近頃の関心事

dragonflyの34.5インチ5弦ベースはお譲りしました。音質には満足しており、40万円台で買える楽器として、そのカテゴリでもコストパフォーマンスは優秀です。1年間使い続けて手放すことを決めたのは、18mm弦間のブリッジ採用にもかかわらずネックの幅が広く肉厚だったためです。それが仕事で使うにはタフでした。

James JamersonがMartha Reevesのバックを務めている動画をご覧になったことがあるでしょうか。彼の目の前には長尺の譜面が置かれており、一切手許を見ること無く演奏を続けます。彼のバックグラウンドには、音楽大学でコントラバスで学んだ時期があったはずで、バスの演奏で手許(左手)を観ることが無意味なことは想像できることでしょう。自身をレジェンドに準えて語るのは恐れ多いと承知の上で、演奏のスタイルという点で共通する部分を理解して頂ければ幸いです。と、なんか釈明している風ですが、自分の行動を正当化しようとしているわけでもなく、いつも考えていることを開陳しているに過ぎません。

職業として楽器を弾く場合には、感覚が使用楽器に馴らされていき、その環境が変われば違和感が生じます。より良い環境と思うならば感覚の方を修正すればいいのですが、34インチから34.5インチへ持ち替えて同じように弾くには、身体的負担が若干過度であった、まして、太いネックでは、というところを一定期間を経過して結論づけたというわけです。仮に幅・厚みとも2mmくらいスリムだったら、全然へーき、って言っていたかも知れません。剛性に有利な5ピースネックなのだからもっと細く作ってよ、とここで声を上げても決して届くことはありません。

dragonflyの販路がどこまで広がっているかは存じませんが、アトリエZのジョニーさんとお話ししていたら、外人の太い指はスラップで入らないから幅を広くしないと駄目なんだよ、とおっしゃっていました。アイバニーズなどはピック弾きに好まれる(狭い)弦間設定なんだとも。そうなんですね、海外で売るための設定ですか。腑に落ちました。

アトリエZは青木智仁さんのための楽器を製作するところからスタートしており、当初は5弦用のブリッジがシャラーくらいしか無くて、そのため弦間が狭かったというお話。あれは16.5mmから微調整が効くタイプで、少し広げていた結果、その後の自社ブリッジでは17mmにされています。これが青木さんの答えだったようです。18や19mm用などに較べ、この17mmブリッジに合わせた細ネックの方が、より反応が早いという評価だったそうです。

繰り返しの記述ですが、個人的にはサイドバイサイドで15.4mm、平均すると17.5mm弦間が5弦ベースには一番しっくりきますが、弦間というよりネックの幅、左手の側で弦間が狭いことを重視しています。

19mmピッチでもナット幅が45mmのF-bass BNやSadowsky WLなどはネックが細めで、個人的にはギリギリのところでNGにしています。そこへ18mmブリッジを載せるというのをやってみたこともありますが、するとハイポジションの無駄な余白が気になってきます。弦が内側に寄るので余分な指板幅が障害物に思えてくる。

だから45mmナットで18mmブリッジに即したネック幅を用意して貰えればバッチリで、使用中のCrews Be Bottom21やSadowskyの新しいMMPUが載った奴やJ.W.Blackなどが求めるネックプロファイルになります。

で、何が問題かと言えば音域であり、上に挙げたモデルはみな21フレット(JWBは20だったかな)、24あるといいのにと思います。22でもいい。だからdragonflyのナット幅が48もあるけど、45mmだったらパーフェクトかなと思ったりします。24フレットなので。ミュージックマンの5弦は22フレットだったかと思います。けれどジャズベースの音じゃないと困る。

アトリエZの5弦には17mm、18mm、19mmとブリッジの用意があり、ネックポケットのサイズを最適化し、ちゃんと3種類のネックで対応しているのです。でナットは全て48mmで同じ。先に45mmナットと18mmブリッジが良いと言ったけれど、アトリエZは48と18ですからdragonflyに類似します。ただ厚みは結構薄いです。スケールも34だから大分弾き易い。

これまでに所有したことはおろか、試奏すらせず、知識皆無だったアトリエZなのですが、そういったところに興味があって、ここ1ヵ月の間に20数本を試させていただきました。現在スタンダードとなっている18mmピッチの5弦ベースに対し、17mmの方はレアですが、漸く出会えて弾き比べたところ明らかな優位が認められました。私にはぴったりかもしれません。ところが24フレットモデルが欲しいと思ったら、そちらは18mmでしか製作できないそうなのです。またしても音域の壁。常に妥協が強いられます。理解はできますが。

市場にはショップオーダーのカスタムモデルも様々あり、例えばPJにバルトリーニプリアンプを載せたモデル(特にNTBT)はMTDを彷彿とさせ、21フレット19mmでアルダーボディのものなどコッポロのLGを感じさせました。私の個人的な評価としては、今や100万超となったそれら海外製よりも、値上げしてなお40万弱で拮抗している価値は充分あると見ています。そんな1本をぜひ手に入れて現場で使ってみたいと最近は考えています。すごくいい楽器です。


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