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月の珊瑚(レビュー/読書感想文)

月の珊瑚(奈須きのこ)
を読みました。2011年の作。

空に水。
水に空。
月の空には砕け散った海がある。
奈須きのこ史上、最も叙情詩的な
ラブストーリー。
西暦すらとうに失われた遠い未来の地球。
高度な文明を築き上げた人類はしかし、
発展と成長への意欲を喪い、
静かな存亡の危機に立たされていた……。
地球と月。
ふたつの星をめぐる未来の愛の物語は、
満月の夜に光かがやく珊瑚の島から始まる——。

星海社「月の珊瑚」特設サイトより(上記リンク)

声優・坂本真綾さんの朗読CD付きのパッケージですが、この感想文では奈須きのこさんの小説についてのみ書くことにします。

さて。
日頃、本をよく読む皆さんの中には、きっと「私は、この作家さんの書く文章が好き」という意見を持っている人も少なくないと思います。

その点、私は、奈須きのこさんの書く「文章」が好きなのです。「物語」が好きというのとも微妙にニュアンスが違います。作家の紡ぐ「物語」の好みという物差しであれば、より贔屓にしている作家さんも正直います。

奈須きのこさんについては、奈須さんの「物語」はもちろん好きなのですが、それよりも「文章」が好きだというほうが自分の感情にしっくりくるのです。

奈須きのこさんの紹介は不要でしょうか。

ゲームソフトメーカー「TYPE-MOON」所属のシナリオライターさんです。ゲームタイトル「Fate」のメーカーとして有名ですよね。

ただ、私にとっては、20年以上前になりますが、奈須きのこさんが同人活動をしていた頃の作品である、
・月姫(同人ノベルゲーム)
・空の境界(同人小説)
が世代的にど真ん中で今でも忘れられない作品です。年齢がバレますね。

その後の、奈須きのこさん、それに「TYPE-MOON」の躍進は言うまでもなく、上記作品についてもいずれも後に商業作品として発売されています。

「空の境界」は、漫画・アニメにもなっていますが、やはり小説版が自分にとっては印象が強く、今でも時々本棚から取ってパラパラとページを繰るほどです。伝奇小説とでも呼ぶべきジャンルを初めて意識させられた作品です。ちなみに私が持っているのは講談社ノベルス版です。

今も、「TYPE-MOON」のゲームが若い人の心を惹き付けていて、奈須きのこさんがそれらのシナリオライターとして筆を取っているということは認識しています。ただ、私はゲームを今はほとんどしないので、奈須さんの紡ぐ「物語」に触れる機会はありません。

先日、ふと、本棚にある「空の境界」の背表紙が視界に入り、「そういえば、自分がまだ読んでいない奈須さんの小説は無いのかな?」と思いたち、さっそくネットでリサーチ→発見→購入したというのが、今回、「月の珊瑚」を読んだきっかけです。

前置きが長い!!

ということで、「月の珊瑚」です。

遠い未来の月と地球が舞台。既に地球上で人の歴史は終わりつつあり、あとはゆるやかに滅びの時を待つのみ。そんななか、お姫さん(おひいさん)と呼ばれる少女はひっきりなしに訪れる求婚者たちを次々と追い返している。ある日、少女はブリキで出来た宇宙服を着た小さな商人と出会う。商人から足りない物資として「物語」を求められた少女は祖母から聞かされたという昔話を教えることにした。

こんなあらすじです。

かぐや姫はモチーフとして取り入れられているようですし、奈須きのこ版「現代の童話」といった仕上がりです。イラスト入りで80ページ程度。物語の構成も至ってコンパクトかつシンプルです。にも関わらず実際以上に厚みを覚えるのはどうしてでしょう。没入させられます。物語単体としての魅力だけでなく、きっと作者の書く文章と読者との相性が良いと相乗効果が起こるのでしょうね。

小説のジャンルとしては「空の境界」のような尖ったお話が個人的にはやはり好みです。が、たまにはSFラブストーリーも良いですね。全編に漂う退廃的な雰囲気は人によってはスパイスでしょうが、これも奈須きのこさん節です。久しぶりに堪能出来ました。

ゲームをやらない人間の個人的かつ一方的な願望ですが、是非また奈須きのこさんのオリジナル小説が出版されることを期待しています。

それにしても、同人活動から始まって、現在の一般での知名度を思うと、本当にすごい…。私は寡聞にして存じませんがこういうケースって最近もあるのですかね。


#読書感想文
#奈須きのこ
#TYPE-MOON


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