スピーカー直前とピックアップ直後

仕事の内容によって使用機材が大きく変化します。私の経歴の中で幕張メッセとか日本武道館とかの巨大会場では、むしろこぢんまりとしたブースで人と接触せんばかりの密なオケピに入りましたので、10インチや12インチスピーカーを単発で使う小型アンプを使いました。それらは小さめのライブハウスのPAを使用しない環境でも用いているセットであり、最も使用頻度が高いと言えます。

数千人規模の中小ホールにおいては、それこそ多岐にわたり、小編成でステージを広く使うか、大編成でオケピなのか、立ちか座りか、等々に合わせて使いやすい機材を選択します。15インチスピーカーの登板はこうした時です。それ単体では不満で10インチ2発のキャビを乗せたり、15インチではなく10インチ2発を2台、などもあり、一方8インチ4発も試したことがあります。アンプからの距離が遠くなれば、振動させる空気の面積を広げた方が聞こえやすくなります。離れれば離れるほど、スタック必至というわけです。

複数のキャビネットを組み合わせたり、鳴らす音量が大きい場合など、パラメトリック・イコライザーなどを駆使して共振を取り除き、フラットな特性を得ておく必要があります。この時、EQはパワーアンプ直前に繫ぎます。アンプ内のプリアンプより後、パワーアンプの手前ということで、シリアル接続のエフェクトループが備わっていれば使用します。それだと機材間のレベルが合わない場合があるので、機種選びは、その相性(レベルマッチング)とS/N比を勘案します。難しいことを考えずに、PA用のパワーアンプ、イコライザーを共に用意すれば、規格によってレベルが合いますし、バランス接続も可能となります。90年代まではこれでしたね。t.c.electronicの1140とAmcronのパワーアンプなどで。

このセットでは、アンプ側のフロントエンドが楽器向きになっておりませんので、プリアンプ部分を設ける必要があります。そこは現代においてはペダルタイプでも十分です。ただ、足元だと、調整が必要な場合にしゃがまなければならないですし、座っている場合などは占有空間が狭いために、より困難になります。アンプの場所にあった方が触りやすいので気が楽ですね。つまり、ベースの信号を受けるための変換器としてプリアンプ部があり、必要ならそこからPAへバランス信号を送れて(DI機能)、その後、鳴らすスピーカー・キャビネットを補正する意味での的確なイコライジング装置を経て、出力のためのパワーアンプへバトンを渡すシステムがベースアンプ・ヘッドに求める機能となります。現行機種には、もう存在しない形式ですかね。

それで、ベースに内蔵するプリアンプの方は、どう働くかといえば、ベースアンプヘッドの手前で、我々は様々な機材を使用するので、その「たらい回し」に耐える強い信号を造ってやれれば良いのだと思います。

個人的にはボリュームペダルが必須であり、チューニングメーターは演奏中もサイドチェインで常時稼働させておきます。これだけでもパッシブ・ベースは音質が劣化しますので、アクティブ(ローインピーダンス出力)の方が都合が良いです。現実には、エフェクターボードの入り口にバッファーアンプを置くので、ハイインピー区間は楽器とボードの間、3m程度のシールド部分のみになります。それでもアクティブの恩恵は感じます。

以上のようなシステムは、物量を投じた装備品によって、音質調整が完全に支配下に置かれています。会場がどうであれ、演奏する音楽がなんであれ、それに合うレシピで機材を持参すれば良いだけのこと。ですが、そうも行かない場合も多々あります。ひとつは駐車場代を負担するか否かの問題。リハーサルの時、本番に関しても、電車で行かなければならない時はあります。最小限の機材で臨まなくてはならないケースです。

そんな時にこそ、ベースに搭載されるEQが救ってくれます。私としては、自分のシステムなら出番は少なく、会場備品への依存度が高いほど、助けられる可能性が上がる、それがオンボードプリアンプとなります。スタジオに用意されるベースアンプによっては、アクティブのベースから、アンプのリターン端子へ直接繫ぐことすら稀ではありません。断然音が良いからです。

このように見ていくと、アクティブ・ベースの方が安心ですし、内蔵されるプリアンプの性能を決して軽く考えることはできません。



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