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EP1 「そうだオカヤマに行こう」 SNOW SHOVELING BOOKS ON THE ROAD物語 〜いかにして街のはずれの本屋が移動本屋として遠くの人にも本を届けようと思ったか〜

(この物語は、物語でさえないのだけれど、街のはずれの雑居ビルにある本屋が、「旅する本屋」と自ら称して、移動型の本屋をはじめるにあたり、何を想い、何を考え、具体的に何をして、その先に何があるのか--- そんなことをやってみる日々を、あるいは回想してみたり、そして起こるかもしれない未来の記憶を書き記す、現在進行形の雑記である)


Drawing by Kazuya Mougi



「こんな車あるけど、興味ある?」
そんな知人の連絡により、この物語は始まる。2022年の5月の話だ。

僕は普段は駒沢で本屋をやっている。本人は普通の本屋だと思っているけど、本人以外は「普通ではないよねぇ」と異口同音に言う。要は「天の邪鬼」の「格好付け」がやるとそんな本屋ができちゃうわけだ。創業時は”ロマンティックでボヘミアンな本屋”と言い出して始めた本屋である。(ちなみにその後は"出会い系本屋"と言い始め、最近は"プログレ書店"と言ったりしている)

かつて僕がまだ本屋ではなく、それを志した頃に、「本屋始めるんだよね」と友人や出会った人たちに言うと、「どんな本屋をやるの?」と(ブレッド&バターかと)判を押したように問われることになる。一生懸命説明しようとしても、どれだけ言葉を尽くしても、伝わる気がしない。僕の語彙に問題があるのか、そもそも何かが間違っているのか、とにかくその「本屋始めるんだよね」vs「どんな本屋をやるんですか?」スパーリングを何度となく繰り返した後に、ある決意を持って、「心のエンターキーを力強く押した」のだった。「もう説明しない」ってね。

「説明しても伝わりそうにないなら説明しなくてもいいんじゃないか」と。

とりあえずコトバにせずに、カタチにしようと、店名を(好きな村上春樹の本の一節から)決め、ロゴを(好きなアメリカ文化を彷彿させる感じで)作り、家具や什器を(好きなお店からインスパイアされたテイストに近いものを)買い、(そんな好きなものの集積から成る)お店をつくった。

創業当時の店内の写真(今はもっとカオスです)

コレを見てもらったほうが早いでしょ。
と、ひとまず未完のままの(出来あがった風の)店内の写真を撮り、ポストカードを作って配った。こんなお店やるんですと。「へー素敵」とか「おしゃれですね」とか「海外みたい!」と人々が良い感じでリアクションしてくれてた。それでもまたこう問われる。「どんな本屋なんですか?」

中村:見ての通り「ロマンティックでボヘミアンな本屋です」

昔『キン肉マン』という漫画の台詞で主人公のキン肉マンが「屁(へ)のつっぱりはいらんですよ」と言うと、誰だったかは忘れたけれど、周囲の人から「言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ」と返す鉄板のやり取りがあり、子供ながらに"よくわからん"が未だに強く憶えている。


(キン肉マン1巻より)

そう、「ロマンティックでボヘミアンな本屋です」も、言葉の意味はわかるはずだけど、それがいったいどんな本屋かは想像もつかないかもしれないけれど、なんとなく自信満々に言われると、とりあえず何かを期待(例えばロマンティックを)してくれるのではないか。

そう、説明を省いて、遠く突き放しつつも、何かを期待させることで「行ってみようか」と思わせることに、データは取ってないけれど、そこそこの人が反応してくれて、少しずつお店に人が来てくれるようになった。それはだいたい2012年の9月のこと。

それからほぼ10年が経った頃、奇跡的に本屋はまだ続いていて、10周年(DECADE)を迎えようとする年の5月に急に飛び込んできたのが、気まぐれな知人からの気まぐれなお知らせ、「こんな車あるけど、興味ある?」だったのだ。

その車は「晴れの国」なんて言っている(呼ばれている)県のナントカ市の図書館が使用していた移動図書館の車両である。なんとも移動図書館的で、道を走れば子どもが指をさしそうな、牧歌的な雰囲気を醸し出している車だった。


これがSNOW SHOVELING BOOKS ON THE ROADの主人公NOWHERE VAN号の前身である



その車の2.3MBほどの画像を一目見て、目眩のようなフラッシュバックのような感覚が走る。提示金額も手を出せない価格ではない、むしろ特装車なので(例えばハイエースなどを買って)1から改造をする費用を考えると、その改造費よりも安い(きっと)。そこには既にソワソワがあり、ドキドキがきて、ワクワクが存在していた。まるで運命の人の写真を見つけたかのようにこう思ったわけである。見に行かなくちゃ(会いに行かなくちゃ)。


車の両サイドのカバーを開けると書棚がビルトインされている



そんな風にしてこの終わりの見えない旅ははじまったのだった。そしてそれがどんな物語になるのかは本人でさえ見当もついていない。徒然なるままにページをめくって、他人事のように「さぁ、何が起こるか見てみよう」。

つづく

(この物語は、物語でさえないのだけれど、SNOW SHOVELINGの移動本屋ができるまで、あるいはできてからどんなことがしたいとかまで、そんなことをサリンジャーよろしく9つの話「ナイン・ストーリーズ」にまとめてみる試みであるが、今のところ9つにまとまるかも、どこに着地するのかもわからない僕の雑記である)

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