宰相”と思い込んでいた戦争直後のヒーロー・吉田茂の、往生際の悪さは際立っていますね。保身のために手練手管を繰り出すそのあくどさには辟易としました。
本当かどうかわかりませんが、近年もてはやされている白洲次郎の吉田茂への腰巾着振りも一刀両断にされています。

 正直、政策の是非については、私は語るべき判断基準を持ち合わせていません。ただ、戦前からその主義主張が一貫しており、また、GHQに対しても自らの信念に基づいて正々堂々と主張していたのは、なかなかできることではないと尊敬しています。
 
 果して私はどうだろうか。自説を曲げ、当面の見せかけの友好を保つため、汲々としているのではないだろうか。人によって態度や言説をコロコロかえているのではないだろうか。
喧嘩すればいいというわけではないが、もう少し、自分の信念を披歴してもよいかもしれない。そんなことをつらつらと考えさせられた本でした。

 少し話はそれますが、GHQによる「石橋湛山公職追放」の舞台裏には反吐が出ますね。
「世の中、悪い奴ほど、よく眠る」がまかり通るのですね。でも、最後は「正義が勝つ」と信じたい。「大甘」と言われそうですが。

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