生徒さんのベースを選定する その4

20万円の予算で、ヒストリーのベースが有力候補になっている中、10万円で買える、出自の同じFGNが意外にも健闘している、という状況になっています。お店のベースコーナーには、J.W.Blackの新品も並んでおり、これくらいのバリューが有るものだと一目瞭然でした。生徒さんから見て、中古なのに半額じゃないの?高すぎない?みたいな反応がありましたが、昨今、程度良好な中古楽器はそこまで安くありません。JWBの中古を検索したら、他でも同価格で出ていました。

ベースコーナーはさほど広くないものの、やはりフェンダーはそれなりに多く在庫していました。American Professional IIという品が気になり、というのも特価が付けられて良い値段だったからですが、試奏と計量を願い出ます。

私が先に弾くのですが、あぁフェンダーだなぁというのが率直な感想。10本、フェンダー型の、言っちゃえばレプリカを各社から用意して頂いて、目隠して弾き比べて、たぶん私はフェンダー・ブランドを当てられると思います。ちゃんと軽量なペグが付いていてバランスが良く、重量は4.0kg以上4.1kg未満なので全然オッケーです。

低音弦がどーんと鳴らないフィーリングは、デフォルトで裏通しになっているためでしょう。ちなみに、同モデルの指板違いが、同じブリッジでも裏通しに「なってない」セッティングなので、そちらを参考にしようと試奏させていただきます。確かに、弦を強く折り曲げない方が、ズドンと大きく鳴ってくれます。

裏通しのテンション感が良いの悪いのといった議論があります。同じ弦で同じピッチに張るのでテンションは同じです。ただし、裏通しの場合、サドルの上で加えられる弦の折り曲げ角が大きすぎて、物質であり質量を伴う、金属製の弦というものが、そのために振動しにくい領域が拡張します。振動のしにくさが、ピチカートを行う付近まで広がっている時、弾く人はテンションが上がったなどと、うっかり表現してしまいがちですが違うと思います。

よくローB弦を裏通しにする、といった手法は、あの太い弦でBのピッチに調律したときの引張り力(テンション)だと緩すぎて音に締まりがない、と感じる場合に、ブリッジ付近でわざと弦を大きく折り曲げて、振動のしにくさを与え、結果、まとまりのあるような音に聞こえさせるというギミックだと考えます。正しい弦選択を行えば、あるいは35インチなどの、より長いスケールで設計すれば必要のない、デメリットだけが残る方法かと思います。

ただ、最初期のPB、後にテレキャスターベースと呼ばれる、あの楽器のブリッジは、ブリッジ自体がサドルしかないようなシンプルな構造で、テールピースが存在しないために弦をボディへと貫通させる設計です。そうしなくてはあの楽器の音が出せません。副次的に、弦の振動がボディに伝わりやすく、空洞ではないボディ材でも「鳴っている」感覚が強く感じられます。

横道に逸れてしまいましたが、現代のフェンダーに使用されるブリッジが表、裏の両対応になっているのは構いませんが、デフォルトのセッティングを裏通しにしてしまうと、その楽器に欠点を与えるような気がしてなりません。もったいないです。

指板違いではあるものの、2本のフェンダー同機種で弦の一端を異なる設定にしたものがあったので弾き比べ、やはり裏通しにしない方が明らかに自然であると判断できました。なので、裏通しの方を買っても、新しい弦は必要でしょうが、同様の鳴りが期待できます。

フェンダーもいいんじゃない?という新しい候補が現れたところで、我々はカフェに入り一服すると共に状況を整理します。とても迷っているようです。迷いの深さが見て取れましたので、候補を絞る助けを出そうかなと思いました。

あくまで、自分が買うならという観点で言います、と前置きし、あのフェンダーの個体は買わないと思います、と言いました。G弦の6フレット付近にデッドポイントがありました。ぱらぱらと手なりに弾いていて、デッドポイントに気付いてしまう、というのは、よく弾く辺りに出ているのと、何気なく弾いて気になるほど深いスポットになっている、という2点から致命的な要素になりかねず、早期に手放したくなることが予想されます(自分に限っての話です)。

ご存じなかったのでデッドポイントについて説明しました。どんな楽器にも、ほぼ有りますと。しかし他の楽器を試奏したときに、デッドポイントの存在を忘れたままでいましたので、それを気付かせたという点で、あのフェンダーは程度が大きいと見ました。後になって、だから安かったんですか?と尋ねられましたが、それは違います。戦略的な値付けであって瑕疵によるものではないでしょう。

そのとき生徒さんに電話が入ります。フェンダーを弾かせていただいたお店でした。アメリカン・プロフェッショナル2はローズ指板、サンバースト、表通しとメイプル指板、グリーンメタリックの裏通しがあって、後者の方が少しだけ軽かったので購入対象でした。曰く、サンバーストの方がたった今売れましたとのこと。他店よりも値段を下げていたのを見て、指名買いだったそうです。ですからもう1本もいつ売れるかわかりませんよ、という連絡でした。

だったら売れたら売れたでいいんじゃない?という気分になり、買い逃しても惜しくないだろうと踏んで、我々は候補から除外します。

それで、もう一回、私が買うなら、というところに話題が戻ります。私が買うなら、今日見た中でならJ.W.Blackの中古にしますと。単純に、リセールを考えてのことです。私は、余程その個体を気に入った場合を除いて、ほぼ新品を買いません。手放したときの損失を最小限に留めようと思うからです。これまで、相当数を売ったり買ったりしてきましたので…。

ぶっちゃけて言いますと、そのユーズドは198000円でした。税抜き18万円の50%、9万円が下取り、買い取りをしてもらうときの期待値になります(最低保証と言ってもいいでしょう)。フリマやオークション、あるいは委託で売れば、その1.5倍、14〜5万の実入りも可能でしょうから、売らざるを得なかった場合のロスは5万円程度です。

ヒストリーの、今対象としている機種の中古が10万円を切って出ています。手売りでざっくり9万円くらいになったとしても、(ペグ代は考えずに)10万円のロスです。

その方は生涯売らないとおっしゃいます。なので私の、この見立ては参考になりません。だから気にせず、ご自身の気に入るものをお買いくださいね、と伝えました。その後、我々は最初の店に、再度訪れます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?