もがき苦しむ理想と現実のギャップ。繰り返される失点パターンを紐解く。

・土壇場で追いついてのドロー

 共に開幕からのスタートダッシュに失敗し、不振に喘ぐ両チーム。浮上のきっかけをつかむべく徳島に乗り込んだヴェルディであったが、この日も苦しい戦いを強いられる。
 互角の展開の中で迎えた54分、プレスがはまらず、きれいに崩されて開幕5戦連続で先制点を許す(この場面については後に詳しく述べる)。その後、選手交代によってシステムを変更し勢いづいたヴェルディは終了間際の90分、コーナーキックの流れから最後は李が押し込み、値千金の同点ゴールを奪う。昨年のリーグ戦の三ツ沢でのゴールを彷彿とさせる李“らしい”ゴールが生まれ一気に逆転といきたかったが、タイムアップ。勝ち点1を持ち帰る形になった。

・徳島の狙い

 両者のスターティングメンバ―と基本システムは以下の通りである。

 徳島の基本システムは3-4-3であったが、攻撃と守備で若干の可変システムを用いていた。攻撃時は3-5-1-1、守備時は5-4-1のような形だった。

 攻撃時の特徴としては以下のことがあげられる

・幅と深さをとる
・野村のフォロー
・3+1のビルドアップ

 リカルドロドリゲス体制3年目に突入した徳島ヴォルティスはポジショナルプレーの概念をいち早く導入しており、この日もその特徴をいかんなく発揮していた。
 攻撃時、5レーン理論に従ったポジショニングを徳島の選手達はとり、ある程度ポジションは固定的であった。両WBの藤田と杉本も高い位置をとり、幅を目一杯とった。このことで攻撃における幅を確保し、中央を固められたらサイドに展開し、サイドにスライドされたら、逆サイドが空いてくるといった相手の状況に応じてボールを動かすことができていた。これぞポジショナルプレーの持つ大きな特徴である。また、ヴェルディユース出身でトップチームでも活躍した杉本竜士は質的優位を持っており、ボールを持ったら常に仕掛けることでヴェルディ守備陣に脅威を与えていた。
 先程徳島の選手達のポジショニングは固定的だったと述べたが、一人だけ自由を与えられている選手がいた。それが、野村だ。野村は常に最終ラインと駆け引きをしている岸本のフォローに入ったり、中盤の組み立てに加わったりしていた。先制点もその野村の見事なスルーパスから生まれている。筆者としては、状況に応じて清武とポジションチェンジを行うことで清武のアタッキングサードへの侵入までサポートできるようになるとより攻撃に迫力が出てくるのではと感じた。
 ビルドアップは基本的に3+1で行われており、必要に応じて小西がサポートに入る形であったが、この日はヴェルディがアンカーの岩尾への対応が全くできていなかったため、ほとんどその必要はなかった。
 まとめると、徳島はポジショナルプレーの原則をもとにしたサッカーを展開したということだ。この日の徳島を例えるならば、アジアカップ決勝で日本を破ったカタールと非常によく似たサッカーといえるだろう。

 守備時は5-4-1のブロックを作り、ミドルゾーンまで撤退する。敵の様子を伺いつつ、シャドーに入る清武、あるいは野村のプレッシングを合図に最終ラインからスライドして人を捕まえてボールを奪いに行くディフェンスを展開する。

 図は前半8分のシーンである。近藤に岸本がプレッシャーをかけ、上福元へのバックパスを誘発する。そして、平にボールが入った途端、一気にスイッチが入る。清武がボランチの井上へのパスコースを分断しながら猛烈なプレッシャーをかけたのだ。たまらず、奈良輪へパスを送ると、徳島のDFはすでに最終ラインからスライドしマークすべき人間がはっきりしている状況に。ヴェルディもダイレクトパスとドリブルではがそうとするが、最後は端戸がバイスと田向に見事に挟まれタッチラインを割り、徳島ボールのスローインとなった。
 このようにシャドーのプレスをスイッチにして、最終ラインから人を積極的に捕まえに行くディフェンスが目立った。同サイドでの数的同数を作り出し、敵への激しいプレッシャーでスペースを奪い、ボールを奪いきる。同様の場面は特に前半に多く見られ、確認する限り前半16分、20分の場面も同じような奪われ方を喫している。

・ヴェルディの守備の狙い

 詳細はtadさんのブログで見てもらいたいが、徳島が自陣深くでボールを保持する際には、佐藤優平を1列上げて4-3-3で対応していた。しかし、小池や奈良輪が敵WBに対してプレスをかけないこと、またアンカーの岩尾への対応ができなかったことで容易にボールの前進を許す。前からプレスをかけるなら、徳島の心臓でもある岩尾へのプレスが必須だったのだが、中盤の中央では4対3の数的不利また、端戸が徳島の左CBをはっきりと捕まえ切れていないこともあり、中途半端なプレスとなってしまい、ビルドアップを牽制することもできていなかった。失点ももともとのミスはGKに蹴らせるべきシーンを端戸が左CBをフリーにしたことから始まっている。(後述)

 こうして、ボールの前進を許すと、4-4-2で撤退を試みた。しかし、敵が5レーンをしっかりと埋めているにも関わらずヴェルディは4バックで守るため、どちらかのサイドが空く格好になってしまう。特に杉本竜士の1vs1でのドリブルに手を焼いた。これを受け右サイドは小池が守備時は最終ラインまで戻り、5-3-2で守備をすることを選手の話し合いで決断する。(詳しくは小池選手のブログを読んでください!)しかし、突然の5-3-2システム変更に選手同士で完全には共有できなかったのか、左に重心が偏った5-3-2システムになってしまう。このことで左CBの内田がフリーになる場面が多くなる。ここでヴェルディは5バックの右CBである田村が最終ラインの内田に対して、牽制をすることにした。しかし、後半の立ち上がりの48分のピンチのように、空いたスペースを見事に岸本が使いだすことでヴェルディの守備陣は完全に後手を踏んでいた。

 この悪い流れの中ヴェルディは失点を喫することになる。この記事のメインテーマでもあるこの失点には今の守備の課題の全てが詰まっていると筆者は考えているため、最後に触れることにする。
 失点後はヴェルディが選手交代、システム変更により前への圧力を強めたこと、向かい風の影響を考え、徳島が割り切って守備ブロックを敷いたことで徳島を押し込むことに成功した。この流れのなか、土壇場で李のゴールで勝ち点1をもぎ取るのだが、守備時の狙いどころの共有は未だできていないように筆者には思える。

・深刻なネガトラと光が見える攻撃

 ネガトラの局面での攻守の切り替えの遅さは目立つ。これまでのようなポジションを整えた守備に移行するのではなく、即時奪回を志すならこの切り替えの遅さは致命傷である。前半36分の井上潮音の切り替えの遅さなど多くの場面で悪い意味で目立っている。
 攻撃の局面では右の小池の縦への突破の推進力はもはやヴェルディには欠かせない武器になっている。また、端戸がフリーマンのように前線から中盤に降りてきてゲームメイクに、攻撃のアクセントを加えることも同様である。しかし、このゲームでは左の奈良輪が高い位置を取ることができなかった。ゾーン1でのビルドアップの局面とアタッキングサードに関わっていく2つの役割は可変システムを採用するのであれば不可欠な要素であるが、現状では少々タスクが多すぎるのかもしれない。実際、3-1-4-2システムにしたことで個々のタスクがより明確になり、攻撃のポジション取りがスムーズになった。3-1-4-2システムは現状の課題を打破する一つの解決策に十分に成り得る。
 ビルドアップは体の向きやパスの角度、ポジショニングで解決できるミスも多く見られた。こうした要素は意識、またコンディションが上がってくれば解決できるのでは、と筆者は考える。この時期でのコンディション不良も大きな問題なのだが、怪我人が相次いで出たチーム状況を鑑みると仕方がないのかもしれない。

・課題の本質が詰まった失点シーン

 ここで本題である失点シーンを深く読み解いていきたい。

 この失点シーンには以下の3つのミスがある。

① 端戸が左CBをフリーにさせた
② あれだけのプレスをかいくぐられた
③ DFラインには人数が足りていたが、あっけなくやられてしまった

① 端戸が左CBをフリーにさせた

 この失点の基点は敵GKからのビルドアップである。敵GKの梶川がボールを持った際、ヴェルディは4-3-3のような形でGKにロングパスを誘発しようとした。これをうけ、梶川は少し右にボールを運んだ。このことで端戸はGKに蹴るものだと判断し、左の内田へのパスコースを開けた。すべてはここから始まってしまったことになる。
 このこと自体はあまり大げさではないのではと思う読者もいるだろう。しかし、このことは「取りどころの共有」ができていないことを示唆するのだ。本ブログでも何度も述べたように取りどころは未だにはっきりしない。そのうえ、意識の共有もできていないことも分かる。今ケースでは、ヴェルディの守備陣は蹴らせたかったにも関わらず、パスコースを開けるという些細なミスではあるが、蹴らせるというミッションに失敗したのだ。

② あれだけのプレスをかいくぐられた

 その後、端戸がすぐに猛烈なプレスをかけたことで、右サイドで完全なる数的同数を作り、ボールを奪う条件を整えることができた。後ろも端戸のプレスに連動したことは評価したい。しかし、これだけ有利な条件が揃っていたにも関わらず、奪いきれなかった。これはひとえに「インテンシティ不足」である。ボールを奪いに行ける状況を作り出してもそれに対してのパワーが足りなければボールなど奪いに行けるはずもない。改めて「インテンシティ不足」を反省し、今後の練習、試合で体得していかなければならない。もう、去年までのような「ミス待ち守備」ではないことを肝に銘じる必要がある。

③ DFラインには人数が足りていたが、あっけなくやられてしまった

ここまで完全に後手に回った守備対応だが、DFラインにはまだ3枚残っていた。しかし、結果はあっけなく、スルーパスを通されてしまい、見事にキーパーまで交わされゴールを決められてしまった。ここが去年までの守備との大きな違いかつサポーターが不満に思っているのかもしれない。「守備が忍耐強く守れない」。昨シーズンまでも多くのピンチがあったが、体を張ったプレーやシュートブロックで失点を防いできた。それに比べ、今季は何となく決められてしまう場面が多くみられる。これは試合に勝利するという自信が解決してくれるのではないか。ここまでは5試合連続で先制点を許し、どこか昨シーズンのような守備の自信が感じられない。そのためにも、なんとしてもクリーンシートでの勝利が欲しい。

 まとめると、「取りどころの共有」「インテンシティ不足」「守備の忍耐強さ」という今季の守備を象徴する3つのキーワードが浮かび上がってくることが分かる。失点という高い授業料を払ってどこまで選手達が成長することができるのか、今後に期待したい。

・まとめ

 開幕5戦で1勝1分3敗。完全なるスタートダッシュの失敗である。しかし、その内容は1戦1戦良くなってきている。攻撃は昨シーズンよりもむしろ面白くなってきているともいえる。問題は守備。が、厄介なことに守備組織は大分構築されてきている。すなわち、失点シーンのようなボールを奪いに行く形を作り出すこと自体は徐々にできてきているということだ。故に、問題の本質は個人戦術。選手一人一人が2年間やってきた守備のやり方を忘れ、インテンシティをどこまで高められるのか。いくら監督が指示をしても選手が実践しなければそれには何も意味がない。責任は監督というより選手にある。今のヴェルディを見ていると筆者はこう考える。「個」の成長なくして、チームの進化はない。シーズンの中で殻を破る選手が出てくるまでは我慢の時なのかもしれない。