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「レペゼン地球」さん騒動|株式をめぐる戦い。裁判って契約書がないともうダメなの?

今日は、インターネット上で大変な人気を博している音楽グループ「レペゼン地球(現:Repezen Fox)」さんの話題に沿って、会社法の話をしようと思います。結構、大事なエッセンスを学ぶことのできる事案だと思います。

1:事件の概要

レペゼン地球の代表をしている「DJ社長さん」が、下積み時代に数千万の借金を背負ってしまっていた2015年。当時お付き合いのあったHさんたち2名がスポンサーとなって、100万円を出資してくれて「株式会社Life Group」と言う会社がつくられました。その会社が主体となってこれまでレペゼン地球は活動をしてきたわけですが・・・・

「DJ社長さん」によれば、その会社の株式については、借金を返し終えた段階で「DJ社長さんが、Hさんたちの元々出資額で買い取る」ことになっていたという口約束があったということなのです。しかし契約書はなく、いざ買い戻そうとした段階で「そんな約束はない/いや、あっただろ」とトラブルになって、最終的にはHさんと対立関係になってしまい、著作権などの権利の関係で、去年の終わりにグループの解散や改名を余儀なくされてしまったということです。

この株式をめぐる問題。実は、ベンチャーなどにおける「典型的なトラブル」だったりします。

2:会社(法)の仕組み

会社っていうのは「誰が代表か、社長か」ということとは別に「誰が株式を持っているか」という「オーナーシップ」の問題があるんですよね。

個人事業が大きくなるなどして一人で会社を作るときは、その人が「全ての株を持つ株主」になり、同時に「代表取締役、社長」になります。そうすると「権限は一人に集中」しているので、深刻な利害の対立が起こることはあまりありません。しかし今回の様に、二人以上の人が株主になったりすると、どうしたって思惑がすれ違うことが起こるんですね。

ちなみに、この利害対立というのは「会社の事業がうまくいってないとき」はあまり起こりません。株式の価値、つまり、会社のオーナーであることの意味は「会社の事業に経済的がなければ、ただの名目」ですから、そんな状態で「会社のオーナーはだれか」みたいな議論をしても、あんまり意味はないからですね。

そういうこともあって、会社の立ち上げ時には、この辺の大事さってあまり意識されないんですよね。

ただ、事業がうまくいって、会社に様々な価値が帰属する様になる、今回で言えば「レペゼン地球の興行収入や著作権収入」が入ってくる様になると事情が変わります。そうなると会社のオーナーシップの価値、つまり株式をもっていること価値というのは、当初の投資価値の100倍とか1000倍、時には1万倍以上にも膨れ上がります。

会社のオーナーシップを持っていれば、すなわち、先程言った様な収入を自分のものにできることを意味しますからね。当初あまり大事だと意識してなかったものが、急に価値を帯びてきて、その帰属をめぐってガチのトラブルになったりするんですね。

3:今回のトラブルの原点

今回の具体的なトラブルというのは、最初に会社を作った際に、代表のDJ社長さんにはお金がなくて「借金取りに追われている様な状況」だったことにスタートがあります。そこで「会社と個人のお金は別」というルールを利用して、活動のためのお金を差し押さえられないように「会社」という個人とは別の器を作ることにしたわけです。

この時はDJ社長さんはお金がなかったので、とりあえずH氏らがスポンサーになって資本金100万円を出したようです。DJ社長さんの主張によれば、このときに「事業がうまくいって、借金も返してお金ができたら、DJ社長が最初の額面でHさんたちから株式を買い取る」という約束をしたということですね。

ただ、こういう株式をめぐる約束っていうのは、株式に当初の投資額をはるかに上回る様な価値が出てくると、約束があったとしても、当初の金額では「手放すのが惜しくなる」ものですから人情ですから、どうしてもトラブルになりがちで。

なので、出資する人が複数になる様な状況では「株主間契約書」とか「株式譲渡に関する契約書」というのを作って、後日「言った、言わない」の問題にならない様に気をつけることが広く行われていたりします。

ちなみに口約束だって、契約は成立しますから、当事者がしっかりと覚えていて、その内容の通りの行動をするなら問題ないんですよ。実際、この件でもHさんの友人の持っていた49%の株式は、約束通り、当初の金額でDJ社長さんが買い取ったみたいですしね。

ただ、契約書みたいな書面がないと、後日、約束があったことの客観的な証明が難しくて、あとでごねる余地があるというか、トラブルになってしまうことがあるんですね。この辺が、他の方の解説などで「それを想定せずに行動するなんて経営者として甘い!」とDJ社長さんが突っ込まれている通りです。

4:裁判所はどう認定する?

では本件「DJ社長さんに勝ち目はないのか」というと、必ずしもそんなことはないと個人的には思っています。これから裁判に入るみたいですが、裁判所は「契約書がないので、買い戻しの約束は認められませんね」なんて、そんな形式的な判断をするわけじゃないからです。

「買い戻しの約束があったのか、なかったのか」という、鍵になる事実の認定をめぐっては、その他の状況との関係が考慮されるんですね。

たとえば、両者の間で多分争いがないと思われる「Bさんとの間ではそういう合意があって買い戻しが行われたという事実」は、Hさんとの間でもそういう合意があったことを推認させます。また「DJ社長さんたちの給与水準は会社の収益と比べるととても低くかったこと」も合意があって「いずれ自分が会社のオーナーになると思っていたから」受け入れていたと見ることができる様に見れます。

そもそも「会社のオーナーシップを将来得られる約束もない」のに、「他人の会社を主体にして、自分の事業を行う」ってことが、ありうるかってこともありますよね。もちろん「当時借金の返済に追われていた」ことは、オーナーシップが得られなくても、他人の会社を借りるくらいしか、活動継続の道がなかったという意味で、DJ社長さんの不利に働きそうな状況もありますけどね。

この辺りの周辺事実の認定を通じて、裁判所は「買い戻しの合意があったと考える方が物事の整合性を考えれば自然だ」と見れば、契約の存在を認定しますから、契約書がないから負け確定、なんてことはないんですよね。もちろん「契約書があれば、合意の立証はカンタン」なので、裁判を戦う上でのハードルはぐっと上がってしまっているのは事実なのですけどね。

5:他にも戦い方はある

また、他にも戦い方はいろいろあり得るところでもありまして。

たとえば、オーナーシップを買い取れないとわかっていたら、DJ社長さんたちは、この会社をもっと早く離れただろうと思うんですよね。だから、DJ社長さん等が「買い戻しの合意がない」にもかかわらず「株式をいずれ買い取れる」と思って、低額の賃金で頑張っていたとしたら、それは相手の勘違いを利用して、自分の収益を計ってたことになるじゃないですか。

それをなんとなく気がついていたのかもしれませんが、経理担当だったHさんも、収益状況をなかなか知らせなかったようなところも窺われる状況でもあって。これはこれで、詐欺とまでは言えなくても、一般的な取引の感覚からすればかなり逸脱した行為だと言えるわけで。

株式の買い戻し合意が認められなくても、こういうやりとり自体が認められれば、そこからの違法性が認定されて、損害賠償が認められる可能性もあるわけです。賠償金額はそうですね、情報をきちんと伝えられて、早めに状況がわかっていたならば、独立して独自に得ていたであろう金額っていうことで請求できるかもしれません。

6:裁判所は全体的なバランスを見る

そもそも、この会社の収益源というのは、やっぱりアーティストであるDJ社長さん等の活動にあるわけなんですよね。もちろん借金まみれだった当初の彼らに、会社を立ち上げる原資を用意して、動き出せる様にしたリスクテイクの価値は、Hさんに相応に認められて良いのでしょうけども。

だからといって、情報を隠して、アーティストから、一方的に収益を搾取することが認められているわけではない。裁判所は、そんな全体的な利益バランスも考慮するだろうと思います。

なので、個人的には、おそらく落とし所は「双方の主張の間くらい」にあるのかなという気がします。多分、裁判官は、双方の主張が出揃って、ある程度事案の経過が双方に判明してきた段階で、その線で「和解」を進めるんだろうと思います。

DJ社長さん側には「当初、借金まみれで困ってたんですよね。当時は、他人の会社を使うくらいしか方法はなかったんですよね。Hさんたちもあなたにかなりのリスクをとって投資したわけですよね。約束通りだとすると、その恩恵を彼らに一切分けないってことなんですか。」と、

そしてHさん側には「状況からすると、DJ社長さん等は、あなたの会社の利益のために、ずっーと活動してきたってことなんですかね。なんの利益分配の約束もなく、かなりの低賃金で。」「借金まみれの相手に手を差し伸べてリスクをとった、あなたは報われて然るべきという様な側面はあると思いますが、すでに会社から給与として受け取っている部分もある様ですし。。。」と、双方に譲歩を求めるでしょうね。

裁判官には「私がどちらに認定するとも限りませんよ」と、事実上双方に脅かしをかける権限がありますから、結構双方動揺するものです。訴訟費用もかけているところで、完全に負けてしまうのは、双方とも避けたいですからね。

ちなみに和解となれば「双方事件の顛末について口外しない」という約束もするでしょうから、最終的にどうだったのかは、通常、社会的に明らかになることはありません。

どこかで手を打ったのだな、という事実だけがただ報道されることになります。なので、私たちがこの事件の真相を知ることは、結局ないのかもしれません・・・

7:会社を作る時のポイントなど

以上、結構会社法のこととか、訴訟における事実認定のこととか、いろんなことが見えてくる事件だったのないでしょうか。

特に、これから会社を作ろうなんて思っている方は、最初から二人以上のケースでも、途中で、誰かの出資を受ける場合でも、オーナーが二人以上になる場合は押さえておくといい知識ですよ。

また「契約書がないと、もうダメだ」なんていうのも、ちょっと極端な話で、関係する状況が、関係者の証言やメールの記録などそのほかの証拠から立証できるんであれば、裁判所が事実認定で救ってくれる場合もあるということで、これも覚えておくといいポイントですね。

以上、今回は「レペゼン地球」さん事件から学ぶ会社法&「裁判は、契約書ある場合しか勝たん?」問題でした。

動画バージョンはこちらです^^


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