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55年ぶりの円安の本当の意味 実質実効為替レートから見えてくる日本に本当に必要な経済政策

実効為替レートとは?2国間に限らない総合的な為替レートを見るための指標

Trading Viewよりドル円チャート

為替介入をするかどうかが話題になってますね。ドル円の長期チャートを見ると、2024年3月時点での水準は1990年くらいの水準となっています。34年ぶりの円安水準ということですね。

しかし、これは日本円と米ドルを比べたチャートです。ここからは日本とアメリカの関係しかみえてきません。日本は米国以外ともやりとりをしていますよね。

そこで、韓国ウォン、中国元、トルコリラ、ユーロ、ポンドなど、他の様々な通貨などを貿易量などを加味しながら、円の海外通貨に対する総合的な動きを見るために、実効為替レートが登場します。

実効為替レートには名目値と実質値がある

経済や投資をしていると名目や実質という表現がよく出てきます。
違いは以下のとおりです。

名目
→物価変動を調整しない数値。観測される生データ。

実質
→物価変動を調整した数値。

それでは実際に、名目実効為替レートと実質実効為替レートの推移を見てみましょう。日銀HPから実効為替レートのデータは取得できますが、さらに長期の推移をBISから取得できるので、今回はBISのデータをお見せします。

実効為替レートの推移
BISデータより作成

1964年からの長期チャートになります。青が名目値、赤が実質値です。緑の物価要因は私が名目値と実質値から計算して、グラフに加えました(物価要因については後ほど説明)。

見方としては、実効為替レートは数値が下がると円安、数値が上がると円高です。間違いやすいので注意。

実質実効為替レート55年ぶりの円安水準の本当の意味 物価格差

実効為替レートの推移
BISデータより作成

赤い線が実質実効為替レートです。物価要因を加味した為替レートです。この赤い線を見ると、1970年頃の水準と同じですね。これが55年ぶりの円安水準という意味です。

一方、青い線の名目為替レートを見ると、1991年頃の水準と一緒です。先程のドル円チャートとも整合的ですね。

名目値では33年ぶりの安値であるのに、実質値では55年ぶりの円安水準とはどういうことなのでしょうか?

その鍵は、日本と海外の「物価格差」にあります。

GDPデフレーターINDEXの推移(IMFデータより作成)
GDPデフレーターINDEX比率(IMFデータより作成)

日本は失われた30年においてデフレで物価が停滞しました。普通に経済運営している国は、インフレ基調で物価が上がります。日本の物価が停滞してる間、他の国の物価は経済成長にともなって上昇していきました。
(GDPから計算される物価指標であるGDPデフレーターの推移を見ると一目瞭然です。)

物価の格差の蓄積が、名目値と実質値の差として出てきています。

同じ1ドル150円でもその実質的な意味は違う

相対的な海外物価上昇は実質的には円安を意味する

仮に1990年のドル円を150円、2024年のドル円を150円としてみましょう。34年前と同じ水準です。しかし、その実質的な意味は日本と海外のインフレ率の格差も加味しないとわかりません。

日本はこの30年間で物価はほぼ変わりません。むしろ、少し下がりました。一方アメリカの物価は2倍になりました。

そうなると、同じ1ドル150円でも、日本円換算したときの金額は2倍になります。交換比率は悪化し、海外旅行に行きにくくなったり、輸入品の高さを実感するようになります(実質的な円安)。

実効為替レートの推移
BISデータより作成
実効為替レートの変化(BISデータより作成)

先ほどのBISデータから作成した実効為替レートの変化を計算してみました。名目値は2.9倍になっている一方、実質値は1.2倍にしかなっていません。60年間の変化ですよ。その理由は、物価にあります。

グラフの緑チャートで示される物価要因が下がり続けています。60年間で、0.4倍、▲60%です。つまり、日本の物価と海外の物価の格差がそれだけついてしまったということです。

円安解消のために金融緩和と財政出動をせよ 円安是正のための利上げが違う理由

最近、マスコミ等で円安を是正するために日銀は利上げをするべきという論調があります。しかし、この実質実効為替レートをみていると、疑問が出てきます。

日本円が55年ぶりの円安水準になっているのは、海外との物価格差があるからです。なぜ物価格差が生じているのかというと、日本がデフレ経済になったからです。

そうなると解決策も見えてきます。正しい経済政策を採用し、内需主導型のディマンド・プル・インフレを起こす必要があります。

物価を上げるには、利上げではなく、利下げが必要です。つまり金融緩和です。それから、日本の最大の懸案事項である需要不足を解消するための財政出動が大事です。

貨幣の本質を学ぶとわかりますが、金融緩和をするからマネーサプライが増えるのではありません(マネタリーベースは増えますが)。誰かが借金をしたときに貨幣量は増えます。つまり、貨幣を借りるという需要者が必要です。

(参考表)実質実効為替レート 前年増減率


BISデータより作成

それぞれの年の単純平均値から、前年比増減率を計算してみました。参考までに。

例えば2021年。2021年は名目値は-5.43%となっています。しかし、実質値を見るとそれ以上に円安になっています(-8.65%)。両者の間には-3%強の乖離があります。物価要因の欄を見てみると、-3.42%となっています。
これが乖離の原因です。

2021年は日本円の総合的な為替レートである名目実効為替レートは、-5.43%下がりましたが、海外との物価格差も-3.42%拡大したので、実質値では名目値以上に円安となりました。

物価要因の欄を眺めていると、ほとんどの年でマイナスとなっています。つまり、海外との物価格差が開いていることを意味します。

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