ベースの指板

昨日の話の続き。というか関連。指定したとおりに作ってほしい、みたいに書いた以上、相手はおまえが全部決めろと言ってくるだろう、という想定で0ベースで素材から考えていこうかと思います。0ベースとは、実現可能性を問わず、という意味で。昨今、とても制約が多くなっているのはご存じの通りです。予算もあるしね。

音質と鳴り方に最大の影響を与える部材は指板だと感じています。たとえば、あるメーカーのカタログモデルが数本並んでいて、どれかを選ぶという時、弾き比べをして惹かれる1本を見いだすようにします。弾き心地という観点でフィーリングの合うもの、また入力に対して期待した出力がフィードバックされる、その一貫性といったことを比較します。塗色や杢目などを気にすることはありませんが、見た目で勝負が決まるのなら簡単ですね。

アルダーボディにローズ指板、アッシュボディにメイプル指板などと、組み合わせ方をフェンダーの思想に倣うメーカーが多いのは商売だから仕方がないとして、同一のボディ材で指板のみバリエイションがあるといった場合、その差は非常に大きいことを経験的に知っています。

単純に○○がベストである、と断定するのは少し難しいが、それなりにこれだったらベターであろう、という材が常に念頭にあります。そんな話をしましょう。ボディ材との組み合わせで変わってくる部分はありますが、私にとって、長くその楽器を愛用できるかどうかが、どうやら指板材に起因している可能性が高そうです。

一般的に指板に使用される樹種は、digimartのエレキギター・カテゴリーならメイプル、ローズウッド、エボニー、パーフェロー、カーボン、ハカランダ、その他となっており、エレキベースではタグの選択肢にハカランダが無く、カーボンはカーボン・グラファイトと表記されますが同様です。その他には、アルミなどの金属もありますし、ウォルナットを使うものを見たことがあります。

グラナディロやゴンサロ・アルベス、ローレル(うちの廊下の床材)などローズウッド取引規制が厳しかった数年間に代替材としてポピュラーになったものもあり、これらはその他に入れられるでしょう。ローズウッドとハカランダを上記では区別しますが、種としては近く、本来どちらもローズウッドで片付けて良いものでしょう。

ローズウッドが含まれるマメ科の植物は指板材に使用される事例が多く、ブビンガやココボロ、ゼブラウッド、パープルハートなどなどがファミリーです。また流通名にローズウッドが付くものでも産地で区別され、ハカランダはブラジル産というわけですが、ボリビアン(パーフェロー)、マダガスカル(ハカランダの産地違い)、ホンデュラスなど様々あるなかで、楽器の仕様表にそこまで書かれていないことも多いです。

長年愛用したアレバ・コッポロにはインドローズをスタンダードとしてブラジリアンもありました。私のはアフリカン・ローズウッドと書かれていましたが、おそらくそれはブビンガのことです。でもどう見てもハカランダに見えました。2000年代の初期でしたからもう少し大らかだったかもしれません。輸出を前提として問題を回避しようとしたのでしょうか、その辺りは定かではありません。

楽器に使用されるエボニーは黒檀と言われる真っ黒なガボンエボニーと縞黒檀と言われるマッカーサー・エボニーに大別されるようです。真っ黒が良いなどと言われますが、マッカーサーの方が、やや軽快な鳴りを持っていてエレキ楽器には向くと思います。アコースティック楽器やフレットレスベースなどには、(音に)重厚感のあるガボンの方が優れた楽器に仕上がると思います。

以前沖縄旅行で三線を買って帰ろうとして、多く試奏しました。エボニーボディがダントツに良くって、他が霞んでしまいましたが、お値段がそれなりだったので断念しました。ウクレレの名手ジェイク・シマブクロさんもカマカのエボニーボディだったと思います。エボニーは指板の王様だと思っていますが、常に最適と感じるわけではありません。

ガボンより軽快なマッカーサー・エボニーより、更に少しだけ軽快な響きが個人的には好きです。ここにマメ科がたくさん入ってきます。ローズウッド系です。

私にとって指板選びは、どんなローズウッドを選択するか、と言い換えても間違っていないかもしれません。もちろん、樹種で決める以上に、製材され保管された状態での優劣が存在します。ハカランダよりインドローズの方が、個体間で優れているということがあり得ます。

今多くの場合ハカランダで使えるのは板目ですが、同一種でありながら移植されたマダガスカルの柾目を使った楽器の方が遥かに良かったりします。40年もののオールド・インド・ローズなどと言われると食指が動きますが(確かにとても良いものだと思います)、インドローズに(個人的に)感じる物足りなさは依然として変わらなかったり。

私にとっての、最もスタンダードな指板材は、ボリビアンローズウッド、即ちパーフェロー(モラード)で、明るさや軽快感(抜け)で不満が無く、指板の個性というものを感じさせない透明な存在です。メイプルだったりエボニーだったりは、そこにひと味加える印象を持ちます。ニュートラルという意味で優れていますが、ローズウッドの代替品というイメージで下に見られることが多いのは残念です。

サドウスキーのアルダーボディはパーフェローと組み合わされますが、はっきりと、インドローズからのアップグレードとして選択されているはずです。私はアッシュモデルにもパーフェローを組み合わせたいのですが、残念ながらそれはできません。不思議ですね。

パープルハート、マメ科の仲間ではありませんがエボニーに近いジリコーテ(黒柿)、ココボロ、ボコーテも(過去に所有した楽器で)使っていました。これらはアップチャージの付くオプションに他なりませんが、パーフェローに対し、隠し味が入る印象です。

アッシュと組み合わせて絶妙だったのがココボロで、ローズ系で最も油分が多い(カット面から乾燥過程でどんどん浮いてくるらしい)、かつエボニーよりも比重があるとも言われる性質が、豊かで奥深いトーンに貢献していることを感じます。ココボロ指板の楽器は、ただそれだけでも欲しくなります。

ジリコーテは、あるルシアーから、最もローズウッドに近いと言われたことがありますが、私ならマッカーサーエボニーでいい。実際は杢目を楽しむ材であると思います。もちろんパーフェローよりもひと味スパイスが利いた味覚を楽しめることは間違いないです。

ボコーテも非常に良かったです。これぞオールド・ローズウッドというイメージでした。枯れ感、ビンテージ感がありました。アーリータイムズです。トップ材を貼らないアッシュボディのボルトオンネックに使う指板として、50年代の楽器のフィーリングを加えられるものだと記憶しています。

このように、一匙の調味料が楽器に個性を与え、もしもそれに気付くことができたなら手放せない1本になっていくでしょう。私はそれでもガンガン売ってしまっておりますが…、次の1本のために。

その意味で、うちにある4弦JBのメインはアルダーの1ピースボディにハカランダを使用した国産コピーですが、抜きんでて感じさせる要因のひとつになっていることを(他と較べて)実感します。それに加えて板目のネック、オールラッカー塗装といった要素もありますが。他と音の違いはほんのちょっとでありながら、これを弾いた時の満足が常にあり、同時に第三者たる演奏メンバーの耳をも惹きつけます。

とまれ、ハカランダ信者ではなくて、先に述べたようにマダガスカルファンです。その個体のローズ指板がマダガスカル産であるとしたら、りっぱな購入動機になります。ニューハカランダなどと呼んで量産楽器に多用したせいで品薄になっているらしいです。もったいない話です。こうして稀少材にされてしまいました。

ウェンジもマメ科で、広く言えばローズの仲間なのですが、音はスピード感があり、なかなか魅力的です。ワーウィックやマイケル・トバイアスがポピュラーにしました。私のシトロンがウェンジです。ウェンジの特徴は、パーフェローよりもワイルドになることです。いい意味での「悪い」感じが付加される印象。ネック材に使われることもあり、その場合も特徴のある良い楽器が作れます。ダークな音色がヨーロッパ的なヘビーな楽曲に合いそうです。ネックに使わなくとも、指板として使用するだけで、そうした響きを加えることができます。私にとって、第一選択にはなりませんが。

ウェンジ同様アフリカ材であるブビンガを指板として使用する作例が、あまり多くありません。先のコッポロがそうであったとしたら最高です。あの楽器は手放しても忘れることはできません。エルリックやMTDで、ブビンガが指板の楽器に魅力を感じなかったものはありません。太鼓やドラムセットに使用される、そもそも鳴りのいい材であろうから、そうした性質の材を指板で使うという考え方は大正解です。興味深さで言ったら一番であり、今後ブビンガ指板の楽器をじっくり試したいと思っています。

パーカッシブという点でホンデュラス・ローズウッドはマリンバの鍵盤にも使用される硬質で鳴りのいい材の代表でありますが、どうも指板で使ってピンときませんでした。インドとはキャラが明らかに違い、その柔らかい感じは失われます。もしかして油分が少ないのか、色気を感じさせません。少し素っ気ない感じは、以前ウクレレのボデディ材で所有した時にも同様で、敢えて選ぶ材ではないように思えます。

もう結論は言ってしまったようなものですが、その前にもうひとつ、パープルハート指板もいいです。これがスタンダードなのはロスコーが代表的で、ボディ材も様々、それに組み合わせる指板はパーフェローから何から多種多様でも、パープルハート指板のロスコーは安定です。ウェンジよりもしなやかで上品、ブビンガほどパーカッシブではなく控えめ、パーフェローと一緒かな、と思うけれどもう少し油分は多い感じ。パーフェローとココボロの中間に位置する魅力的な材です。

本稿の最後にメイプルについて考えを書きます。メイプル指板は、指板材に適していないと思っています。塗装をする、という時点で他と異なります。固さが足りません。世にエレキベースが誕生した時には、指板がありませんでした。メイプルのネックにそのままフレットを打ったのが「メイプル指板」の走りです。やがてポリ塗装でコーティングして弱さを保護するようになりました。従ってメイプルワンピースネックと貼りメイプル指板のネックは、私には明確に違う音が感じられます。50年代のスプリットPBのメイプルワンピースは60年代のローズ指板ものほど魅力的ではありませんが、珍しい貼りメイプルのカスタムショップ製PBがとても良かったのは、違いを表している事例として記憶しています。

メイプル指板を使うとブライトになるとよく言われますが、固さが足りない分、付加する倍音がそう高くないレンジに集まります。具体的には2kHzあたりの人の耳の感度がいい、よく聞こえてくる帯域です。それは低音とは言えませんから「ブライト」と感じられます。ローズ系は、もっとフラットで高次倍音まで伸びますから、ピークが少なく大人しく聞こえます。板を叩いて解るとおり、ローズはカンカン鳴りますが、メイプルはコンコン言い、その性質がベースにミッドのピークを与え、聞こえやすくする効果があります。

しかしもっと上は出ません。アッシュはミッドスクープがあるので、ちょうどその辺りを埋めるのがメイプル指板の特性と言えるかもしれません。私は、アッシュよりもレンジが広いと思っているアルダーの場合も、メイプル指板によってハイミッドにピークが作れるのでJBにおける60'sピックアップロケーションのように、埋もれがちな出力へ、聞こえやすさを加えてくれて好きです。

といった所感によって、メイプル指板の活躍場面は認知され、実際私も2本、現役で使っています。かといって、新しい楽器に積極的に取り入れる気はありません。理想主義的に言って。

少し脱線しますが、JBのピックアップ位置は70'の方が聞こえやすく、それだとメイプル指板にするメリットはあまりないですが、その時代は貼りメイプルが多く、60'の頃はローズと組み合わされていた歴史には異議を申し立てたいと思います。あくまで奏者としてですが。50'sの、指板を使わないワンピースネックの雰囲気を、ボコーテが醸し出すと書いたのは矛盾でも、まぁそう思ったのも事実なので話半分で聞いて下さいませ。

結論:ブビンガ>ココボロ>マダガスカルローズウッド>パーフェロー>マッカーサーエボニー みたいな感じ。でもパーフェローで充分。

てきとー

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