ベース弦のスケール、ゲージ、テンションの話 その1

楽器の調律は、一定の長さ、質量を持った弦を引っ張り(一般語としてはテンションをかけ)、固有振動数を求める数値にセットすることです。ここでは変数は張力となります。

買ってきた楽器には弦が張られており、そのように使う前提でバランスする弦の質量が選択され、楽器の弦長が決められています。商品分野に即して翻訳すれば、弦長は楽器の設計時に決定され動かすことができず、弦そのものは芯線の太さをゲージとして表示され、これを目安に自由に選ぶことができます。材質と構造が異なれば、同じゲージであっても質量が変わることは言うまでもありません。従ってスペック表記が同じ弦を買ってきても、メーカーが違えば、かけるべきテンションは変わります。

弦のゲージ(やメーカー)を変えて、調律時の張力を調節することで、弾き心地と音色を好みに持っていく、ということを我々は日頃行っています。変数は質量ということになります。つまり、ユーザーにやれることは弦を探すのみとなります。手に取った楽器から満足を得るために操作できる最も重要なパラメータと言っていいでしょう。

付け加えれば、弦が運動する環境を整えてやることはより重要ですし、ある意味で、そこは科学的に処理できます。弦楽器は一端を固定し、他方を変えることで弦長を任意に変化させて振動数を操ります。全ての状況下で弦が弓なりに運動できるスペースを十分に確保することと、弦長を決定するために置かれる末端の物質や、その先の処置、またはその土台における共振の影響を考え、理想の弦振動を「音楽的な」ゴールのためにコントロールする設計が必要です。

またエレキベース(エレキギター)ならば弦による発音を電気信号に変換する装置を内蔵することから、振動「以後」の変換と伝達処理に叡智を働かせなければなりません。ですが楽器本体のセッティングの優劣、エレクトロニクスの性能云々には、本稿では触れないことにします。

70年近く前にレオ・フェンダーが発明したエレキベースの雛形は、そのまま完成形となって今に続いています。現時点での典型的な定数は、弦長34インチ、ピッチ(振動数)は太さの異なる4本の弦によるコントラバスに準じた4種(E=約41Hz〜G=98Hz)に合わせるため、フェンダー社ならば 0.045、0.065、0.085、0.105インチの芯線をニッケルメッキされた鋼線で巻いたものを使用します。

ダダリオ社の資料によれば、同様のゲージセットであるEXL165の場合、G線で42.52ポンド、以下D=48.35、A=45.34、E=38.08となり、D線のテンションが一番強く、E線が一番弱い張力がかかっています。テンション感という言葉を使えばD線が一番「固い」感触となります。

このように、求めるピッチに合わせてゲージ(質量)を変えたけれども、実際にはテンションが揃っていない状態で、この楽器は長く使われてきました。

弦の固有振動数と、共鳴から得られる倍音構成の質、さらには構成する材質と電気回路によって、我々が聞くエレキベースの音が出来上がっており、それらは音楽に利用されて歴史を成し、我々の脳裏にそのイメージは焼き付けられています。

時代を経て、音域の拡大が求められた時、完全四度調弦の習わしに従って低い方へB弦(約30Hz)、高い方へC弦(約130Hz)を足した多弦ベースが一般的になりました。その両立に、旧来の設計思想が通用するのか、がこの稿の論点であります。

単純に、フェンダー社の4弦セットが芯線を等差で増減しているのに倣えば、ローB弦は0.125、ハイC弦は0.025のゲージが使用できるように思えます。

振動数を一定の弦長を保ちながら等比的に変化させるのに対し、質量を決める要素である芯線のゲージが等差的に決まっていることをまずは疑いたいと思います。弦は先述の通り巻き線によって完成しますので、芯線のゲージに比例して質量が増減するわけではありませんので、そこはサンプルを実測した上での考察も必要となるでしょう。

ピッチ(開放弦での固有振動数)を等比的に増減させるのに適した弦のセットを、具体的にサンプルの質量から逆算することで、商品に表示されるゲージと関連させたいと考えています(正確に求めることは現実的に不可能だとしても)。さらには、スケールの再考へと繋げられればと思います。




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