見出し画像

【1. 出雲大社(島根県出雲市) レイラインツアー2023〜祈りの御来光道】

第1日目 2023年3月14日(火)
☆ルート:出雲大社JR出雲市駅〜稲佐の浜〜出雲大社〜松江城〜大根島〜皆生温泉 89.3km
☆宿泊地:皆生かいけ風雅ホテル
☆参加者:蕎麦宗・矢部周作・手塚博文 


特急やくも

   岡山駅から特急《やくも》にて出雲市駅へと向かう。新見駅を過ぎた辺りから徐々に近づいてくる白き山、それが大山で《伯耆富士》の別名の通り富士山にそっくりな山容だ。
 その頂を横目に見ながら米子・松江と停車して終点へと特急は進む。しかし、信号事故の影響で途中駅で緊急停車。その影響で15分ほど遅れての到着となった。その後の特急は全て運休となったから、間一髪。ほんの少し時間がズレていたならば、ここまで辿り着けなかったかも知れない。
 出雲市駅には、大阪からクルマで向かった矢部君は既に到着済みで、初日の撮影係を買って出てくれた藤川さんと共に待っていてくれた。輪行袋を抱えた僕らに気が付いて駆け寄ってくる二人と挨拶を交わす。矢部君とは久しぶり、藤川さんとは初の対面となった。

 輪行袋からロードバイクを取り出し組み立てる。それと共に、不慣れな*ゴープロのセッティングを試みるのだが、いかんせんガジェットに弱いアナログ人間な僕と手塚では埒があかない。ところが矢部君も藤川さんも同様だった。レースや走りを主眼とするライダーには、映像や機器への興味は共存しないのかもしれない。
 結局、矢部車にはパーツや荷物の事情で、カメラを取り付けることが出来なかった。今回の旅路の映像記録はなんとかして残したいので、心許ないまま僕ら2台に設置して出雲市駅を出発。最初の目的地は稲佐の浜である。
*ゴープロ…アクション用の高性能ビデオカメラ

車窓からの伯耆大山
出雲市駅
アナログ三人衆がガジェットに苦戦

稲佐の浜

『どのルートで行きます?』

関西弁のイントネーションに乗せて!矢部君が尋ねる。

『あ、ごめん、ざっくりしか分からん』

詳細な地図検索をせずルートの緻密な計画も立てていないのは、いつものチャリ鉄旅の如し。でも、今回のこの旅は僕一人ではない。この旅が僕らと走るはじめてのライドとなる矢部君は、さぞかし不安だったろう。実力も癖も、それどころか初対面に近いくらいお互いのキャラクターを知らない。けれど、勝手知ったる手塚君は

『僕は地理音痴なので丸投げです。その分文句は言いません、任せるという選択は僕の責任なので』

と、いつも通り。彼のその感覚が好きだ。
 そしてこれは、例え話としても示唆を含む。世の中の全員がすべての《道》を決めらる能力を持ち合わせてはいない。とすると『誰か』を選んで付いて行くことになる。その『誰か』を選んだ責は当人が負うべきこと。仮に間違いだったとしても、選んだあなたに責任はある。

 この7日間の区間で、僕にとって全く未知な道は3日目前半と4日目。矢部君は大阪在住なので『西日本の事情には多少は明るい』と打ち合わせていたのと、おそらく先頭を引く役目はほぼ彼になるので、任せる事に決めていた。結果、見事に4日目の南木曽町までその任務を果たしてくれることとなるのだが、勝手に背負わされた彼は戸惑ったに違いない。すまんのう。

『スタートは宗さん先頭でお願いします』

 そんな風に出雲市駅前をスタートして稲佐の浜に着いたのは、予定よりも1時間以上遅れていた。藤川さんも撮影しがてら自転車3人組を見送ってクルマに乗り込む。さぁ、旅の始まりだ。

 日本中が神無月かんなつきと呼ばれる10月。ここ出雲だけは神在月と呼ばれ、旧暦の10月10日には全国の神々がこの稲佐の浜に降り立って出雲大社に集まるとされている。
 
『この浜辺で、龍神様に連れられて船を寄せ、そぞろ降り立つ神々を確かに見た、そこから信心深くなったの…』

と、クラファンメンバーの《神戸さえ》氏がラジオ収録の打ち合わせ時に話していたのを思い出した。
 地形からしても、ここが港だった事はすぐに理解わかるし、神社が灯台と同じ役割を果たしていたという説もある。時空を超えて、その光景と記憶とが繋がったんだとしたら、疑う余地は全くない。

ぎこちなくスタート
稲佐の浜

出雲大社

 稲佐の浜にてスタート挨拶の動画を撮って、グループLINEの《旅の同行者達》に送ると、皆さんから激励を頂いた。その声に冒険の始まる気分はますます高揚した。脳内に流れる《ドラゴンクエストのテーマ》。そして最初に訪れるダンジョン、じゃなかったパワースポットが出雲大社だ。

 出雲大社は大国主命を祀り、伊勢神宮に次ぐ別格のやしろなのは語るまでもなく、拝殿の大しめ縄をはじめ、兎に角全てが巨大なスケールで出来ているのが特徴で、いにしえの社殿は高さ48mにも及ぶ木造の大神殿だった事が、近年の発掘調査により明らかになっている。

 *記紀の国譲り神話からして、おそらく強大な王国がこの地を中心に在って、国家統一の流れの中で、封印され祀られたのだと考えられる。
 それは御神体が神殿の正面でなく西を向いていたり、内壁や他の神々の護衛で囲んでいる事などからも推測出来る。ゆえに俗説では伊勢との不仲が囁かれることもあり、でも僕は、その伊勢神宮大麻を8体も背中に背負って参拝をしているのだった。果たして、本当にタブーなのか。否、日本の神々は争いなどするわけがなく、平和と融和のもとにあるのか。

 そんなことを矢部君と手塚君の2人に説明して境内を歩き回った。八百万やおよろずの神の社が周囲を囲み、奥には父神である素戔嗚尊スサノオノミコトの社殿もある。と、詳しいのは当然で、僕は12年前に何度もここを訪れている。その頃も、ここはとても落ち着く所だとワケもなく感じていた。伊勢神宮には全く興味を持たず、50年以上生きていて、はじめて行ったのはつい最近のこと。ご先祖からの古い記憶に何かあるのだろうか。

 参拝を一通り終えた後、御朱印帳の記入とお札8体を受けた。こうして集める神社大麻を重ねて、レイライン上の東端にある上総一宮越しの朝陽にかざすのが今回の旅を〆る儀式で、それをもってクラウドファンディングの返礼とする、としたからである。
 なのでたった今、僕のリュックサックに伊勢と出雲の大麻が重なり合って入っている。俗説がふと頭によぎった。大社脇の出雲蕎麦屋で軽く昼食を済ませて出発する頃には忘れていたけれど、数日後に不可思議な事が起きる事を、この時の僕はまだ知らない。
*記紀…古事記と日本書紀

出雲大社
北側から社殿
拝殿の大しめ縄
お札と御朱印を受ける

宍道湖と中海

 出雲大社を経ってからは、国道431号をひた走った。幸い追い風も手伝って、トレインは*LSD強度なのに38km/hほど。もっともそれは2番手を着き位置にした自分事で、*機関車矢部君と最後尾の手塚君のおかげ。このレイライツアーの即席トレインは《蕎麦宗》をゴールまで確実に運ぶのが使命、と2人にはお願いしてあった。さしずめ僕はグランツールでいうところのエース、彼らはアシスト。ありがたい。

 西陽を浴びてキラキラと光る宍道湖を横目に、少しずつ近づいてくる島根県都・松江。遠く伯耆大山も望みながら、城下町へと滑り込む。松江城の前で記念撮影をして県道260号へと移り、中海に浮かぶ大根島を目指す。この道、広々としてずいぶんと走りやすかった。
 市街と丘を超えた頃に見えてくるのは中海。埋め立てで造られた橋のような直線道路を行く。朝鮮人参と牡丹で有名なこの島は、亡き妻と三度脚を運んだ出雲旅の拠点として、宿泊地に使った事がある。小さな火山島の緩やかな坂を上るうちに、在りし日の想い出が浮かんで目頭が潤んだ。懐かしいカフェ《チェレステ》や夕飯の食材を仕入れた地元スーパー、そして当時と変わらぬ町並み。今日は素通りしているこの場所にも、また訪れたいとの想いを抱きながら、緩やかな坂道を下り始める。麦畑の向こうに江島大橋が見えてきた。

 航行する船をかわすために背高のっぽに建造されたこの橋は、上り口から眺めると天まで昇る激坂に見えることから、《映えスポット》としてCMで有名になった。ぜひ自転車で渡ってみたいと、この大根島ルートを選んだのだった。実際の勾配は5%ほどなので、さほど急坂なわけではない。
 それでもこの坂道は、矢部君の次元の異なる走りの片鱗を垣間見せた。流して走る彼の後ろでも息は上がる。彼国内の名だたるアマチュアクライミングレースで、優勝したり上位に食い込む一級品のクライマー。僕も2019年に出場した、世界一過酷といわれる《台湾KOM》で、2011年には総合3位になったこともある強者なのだ。

*LSD…最大心拍数の70%程に抑えた楽な強度で長い距離を走る練習方法
*機関車…自転車トレイン=連なって走る時の先頭の人。空気抵抗を受けるのでキツい。その強度を100%とすると後ろの人は60%ほど。

宍道湖
松江城
中海
江島大橋
天へと続くすごい坂?!

弓ヶ浜から皆生温泉

  出雲市駅から70kmほどで境港を通過。国道431号線を行く頃には、3人のトレインにも慣れてきた。それにしても機関車やべっちは安定している。

『矢部さんのペース、すごく走りやすいです』

と手塚君が絶賛した。信号明けの緩やかなスタートといい、段差のたびに丁寧に出される*ハンドサインといい、後ろに付いている客車達への細やかな気遣いが感じられる。実力差がある事は承知していたものの、彼の『踏まない』出力と、それを風除けにして『踏まずに済んでいる』僕らの出力は丁度釣り合っていたようだ。

 境港から米子まで連なる弓ヶ浜の松並木が左手に流れる。二つの湖越しの、遙か遠くにあった伯耆大山は、すぐ眼前に大きくデンと構えている。皆生温泉はもうすぐそこだ。やがて初日の宿泊地に選んだ温泉宿《皆生風雅》に無事到着。先回りしてカメラを構えてくれた藤川さんとは、ここでお別れ。撮影ありがとうございました。
 今日は89kmをほぼ*脚は使わずにアベレージ28km/h。速い。旅は始まったばかりだし、先はまだまだ長いのでスローペースにしては上出来過ぎる。幸先の良いスタートがきれた。
 
 こうしてレイラインツアー2023は、こともなく初日を終える事が出来たのだった。

*ハンドサイン…トレイン後方の人は前方視界が少ないので、それを伝えるためのもの。
*脚を使う…持続可能な運動強度を超えること

皆生温泉《皆生風雅》
阿闍梨からの精麻ミサンガ


第①日目のGPSログデータ

#祈りの旅  #挑戦 #レイライン #自転車の旅 #チャレンジ精神 #商売繁盛   #出雲大社 #大神山神社 #元伊勢皇大神社 #琵琶湖 #竹生島神社 #富士山 #富士浅間大社 #寒川神社 #日本橋 #玉前神社 #note書き初め #この春チャレンジしたいこと



読んでくれてありがとう。少しはお役に立てたかな⁉︎。聞きたいことあったら、ぜひ質問くださいな。もし楽しい気持ちになれたなら、ほんの少しだけ応援ヨロシクです。