ぼやけている

大学に入ってからちょっと目が悪くなった。
運転は度の入ったサングラスがないと眩しくてできないし、裸眼だとあんまり人の顔がわからない。何かと目が弱くなった。

僕の住んでいる地域はかなり郊外なので、まわりにあるのは大学と大学病院くらい。狭い範囲に医学部の学生と教員が詰め込まれた異質な地域で、僕は暮らしている。

そんな地域なのでどこに行っても知り合いに会う。声をかけられる。「ごめんメガネかけてなくてわからなかったわ!」といいながら軽く世間話をする。

この言い訳を繰り返している。
「メガネしたらいいじゃないですか。」
「コンタクトすればよくない?」
と言われても僕はこの言い訳を繰り返す。

「いやーいつも忘れちゃってさ。車は度入りのサングラスかけるんだけど外でかけてたら変だし。」

白状するが僕は家ではだいたいメガネをかけている。メガネがないとテレビも見にくいしゲームもしにくい。足の爪を切る時でさえこわくてメガネをする。バスケをする時は必ずコンタクトをつける。試合時間が残り何分なのかも裸眼だと見えない。

でも出かけるときはメガネをかけない。ぼやけた視界でうろうろしている。

どこに行っても仲がいいわけでもないけど顔は知っている、微妙な知り合いに会う。どこの店に行っても。そこで誰かがバイトをしていたりする。正直息苦しい。気づかれたくないし気づきたくない。

そんな環境に対して、僕はぼやけた視界でささやかに抵抗している。むこうに気づかれるのは仕方ない。でもメガネをかけなければ、コンタクトをつけなければ、僕が気づかないことはできる。

誰と誰が付き合ってるとか、誰と誰が仲良いとか、そういうことを知らずにいられる。気にしないでいられる。

外をぶらぶらしていて同学年の喋ったことのない人を見かけた時の、あいさつをするでもなくそっとお互いに目を逸らす居心地の悪い瞬間。

そんなストレスを感じないで済む。

ぼやけた視界も悪くない。

P.S.
仲良い人にしょっちゅう会えるのはいいんだけどね。

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