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シングルカットデザインのベースについて少し

Twitterと連携する外部アプリのマシュマロを始めました。そこへ昨日「シングルカッタウェイのベースに共通する印象ってありますか?」という質問をいただきました。

140字制限の中、少し考えて書いた答えは次の通りです。「SCはAdamovic5弦とBrubaker6弦しか所有したことがなく、個体差以上の感覚を掴めていません。店舗での試奏ではKenSmithのSCをBSR、BTと持ち替えて比較したことがあります。印象になってしまいますがSCは一回り芯が太い気がしました。楽器が大きくなったみたいな。」

また、補足として「大袈裟に言うなら、グランドピアノのようなサイズ感を含ませられるような気がしました。他社の場合も必ずそうかどうかはわからないです。回答にならず申し訳ありません。近々、noteの方に書いてみます。」とリプライしました。

そこへ、質問者様より「ご回答ありがとうございます。 Mayones CaledoniusもSCと言えると思います。」との鋭いつっこみがあり、「あ、そうでした!とっさに思い出せませんでした。実はFoderaも1本ありましたので合計4本です。それぞれをSCだからという理由で選んだこともなく、逆にそれらのメーカーにオーダーするとしたらWCにすると思います。もう少し考えてnoteに書いてみようと思います。ありがとうございます。」と返すほかありませんでした。

予告通り、この課題について、整理してみようと思います。まず始めに、私たちのやり取りでSCとしたのはシングルカットで、WCはダブルカット、つまり角が2本出ている従来型です。シングルカット・デザインは、アコースティックギターを想起して頂くとわかりやすいですが、肩があるボディに、ネックの高音域を弾き易くするために手が入るスペースを作った「切り欠き」のある意匠をエレキベースに翻訳したものと言えます。短い角が1本、その反対側は肩になっていると言うのが思い描きやすいでしょうか。

そうそう、ソリッド・エレキ・ギターの祖であるテレキャスターもシングルカットで、遅れて出てきたストラトキャスターがダブルカットです。そういう意味ではエレキであるが故にボディの表面積は小さくできる、その分弾き易くしよう、という発想でネックが、より根元まで剥き出しにされた、という経緯を想像します。しかしこれは概念的な話で、テレキャスターのネック、ストラトキャスターよりも露出していない訳ではないですが…。

エレキベースにおいては、そもそもダブルカットから出発し、そのように「概念的に」先祖返りを試みたのは、代表的にはアンソニー・ジャクソンの構想によるとされており、ヴィニー・フォデラがそれを実現しました。アンソニーは、彼が一躍NYのファーストコールへ躍り出る時のスタイルがピックで弾くものであった事実からわかる通り、元はギタリストであり、自分の弾く楽器は「コントラバス・ギター」であると主張していました。ギターだから肩がなくてはならない、という思いがそのようなデザインを希求したのでした。

以来、2000年を境にした頃でしょうか、ボディの片側がネックの12フレット付近まで延長されるシングルカットデザインは、様々なルシアーによって試みられ、次第に1形態としての地位を築きました。といったことは、これをお読みの方は、みなさんご存じと思いますが、助走として書いています。あしからず…

アコースティックギターの胴とネックの接合は12フレットか14フレットであることが多く、ウクレレも同様で、12フレットがスケールの中点であるからなのか、理由はわかりませんが、見た目としてもバランス良く見えますね。竿(ネック)が長過ぎると滑稽です。エレキベースは箱状の胴を必要としませんが、ネックの半分まで胴が覆っているのは、やはりかっこいいですね。

好んでシングルカットのベースを選ばれる方は、多分見た目にやられていると思います。アンソニーが先導した事実以上に、やはりこれを抱えるとクラシックギターを弾いているような格調高さを纏うことができるように思うのです。それが人気の理由のひとつ。

別の観点から言えば、ベースの奏法が飛躍的に進化し、方向が分かれ、ベーシストの様態が千変万化になるに従い、従前のデザインは時代遅れに見えてしまったこともあると思います。奏者のイメージする世界が更新されていくのに、楽器の形が古くさいのでは、伝えたいものが伝わらない、と考える人も多かったと思います。

で、私が実際に所有してみて気付いたこととして、弾き易かった、ということがあります。抱えやすいと思いました。座って弾くときの腿の上の収まりと胸に当たる感触が、安定してそこにあるという心地よさを実現していることが多かったです。立奏時も同様、ダブルカットにおけるストラップピンの位置に較べ、シングルカットではネックに近い位置にピンを取り付けるので理想的な角度で吊ることができました。経験上、一番大きなメリットはそれです。

これは試奏しているときの模様ですが、楽器はその日に購入しました

もちろん、ルシアーのデザイン力によるものですが、シングルカットを採用すると、たぶん楽にバランスが取れるものと思います。上の画像では弾いている様子ですが、このまま手を離してもベースの位置は変わりません。これはBrubakerというメーカーですが、ザ・ベストです。

背後の商品で、右から3本目は、アンソニーの物とは異なりますがFoderaの人気機種、マシュー・ギャリソンモデルです。こうなるとアコギのシルエットというより、何やらテレキャスターをデフォルメしたみたいにも見えますが、ネックがネックとして露出している部分が半分ほどしかないということが、音質にも影響すると言われています。

ニコラ・アダモビッチは自身の作られる楽器に関して、シングルカットはピアノライクでタイトだと言っています。確かに、Fenderの楽器のようなボヨ〜ンとした響き方は、まずしない気がします。もっとスピーディーでスムースな立ち上がり、そしてスッと伸びる感じ。

だけれど、それはAdamovicというブランドに共通する傾向とも言えます。その中でも、という微細な変化について、ある1本だけを手に取って、それがシングルカットデザインの特徴なのか、と問われてもわかりません。

Fenderのアップデート版と言えばSadowskyというブランドを思い浮かべます。こちらも、24フレット仕様のロングネックバージョンに対して、アーティストの要望によってシングルカットデザインを加えることにしました。

時を隔てて、異なる環境で2度しか試していませんが、私はそのどちらも、紛うことなきSadowskyであって、弾きやすさ、抱えやすさの利点以外に大きな違いは感じなかったです。通常のSadowskyよりもピアノライクであるとか、よりタイトであるとか、もっと言えば、更に良く鳴っているとか、そうした印象は全く残っていません。エレクトロニクスの比重が大きいSadowskyだからかもしれません。あるいはFenderの構造を変えていないことも要因でしょう。

シングルカットのデザインは、スルーネック構造で、ネックの半分近くまでが胴と接着されています。それをBenaventeがボルトオンでもやってのけました。ちゃんとした検証はしておりませんが、ダブルカットかシングルカットか、の違いよりスルーネックかボルトオンか、の違いの方が大きいのではないかと想像します。

というわけで、これまであまり意識することがなかったシングルカット、というものですが、そうであったが故に、見た目とバランス以外には大きな意味は持たないんじゃないか、というのが、とりあえず私の視点です。

弾き易い、と言いましたがネックの幅が狭い、4弦・5弦ベースだとハイポジションで親指が胴に当たってしまって、こと左手の動きに関しては障害となる場合があります。私の弾いた6弦ベースは、ネック自体の幅が広く、裏側で親指は胴にまで届きません。つまりはダブルカットと同じフィンガリングが可能でした。楽器を選ぶ際に、そこは気をつけなければなりません。

最後に、自社での製造が止まってしまったKenSmithが、その時代の最後にシングルカットを製作し、それらは日本にも数本が入ってきました。運良く、ノーマルのダブルカットと、ブランドの初期デザインで角が短いモデルと、新しいシングルカットの3本が、同じボディ材の組み合わせで作られた個体で奇跡的に揃っている店舗にて、比較させて頂く機会がありました。

ダブルカット同士では、私は角の短いモデルの方が、押し出しと存在感が上であるような印象がいつもあります。音の優劣で(好みと言えばそれまでですが)、古いデザインの方が良かった気がしますが、ネックの露出量は変わらなかったと思います。単純にボディの中での「抉れ」が大きいか小さいか。小さい、カット部分が少ない方が良いみたいです。

それに対し、シングルカットは両者が子供に見えるような、全体に音像が大きい、堂々とした鳴り感が、確実に在ったと思います。率直に素晴らしかったです。

シングルカットデザインは、アンソニーの構想からして、そういうものを目指していたのではないか、とわかるような気がします。とことんやり尽くして、完成度を極めた状態から、もう一歩突き抜けるときに、一つの手段としてありだったのではないかと。しかし、その手前ですでに、超一流の演奏家を唸らせる名器を生み出せる地力がなくてはなりません。逆に言えば、そういうルシアーだからこそ、一段上のレベルの楽器に仕上げることができたのではないかと思います。

冒頭のご質問にあらためてお答えいたします。共通の傾向としては、ボディバランスが良好で弾き易くなる、が標準的な回答です。付け加えるならば、うまくやれば従来のエレキベースを超える可能性がある、というものです。

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