「PA講座」で伝えきれなかった2、3の事柄

ものの置き方は絵面に囚われないこと

上手下手に、15インチ2wayのPAスピーカーが台の上に寝かされ、モニターとして使われています。イベント開催の最初期にはステージ袖でスタンドに立て、サイドフィルとして使われたようですがハウリングが厳しく、このような設置方法になったとのこと。機種を控えておりませんが、例えばエレクトロボイスのSX300ならばホーンのサービスエリアは65°x65°なので、奏者の頭がその範囲に収まっていると、音が効率よく届いていることになります。しかし現況ではおそらく首下までしか達していない模様で、もちろんそれでも音は聞こえますし、実際が無問題ならそれで大丈夫です。

上手にギタリストがいて、そのコーラス用に立っているマイクではハウリングが起こりにくいのですが、ベーシストのいる下手側が、今回ハウリングが発生する殆どのケースの原因となっているようでした。

転換でバンドが次々に替わりボーカリストによって声量が異なり、楽曲によってトータルのレベルが違い、マイク類はその都度ゲインを取り直した方が良いです。それと返しとの関係でうるさいバンドになると、とたんに下手でハウリングが起きました。

ステージ初見での感覚は、少し煽ってツイーターのホーンのサービスエリアが頭の位置に合うようにしたい、と思いましたが、向きを変える足となるアイテムを見つけることができず、結局そのままで使用しました。奏者から自分の声をもっと返して、などのリクエストがあった場合に対応しづらい状況でしたが、例えばこのモニタースピーカーを逆さに置いてみるなどトライしても良かったです。ホーンが中央側に来るよう、それぞれが対照的に置いてあったのを、問題起きがちな下手はホーンが下手に向くよう置き直す、といったことで、あるいは回避できたかもしれません。

ステージ上の機材配置は、とかく絵面優先で左右対称を描きがちですが、音響の特性が上手下手で同じではありませんから、それぞれの最適解を考えなくてはなりません。

「できない」と言わないためにリクエストを翻訳する

ハイハットの横で(つまり左側から)12インチ2wayのモニタースピーカーがセットされていました。メインボーカル用にセンターに置かれた機種と同じです。それこそSX300だったかもしれません。これがドラマー用のモニターです。

あるドラマーから、もっとベースを返して欲しいというリクエストがありました。PA担当の生徒は「もういっぱいです(これ以上上げられません)」と即答しました。リクエストを否定されると奏者のモチベーションは大きく下がります。オペレーターは、ですから、できてもできなくても「はーい」と快く返事して何かを変え「これでどうですか?」と尋ね返すところまではやってあげないと駄目です。

卓のベースのチャンネルから後部モニターへのオグジュアリー送りが上がりきっていて、それ以上増やすことができない場合にできることは、ひとつは純粋にベースのフェーダーを上げることですが、それが最善とも限りません。ポストフェーダーならば反映しますが、プリフェーダーならば外音が増すことで少しでもベースが聞こえるようにしました、的な処置ですから満足度アップへの期待度は低いです。バランスを崩すし。であるならばベースアンプの向きを少しドラマー側に振って上げるとか。これは生音を聞こえやすくする工夫です。ただ、この措置も、そこそこの距離があるため効果は薄いでしょう。

あとは該当するオグジュアリーの回線にEQをインサートして低域を持ち上げるとか。これはできないかもしれないですが。

で、私が指示したのは、そのモニターにギターも返っていたので切ってもらいました。ドラムのモニターにドラム・コーラスとベースだけを送るようにしました。モニターからトータルが返っていたので、必要なものに絞ることでベースを聞こえやすくしたのです。

もっとベースが聞こえたい、という訴えを、ベースの音量を上げてください、と解釈しては駄目です。聞こえづらくしている要素を排除するという発想がやりやすい環境を作ります。

私はドラマーのところに立って、どうしたいの?と改めて聞き直し、ベースが…、と言ったのでそれをPAに伝えると、前述のようにできません、と返ってきたので「大丈夫」と言ってあげて上記のような処理をしてみました。サビだけやってみよう、ということでリハーサルするとドラムの方は満足してくれました。

このエピソードには複数の重要なトピックが含まれていて、1)「できない」とは決して言わない、2)奏者の位置に立って彼/彼女が聞こえている音を把握する、3)音量を上げるのではなく余計なものを下げる、といったところです。

あまり生徒さんはそれをやってくれませんでしたが、2)が最も大切です。例えば、ベースを上げてと言われ、操作をしたときに、どれほど上げるべきかどのように判断するのでしょう。タブレットの操作画面を見ているだけでわかりようがありません。ちゃんとその場へ行って、鳴っている音を理解して問題の解決に当たりましょう。でないと、その操作は却って事態を悪化させることに繋がるかもしれません。

あともうひとつ。ベースサイドのモニターは15インチ、ドラマー用は12インチでしたが、これを逆にしてみるとドラマー側で低音域を厚く鳴らすことができます。ベース側はハウリングの拠点になってしまっていましたが、スピーカーが違えば鎮静化するかもしれません。あくまで可能性ですが。

昨日、本番を終えた後には、比較的速やかに退散しました。そこは学校であり、部活は教職の方々の監督下で動いています。親心のような気持ちから、その場でアレコレと請われもしない教授をする行為は控えました(訊かれたら答えますし、本番中は時間勝負ですから助け船を出しました)。前日の講義ではそこまで踏み込めなかった悔しさがありますし、大いなる飛躍を見てもなお、反省を生かして更に向上できる余白の部分について、埋めて差し上げることのできないもどかしさもあり、その一部をここへ記しました。吐き出さずに脳内に置いておけば、いつまでももやもやが晴れませんので。

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