見出し画像

歯医者の話

上の奥歯に爆弾を抱えていた。
いや、正確には爆弾は何個もあり、昨日の深夜ついにひとつが爆発した。2日ほど前から違和感は感じていたのだが気付かないフリをしていたのに。

痛みで飛び起きたのは久しぶりのことであった。
「ヤバすぎる」と思ったが、「ああついに来てしまった」という気持ちの方が強かった。
私は歯が悪かった。両親共に悪いので多分遺伝だ。

なのに、子供の頃のトラウマが払拭できず立派な「歯科恐怖症」になっていた。
歯が痛いかも?と思う度布を噛んだり(?)痛み止めを沢山飲んだりして歯科を先送りにしてきた。
そのツケを全て払うことになったのだ。
心臓の鼓動に合わせて痛む歯をなんとか誤魔化して出社したが事態はどんどん悪い方向に行った。

上司に相談すると直ぐに歯医者に行けと言われ、半休を取って歯医者に行った。
予約の時点で動悸が止まらない。吐き気。背中に霜のような汗。
検索履歴が「都内 無痛 歯医者 保険適用」で埋め尽くされた。
自分の年収が高ければ金にものを言わせて全身麻酔で治療できたのに。
金がなくて医者に行けない(行けてるけど)なんてアメリカの貧乏な人みたいだな…と思った。

ミニスカのナース服の美人が沢山いる歯科は、結果として良かった。
主治医はメガネの知的なイケメンで、10年以上放置した地獄の様相を醸している私の虫歯の説明を丁寧にしてくれた。
あまりの恐怖と緊張のせいで他人事のように「痛そうですねw」と半笑いで言ってしまった。
こんなになるまで放置して恥ずかしいと言ったが、昔の乱雑な治療のせいで歯科恐怖症の大人は非常に多いという。
もうそんな拷問みたいなことしませんよ、という言葉を信じることにした。

例の薬品の臭いがした。
全員皆殺しにしてやると思った地元の歯医者のことを思い出す。
怖くて泣く私に声のでかい老人の医者が、「うるさい!削らなきゃ治らないんだよ!抑えて!」と怒鳴りつけてきて助手に四肢を抑えつけられた記憶。
口を強制的に開けさせる器具に歯茎の肉も挟まって余計に痛かった記憶。
ドリルで虫歯を物理的に削るなどという原始的な治療に子供ながら疑問を感じた記憶。
そもそも麻酔の針が太すぎて削ってもないのにもう痛い。そして恐怖で麻酔が意味を成していない。

その全てが今日行った歯医者では起こらなかった。
歯を削られる感覚だけ目を瞑れば無痛であった。
一瞬痛いような気がして思い切り左腕を上げてしまい、助手の人を殴ってしまい半泣きで謝ったが。
治療前のヤバい歯の写真、削った後の写真、詰め物をした写真が並んでいる。
イケメンは歯を削って剥き出しになった神経を指さして「これは麻酔しなかったらそれこそ抑えつけなきゃ無理でしょうねw」と言い、箇所箇所に虫歯があることから治療は長丁場になるとも言った。

私の知っている医者はだいたいドSだ。

ピチピチのナース服ででかいケツを強調した美人が会計をしてくれ、特に晴れやかな気分になることもなく初回の歯医者は終わった。

これから頑張ります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?