ヤクザとわたしの虐待の話

 次男の話もついでに書いておこうかと思う。
 次男は細マッチョで長身で、顔が私と似ていたらしいから中性的で、明るくてビジュアル系バンドが好きで、友達も多くて十代で結婚していた。
 と、なんとなく好意的なプロフィールを出したが、この兄について書けることは少ない。
 今までははっきり書くのを避けていた性的虐待をこの兄から一番多く受けていたからだ。

 書ける範囲でぼんやりと覚えているのは、汚い物を見るような目で見おろされている所だ。「お前が出した物だろうふざけんな」と思っていたが、あれはそうか、汚い物を見るような目ではなく、苦しさに堪えている、罪悪感を含んだ目か。
 どの道、感想は「ふざけんな」だな。


 この兄は18歳で結婚してさっさと家を出ていたが、何年後かして離婚して戻ってくる。兄が悪かった訳ではないので、母なんかは慰めの雰囲気だったが、私は嫌で嫌で仕方なかった。理由は『私の部屋を取られたらどうしよう』だった。
 虐待に関してはどうでもよかった。その頃には私は完全に、なんなら出来上がっていて『私の感性を馬鹿にされなければ後はどうでもいい』というスタンスだった。何を奪われようが、生きていればとりあえず幸せだった。
 でも、それも兄はきっちり揺るがしてきた。


 高校生の頃。部活から帰ってきた黄昏時。
 家の前に人影が2つあった。


 今同様、当時も好奇心はそれなりにあったが、それを見た瞬間、危険信号だけが動いた。
 あれは凄い。
 怒気とか殺意とかが、不純物を取り除かれて研ぎ澄まされてるようだった。
 その拳で軽く腹を殴っただけで、兄はうずくまって呻いていた。

 見た事を悟られないように、私は普通のスピードで歩いて家から遠ざかった。直線の道だったので不自然になるUターンが出来なかったのは緊張したけれど、なんとか直前の道で曲がれたのが良かった。
 その後、母から電話があって「今ヤクザがきているから家に帰ってきちゃ駄目」だと言われた。
 あれがヤクザか、あれと関わったら果たして生きているだけで幸せなんて甘い事を思えるだろうか?と強く思った。
車が通れない路地で暗くなるまで隠れてから帰った。


 そこから次男と関わった記憶が無い。
 兄がヤクザに連れて行かれたというより、私が兄の存在を記憶ごと消している可能性のが高いと思う。


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