理科のＵ氏は、今思えば、まだ定年ではなかったですし、まだ再雇用のなかった時期なので、今の私より年下だったはずなのですが、現職死なさったと聞きました。その前後の思い出を語りたいと思います。

　転勤の前の年、私は病気でしたが、担任の順位表で上位になり、もう固辞できないことになり、三年担任をすることになりました。
　クラスで一番成績の良い女子は、神戸女学院大学の推薦を蹴って、専門学校を受けることになったのですが、彼女のクラブ顧問はＵ氏でした。
　卒業式の日、サプライズだったと思いますが、各クラスの代表が一言ずつ、担任に呼びかけをしました。我がクラスは、例の一番成績の良い彼女が代表を勤めました。クラス代表は確か男女一人ずつで、男子は気の良い、機転の利く人でしたが、予行の日に休み、関知していなかったようでした。
　私は病気でしたし、大した担任ではなかったので、彼女にはあまりいいことは言ってもらえませんでしたが、甘い声で「着席」と言ったことを覚えています。
　しかし、例のゴッドマザー学年主任にも、「あの呼びかけ、何なん？」と言われ、確かに言われた私より、言った彼女に非難があつまりそうだったので、私も「男子代表が予行に来ていれば、彼女にたぶんあんなことは言わせなかったと思うのですが」と返事しました。
　実際、後でクラスで一言コメントを一人ずつ書いた写真入りファイルをもらったのですが、その中でもクラス代表の言葉に対して批判的なコメントがあったので、まあ、普通お別れの時に言う言葉じゃないから、誰かのアドバイスが入ったのだろうなと思いました。そして原因にも心当たりがありました。

　卒業式に先立つこと1か月前のことです。
　Ｕ氏と一緒に彼女のクラブ顧問をしていた体育のα先生が、当時流行っていた、卒業式でプロジェクター投影で写真を見せる、という企画を計画実行されたのですが、クラス代表の彼女が服飾専門学校に行くと聞いて、プロジェクターを投影する白い幕を縫うのに彼女を手伝いに寄越してほしい、と要望されました。
　しかし彼女がバイトしなければならないことを知っていたので、彼女に相談を受けた時に私は「行けないなら断ってもいいよ」と彼女に言ったのです。後で学年主任から、投影用白幕はα先生が一人でミシンで縫って大変だったのだと聞きました。
　その結果、プロジェクター投影のクラブ写真が予行と違うなどかなり陰湿な嫌がらせがありましたので、呼びかけも、私と彼女に恥をかかせるつもりで誰かが言わせたのだなと思いました。
　ただ、α先生は意趣返しをするようなタイプではないと思っていたので意外で、背後にＵ氏の存在を感じました。
　なぜかというと、Ｕ氏は、他にも女子の実習助手や講師や教諭などを集めてお茶会をして、私の悪口を吹き込み、こちらの油断に付け込んで女子集団を使って、ちまちま嫌がらせをしてきたからです。
　一番驚いたのが、女子休養室の出来事でした。掃除当番が回ってきたとき、ちょうど担任業務で忙しくなることがわかっていたので、掃除をした後、自分のロッカーの中身を全部引き上げたのですが、ただ一つ失敗したのはその時、掃除の当番表に丸をつけるのを忘れたのです。
　数ヶ月後に久しぶりに休憩しようと女子休養室に行ったら、部屋中が埃だらけで、私のロッカーには「掃除しろ❗️」と書いた紙が貼ってあり、引き上げたはずのロッカーには、なくした上着や私物がぐしゃぐしゃになって、山ほど入っていました。直接言えばいいじゃない、と思いましたが、まあ、これが古典的な嫌がらせというものでしょう。

　当時、Ｕ氏は、体を悪くしていたらしく、理科準備室にゴッドマザー学年主任を訪ねて行くと、「シー！今Ｕさんがそこのソファで眠ってるから、大きな声を出さないで」と言われたことがありました。

　その後、私は転勤してすぐ入院が決まり、5月に手術し、1か月ほど入院していました。その後、家を新築したら、駅の向こう側に、ゴッドマザー学年主任の前任の学年主任がお住まいと分かり、お招きを受けました。世界史の先生だけあって、調度品がヨーロピアンでした。
　その時、言われたのですが、「Ｕさんのお葬式に何で来なかったの？」
　私は亡くなったことも知らなかったので、大変驚きました。
「葬儀の連絡はあったでしょう？」と言われて、そう言えば、と思い、
「工業高校には普通科の案内が入らないのかも知れません」と言いました。
「それにしたって、誰かから連絡ぐらい……」とずいぶん追及されるので、この様子だと、Ｕ氏に因縁があって来なかったなどと、また何か悪口が回っているんだなあ、とその世界史の先生の兼高薫さんに少し似たお顔が曇っているのを見て思っていたのですが、ふとアニメの一休さん並みにアタマが『ぽくぽくぽく、チーン』となって、解を得ました。
「それ、いつ頃の話ですか？」聞けば、やはり私の入院中の出来事でした。

　Ｕ氏は、授業中に教壇で倒れ、救急車は、携帯電話で生徒が呼んだのだ、と聞きました。

　教職員は基本、管理職しか救急車を呼べないので、Ｕ氏にとっては幸いでしたが、残念ながら間に合わなかったわけです。
　人を呪わば穴二つ、ですかね。私も手術の際、麻酔で花畑を見ましたよ。