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異世界との繋がりかた〜ある短編映画プロジェクトの話

 2024年ゴールデンウィークの前半戦、私は京都に行ってきました。目的は観光――ではなく、とある映画の上映会に参加することでした。

 さかのぼること昨年の夏。ひょんなことがきっかけで私はひとつのクラウドファンディングを支援することを決めました。

 それは、風来漢あきさん(以下、あきさん)という映像作家による短編映画の自主制作プロジェクトでした。

 映画の原作は、私も大好きな作家さんの短編集の一編。大資本に頼らず、「ただ自分の好きなものを作りたい」という思いひとつで協力を呼びかけるあきさんの真摯な姿勢に感銘を受けました。

 そして、今春、40分弱の短編映画がとうとう完成したという知らせを受けて、私は上映会に参加するため京都は出町座に向かったのでした。

 映画制作の模様は映画公式のインスタに詳細にアップされています。


 その映画のタイトルは、

 BLEND#1974

「BLEND#1974」公式ポスター

 綺麗な場所には差別もまたある。
 1974年、京都。
 清水寺の足元、法隆寺の五重の塔が望める産寧坂を少し外れた所に下宿している浪人生のサトル。大好きな京都の街並みを歩き、路面電車を乗り継いで京大北門前にある老舗の喫茶店に通う。
 毎日午後3時頃に必ずいる京大医学部の御手洗潔に会い彼の話を聞くために足繁く通う日々。
 ある日、風邪気味だというサトルに、御手洗は外国で手に入れた喉スプレーを試すよう促し手渡す。喉にしみるスプレーの味をゆっくりと飲み込むと、黙り込んでしまうサトル。
 そして、サトルは自分の生まれ故郷である日本海に面した漁港の町での思い出を語り出す。
 それは小さく閉ざされた地方で苦悩する少年が体験した物語だった。

映画「BLEND#1974」リーフレットより

 原作は、島田荘司さん「御手洗潔と進々堂珈琲」(新潮社)収録の短編「進々堂ブレンド1974」です。


 映画の感想はあえて多くは語りません。

 ひとりの若者のほろ苦い恋が70年代の懐かしい空気をまといながら静かに語られます。劇中のサトルという青年は大人と子供の境界線上にいます。そんなサトルに御手洗潔は優しい言葉で大人の世界の機微を説きます。
 
 国も人間も互いの関係性はますます複雑になっていく社会です。そんなこれからの時代を生きる若者にこそ観てもらいたい作品だと思いました。そして、大人は、無垢だったかつての自分を思い起こしながら。

 映画終了後は、監督のあきさん、原作者の島田さん、そして、御手洗潔役の両角楓さんのトークショーも。

京都上映会の様子

 今回、私は上映会の前日から京都に入り、監督のあきさんの紹介により、映画制作に携わった多くの素敵な人たちと交流を持たせていただきました。

 理知的で国際性と創造性に富むプロフェッショナルたちと同じ時間を過ごし、たった2日間とはいえ、私にとってそれはまさに非日常でした。気忙しい日常から距離を置き、立ち止まって様々なことを考えさせられる機会になりました。

 現在の仕事や生活に大きな不満は無いものの、思えば元々はもっとクリエイティブな仕事に従事したかったという気持ちはあったのかもしれません。

 もちろん自分の人生ですから何歳になっても新しい挑戦は可能です。あるいは、そもそもこうして文章を紡ぐことだってひとつの立派な創造――クリエイトだという見かたも出来ます。

 とはいえ、今から中年の私が映像の世界をいちから勉強して飛び込むというのは、それはさすがに無理とは言いませんがいささか現実的でないというのも事実です。

 ただ、今回、私はたまたまひとつのクラウドファンディングをきっかけに映像作家のあきさんをはじめクリエイティブな世界に生きる人たちとご縁を得ました。

 そこで思ったわけです。

 現代は、その気にさえなれば非常に多くのオプション――選択肢が用意された時代です。

 年齢を重ねて、既に遠いと思っていた映画・映像やデザインの世界ともこういう繋がりかた、関わりかたがあるのだと。

 ささやかだけど、これもひとつの繋がりかた。
 
 はじめからそこまで意図してこのクラウドファンディングを支援したわけではないのですが。

 今回、気付かされたように多様な手段で時おり知らない世界と足元の日常を行き来しながら、私は私なりに出来るクリエイティビティをこれからも追求しよう。

 京都での2日間を振り返って、帰路、そんなふうに思いました。



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