見出し画像

EP3 「過酷で至福のオン・ザ・ロード」 SNOW SHOVELING BOOKS ON THE ROAD物語 〜いかにして街のはずれの本屋が移動本屋として遠くの人にも本を届けようと思ったか〜

(前回からの続き--- 遥か駒沢の書店SNOW SHOVELINGの店主ナカムラは、金の斧のようにパッと現れた中古車情報に取り憑かれ、はるばる岡山まで出向き、一晩かけて購入を決意し、翌朝には行政手続きをトム・クルーズのように華麗にこなし、国道2号線から1号線へと東へ東へ進むのでだった。

この物語は、物語でさえないのだけれど、街のはずれの雑居ビルにある本屋が、「旅する本屋」と自ら称して、移動型の本屋をはじめるにあたり、何を想い、何を考え、具体的に何をして、その先に何があるのか--- そんなことをやってみる日々を、あるいは回想してみたり、そして起こるかもしれない未来の記憶を書き記す、現在進行形の雑記である)

「気分はサルパラダイス」けっして今高騰中のシティポップの7インチのドーナツ盤(レコード)ではない。ジャック・ケルアックの小説「オン・ザ・ロード(路上)」の主人公の名前がサル・パラダイス(ケルアック自身でもある)であり、まさにこの時の僕がサル・パラダイスを気取ってたって話。隣にはディーン(モリアーティ)はカーロ(マルクス)もいなかったけどね・・・・

Jack Kerouac(サル・パラダイス)とNeal Cassady(ディーン・モリアーティ)
カッコ内は物語上の登場人物名

内容(「BOOK」データベースより)
若い作家サルとその親友ディーンは、自由を求めて広大なアメリカ大陸を疾駆する。順応の50年代から叛逆の60年代へ、カウンターカルチャー花開く時代の幕開けを告げ、後のあらゆる文化に決定的な影響を与えた伝説の書。バロウズやギンズバーグ等実在モデルでも話題を呼び、ボブ・ディランに「ぼくの人生を変えた本」と言わしめた青春のバイブル『路上』が半世紀ぶりの新訳で甦る。 「オン・ザ・ロード」訳:青山南

692km、15時間25分。
岡山市から世田谷の駒沢までグーグゥマップで経路検索(高速不使用のオプション)すると、情け容赦ない圧倒的な事実を突きつけられる。このままオートバックスにでも駆け込んで、ETCをセットアップしてもらい、高速で帰ることもできた(それでも8時間以上はかかるのだけれど)。その時の僕はといえば、早く帰りたいという気持ちなんかより大切なことがあった。「ゆっくりいろいろと考えたい」のだ。「何を?」うむ、この車(デリカ・カーゴ)を使って、一体コレから何をしようか。何ができるだろうか。そんなことを考えたくて仕方がない、そんな状況だった。だからこそ僕は下路で16時間、2時間に1回休憩すればトータル20時間以上だろうか、そんな過酷なロード・トリップを、そう『孤独な旅人』であることを自ら望んでハンドルを握ったのだ。

692km、15時間25分。

景色は移り変わっても、頭の中はだいたい同じ。幼い子供が、お年玉で買ったロボットのオモチャで世界を救う妄想をするかのように、45歳のナカムラは、世界は(たぶん)救えないけど、ボクの半径の小さい世界は変えられるかもしれない。もちろん良き方に。そんな妄想を繰り返していたのだ。ある意味インナー・トリップである。

車のことーーー

 色はペイントしたいな。何色がいいかな。装備品はどうしようかな〜。すぐに思いついたのはグレイトフル・デッド(アメリカのロックバンド)のツアー会場に集まるデッドヘッズ(熱狂的なファンで、彼らのコンサートを追っかけて旅を続ける人たち)。街を転々としながらグッズを売ったり、自録りのテープを交換したり、ビールを飲んだりBBQをしたりするノマドな人たちが乗ってる色とりどりのVAN。サイケデリックな模様や虹のモチーフや踊ってる熊が極彩色で存在感を放つ。ある意味後のヒッピー文化の象徴的存在。そんな彼らに憧れをいただいた10代のナカムラの願いを叶える時かもね。そしてバケット・リストの一つであるVAN LIFEが移動本屋をすればオマケのようについてくる、なんてLucky Me。

DEADHEADS (グレトフルデッドのファンたち)

どんな本屋にしようか---

移動式の本屋だと冊数は限られるけれど楽しんでもえらえるにはどうしたらいいのか。カテゴリのアイデア出し、そのカテゴリのキー・タイトルとなる本たち(ケルアック、ソロー、ハクスレー、サリンジャー、ブローティガン、村上春樹、金子光晴、つげ義春もいいな・・・と、際限なく湧いてくる)、そんなことを考えていたら、SNOW SHOVELINGをオープンした10年前の6月が蘇る。インテリアを考えるのもVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)を考えるのも、什器や包材を考えるのも、どれも手間と忍耐も要するけど、そこから何かが生まれ、始まっていく感覚が瑞々しく蘇る。そんなことを再び考えている我にかえり、細胞が生まれ変わる感覚すら覚える。

2012年の6月頃にお店を作り、本棚を作り、本を並べてみた頃を思い出す

どこへ行こうか、何をしようか---

そんな楽しさが詰まった本屋が、どの街へ行こう。そこにはどんな人がいるだろう。せっかくだから自分から知り合いたい、会ってみたい人に会いに行くのもいいだろう。あるいは人は多くはいないかもしれないけれど、海でも山でも草原でも、眺めのいい場所で本棚を開け、そこでポツンと本屋をはじめたら、例えば焚き火なんか囲んで詩の朗読でも、読書会でもしたならば、格別な読書体験、あるいは本との出会いを創出できるんじゃないか。

などなどと、ここには書ききれないほどの、まるで「うちでの小槌」のように次から次へと楽しい発想、面白い妄想が湧いてくる。そしてナカムラは知ってたはずなのに、世紀の発見でもしたかのように気づく。「面白いことを考える」って、なんて楽しい!!"自分が面白い"って自慢してるわけじゃないですよ。ただ自分自身が「面白い」と思えるものをひたすら考える、考え続けるということ。それは何だか自己療養のようで自己改革のようでもある。

ケルアックの書いた自著の装丁のイメージ画。今回のSNOW SHOVELING BOOKS ON THE ROADのアレコレを考える上でのキー・ヴィジュアルとなっている。

そんな体験が思いがけず、ハンドルを握り、アクセルとブレーキを交互に踏み、いくつものグリーンライトを確認し、国道1号線を東へ進み続けるなかで、前途の通りそれは過酷なドライブのはずなのに、『至福』の時間を過ごしたのだった。ラッキーでお気楽なナカムラは、この時間を体験することができただけで、もう既に車の購入費用くらいはPayしちゃった気分になっていたのだった。

大袈裟かもしれないけれど、それくらい価値のある時間だったということ。いつかのどっかのクレディットカード会社のコピーを借用するならば、まさに"プライスレス"。

"Beat Goes On"


つづく

(この物語は、物語でさえないのだけれど、SNOW SHOVELINGの移動本屋ができるまで、あるいはできてからどんなことがしたいとかまで、そんなことをサリンジャーよろしく9つの話「ナイン・ストーリーズ」にまとめてみる試みであるが、今のところ9つにまとまるかも、どこに着地するのかもわからない僕の雑記である)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?