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無題

助けてって誰に言えばいいのか、幾つになってもわからなくて今日も布団の上で黙って泣いている。メンタルクリニックも今日は休診日。明日、仕事はオペ日。

小学生の頃、助けてって交番に駆け込んで言っても迷惑そうに家に返されるばかり。

昨日は寝ている君に毛布をかけなおそうとしただけなのに顔にかかってしまって、君は人を恨むような目をした。眠りを邪魔したわたしが悪いから、その目がこわいから、ごめんねと慌てて言うものの、イヤホンをした君には届かない、そのまなざしを向けたままあなたは静かに再び瞼を閉じた。

人にあんな目を向けられたのは久しぶりだ。
むかしの恋人がわたしを監禁したとき以来だ。起きて少しでも動くものなら殴り蹴る、鼻血が出たって眼球が内出血したってお構いなしで、玄関へ走るわたしの髪をその白く細い華奢な腕で掴んで振り回してはわたしをただ殺してやるというまなざしで見つめて殴って蹴るだけだった。そのときも助けてだなんて言えなくて、だってさ救おうと近寄ってくる人ほど危ないことも知っちゃったんだよ、やさしい人ほど無責任に手を差し伸べられないからとただ黙ってそばにいることを選ぶことも知っちゃったんだよ、当時は自分が彼をこんなふうにしてしまったんだって自責することしかできなくて、与えられたお金では頼まれたものがすべて買えなくて、盗もうとして助けられた。

今だってほら、助けてって声に出してもそんな声は自分の甘えだって、わたしの声なんかは天井のLEDライトの白さに当てられて放散し家の前のマンション工事の騒音に掻き消されるだけ。

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